7
その日。
司は夏希を無理やり連れ戻した。
美桜とは離されないようにしたものの、夏希自身の自由は奪われた。
神崎家。
かつて二人が夫婦として暮らしていた場所。
けれど今の夏希にとっては、牢獄だった。
「出して……」
扉の前で何度も言った。
「ここから出して」
司は答えなかった。
「裕翔に連絡させて」
「できない」
「お願い……」
「無理だ」
「どうして……」
「またお前を失いたくない」
「だから閉じ込めるの?」
司は答えられなかった。
その沈黙こそが答えだった。
夏希は少しずつ弱っていった。
外へ出られない。
裕翔の声も聞けない。
自分がどうなっているのかさえ、分からなくなる。
そんなある日。
夏希は突然、強い吐き気を覚えた。
「……気持ち悪い」
食事も取れなくなった。
司が病院へ連れて行く。
検査の結果。
医師は静かに告げた。
「妊娠しています」
夏希の顔が青ざめた。
司に知られてはいけなかった。
「そんな……」
司も言葉を失った。
けれど。
夏希の中に新しい命が宿っているのは事実だった。
その子が誰の子なのか。
夏希には分かっていた。
裕翔との子だった。
神崎家へ連れ戻される前。
裕翔と二人で未来を話していた頃に授かった子。
まだ小さかったけれど。
確かに存在している。
夏希は、お腹をそっと押さえた。
司の胸に、強烈な嫉妬が走る。
けれど何も言えなかった。
その子には何の罪もない。
夏希はその子を守りたかった。
しかし。
監禁生活による強いストレス。
心身の消耗。
度重なる体調不良。
夏希の身体は限界に近づいていった。
ある夜。
激しい腹痛に襲われた。
「……痛い……」
司が駆けつける。
「夏希!」
病院へ運ばれた。
赤ちゃんは助からなかった。
「……嫌」
医師の説明を聞いた夏希は、呆然としていた。
「この子……裕翔との子なの」
涙が一筋落ちる。
「ずっと……守りたかったのに」
司は何も言えなかった。
自分が夏希をここへ連れ戻さなければ。
自分が自由を奪わなければ。
もしかしたら。
この子は生きていたのかもしれない。
「……ごめん」
司が呟く。
けれど夏希は司を見なかった。
「返して……」
「夏希……」
「私の赤ちゃんを返してよ……」
司は、その言葉に何も返せなかった。




