6
それから司は、二年間。
夏希を探し続けた。
妻を取り戻したかった。
娘に会いたかった。
けれど。
二年が過ぎる頃には。
ただ、夏希が生きていてくれればいいと思うようになった。
自分のところへ戻らなくてもいい。
幸せなら、それでいい。
そう思えるようになった頃。
夏希を見つけた。
司は、二年間探し続けた答えを目の前に突きつけられた気がした。
海の見える小さな町。
そこに、夏希はいた。
隣には裕翔。
そして、小さな美桜。
夏希は笑っていた。
司と暮らしていた十年間、一度も見せてくれなかったような笑顔だった。
「……夏希」
その声に、夏希が振り返る。
笑顔が消えた。
「……司さん」
怯えたような目。
それだけで、司の胸は締め付けられた。
本当なら。
ここで謝るべきだった。
無事だったことを喜ぶべきだった。
自分から逃げた夏希の意思を尊重するべきだった。
けれど。
司の視線が裕翔へ向いた瞬間。
胸の奥に、醜い感情が湧き上がった。
――こいつと暮らしていたのか。
――俺ではなく。
「帰るぞ」
「……え?」
「神崎家へ帰る」
「嫌です」
夏希は即座に首を振った。
「私はもう戻りません」
「夏希」
「司さんとは終わったんです」
「俺は終わったなんて認めていない」
「でも私は認めた」
司の表情が固まる。
「……俺の娘もいる」
「美桜は私が育てる」
「俺の子でもある」
「だからって――」
夏希の言葉を遮るように、司は手を伸ばした。
「来い」
「嫌!」
夏希が後ろへ下がる。
裕翔が間に入った。
「彼女が嫌がっています」
「どけ」
「どきません」
司は裕翔を睨みつけた。
「これは夫婦の問題だ」
「あなたは彼女を二年間探し続けたんでしょう」
「……」
「だったら、やっと見つけた彼女をまた苦しめないでください」
正論だった。
けれど。
司には届かなかった。
夏希を失った二年間が、司の理性を壊していた。




