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司が帰国したとき。
夏希はもういなかった。
「……夏希?」
家の中は静まり返っていた。
司は最初、怒った。
「勝手に出ていくなんて……」
また自分の気を引こうとしている。
そう思っていた。
けれど。
一日。
二日。
一週間。
夏希は戻らなかった。
電話も繋がらない。
そこで初めて、司の中に不安が生まれた。
「……どこに行った」
使用人たちに聞いても、誰も知らない。
そんな中。
一人の使用人が言った。
「旦那様……」
「何だ」
「奥様は……妊娠されていたのではないでしょうか」
司は眉を寄せた。
「……は?」
「以前、病院へ通われているところを何度か……」
「そんなわけない」
即答だった。
「俺は、夏希とは……」
そこで司は言葉を止めた。
あの夜のことを覚えていない。
だからこそ。
妊娠という話を聞いても、結びつかなかった。
「俺の子なわけがない」
司はそう言った。
数日後。
夏希の部屋から妊婦健診の領収書が見つかった。
司の手が震えた。
日付を確認する。
自分が海外出張へ出る直前だった。
「……偶然だ」
そう言い聞かせた。
さらに調べると、夏希が一人で産婦人科へ通っていた記録が出てきた。
出産した病院も判明した。
司は病院へ向かった。
けれど、個人情報のため詳しいことは教えてもらえなかった。
ただ。
出産日だけが分かった。
その日付を見て。
司は息を呑んだ。
――自分が出張していた期間。
「……嘘だろ」
それでも、まだ認められなかった。
なぜなら。
自分には記憶がない。
夏希との間に子どもができるはずがない。
そう思っていた。
ところが。
司が信じていた三人の女性たちの嘘が、一つずつ崩れ始めた。
昔の使用人が証言した。
「奥様に嫌がらせをしていたのは、あの方たちです」
メッセージも出てきた。
偽造された写真も。
夏希に罪を着せるための証拠も。
一つ。
また一つ。
嘘が暴かれていく。
そして。
二人の子どもについてDNA鑑定が行われた。
結果。
司との親子関係は否定された。
司は書類を握りしめた。
「……俺の子じゃない」
そこで初めて。
司の頭に、一つの疑問が浮かんだ。
では。
夏希の子は?
あの夜。
自分が覚えていない夜。
「……まさか」
司は初めて、あの夜を必死に思い出そうとした。
断片的な記憶。
夏希の声。
彼女の姿。
そして翌朝の違和感。
司は震えた。
「俺と……夏希だったのか」
初めて。
すべてが一本に繋がった。
夏希が妊娠した時期。
自分の出張。
出産日。
そして。
あの夜。
「……俺の子だった」
その事実を理解した瞬間。
司は崩れ落ちた。
夏希は、自分の子どもを一人で産んだ。
自分には何も言わず。
自分から逃げるように。
「……俺は」
司の目から涙が落ちた。
「何をしてたんだ……」




