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10年越しの愛に、もう一度名前をつけるなら___  作者: きなこ


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それから。


 夏希は変わっていった。


 笑わなくなった。


 食事もまともに取らない。





 夜になると、失った子のことを思い出して泣く。





 そして。


 司の身勝手な行動によって、夏希は再び妊娠した。






 今度は。


 司との子だった。




 妊娠が分かったとき。






 夏希は喜ばなかった。


「……嫌」



 お腹を抱えて震える。


「どうして……」





 司は何も言えない。




 自分の子。


 待ち望んでいたはずのもの。




 けれど。


 今の夏希にとって、それは幸福の象徴ではなかった。






 恐怖そのものだった。





 それから夏希の精神状態は、さらに不安定になった。





 一人になるとパニックになる。


 夜になると泣く。




 司が部屋から出ようとすると、必死に服を掴む。


「……行かないで」




「夏希」


「お願い……」


「ここにいる」


「置いていかないで……」




 司は動けなくなった。




「司さんがいないと……怖い」





 以前なら。


 その言葉を聞いて喜んでいたかもしれない。


 ――俺が必要なんだ。




 そう思っていたかもしれない。



 でも。





 今の司には分かっていた。


 夏希が自分を求めているのは、純粋な愛だけではない。





 恐怖から逃れるため。




 自分がそばにいることで安心しようとしている。




 自分自身が夏希を追い詰めた結果、生まれた依存だった。






「……ごめん」


 司は何度も謝った。






 夏希は司の胸元に顔を埋めた。




「怖い……」


「大丈夫」


「司さん……」


「ああ」


「どこにも行かないで」


「今はここにいる」




 司は夏希を抱きしめながら。




 自分が一番守りたかったはずの女性を、自分自身が壊してしまったことを思い知った。

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