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10年越しの愛に、もう一度名前をつけるなら___  作者: きなこ


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5

司が帰国したとき。




夏希はもういなかった。


「……夏希?」




家の中は静まり返っていた。


司は最初、怒った。


「勝手に出ていくなんて……」


また自分の気を引こうとしている。


そう思っていた。




けれど。


一日。


二日。


一週間。




夏希は戻らなかった。


電話も繋がらない。




そこで初めて、司の中に不安が生まれた。


「……どこに行った」




使用人たちに聞いても、誰も知らない。




そんな中。



一人の使用人が言った。


「旦那様……」



「何だ」




「奥様は……妊娠されていたのではないでしょうか」




司は眉を寄せた。


「……は?」


「以前、病院へ通われているところを何度か……」




「そんなわけない」


即答だった。




「俺は、夏希とは……」




そこで司は言葉を止めた。



あの夜のことを覚えていない。




だからこそ。


妊娠という話を聞いても、結びつかなかった。




「俺の子なわけがない」


司はそう言った。







数日後。


夏希の部屋から妊婦健診の領収書が見つかった。


司の手が震えた。


日付を確認する。


自分が海外出張へ出る直前だった。





「……偶然だ」


そう言い聞かせた。




さらに調べると、夏希が一人で産婦人科へ通っていた記録が出てきた。




出産した病院も判明した。



司は病院へ向かった。



けれど、個人情報のため詳しいことは教えてもらえなかった。




ただ。


出産日だけが分かった。


その日付を見て。




司は息を呑んだ。


――自分が出張していた期間。


「……嘘だろ」


それでも、まだ認められなかった。





なぜなら。



自分には記憶がない。




夏希との間に子どもができるはずがない。




そう思っていた。


ところが。



司が信じていた三人の女性たちの嘘が、一つずつ崩れ始めた。




昔の使用人が証言した。




「奥様に嫌がらせをしていたのは、あの方たちです」




メッセージも出てきた。


偽造された写真も。


夏希に罪を着せるための証拠も。


一つ。


また一つ。




嘘が暴かれていく。




そして。


二人の子どもについてDNA鑑定が行われた。



結果。





司との親子関係は否定された。


司は書類を握りしめた。





「……俺の子じゃない」


そこで初めて。


司の頭に、一つの疑問が浮かんだ。





では。



夏希の子は?



あの夜。




自分が覚えていない夜。



「……まさか」



司は初めて、あの夜を必死に思い出そうとした。




断片的な記憶。


夏希の声。


彼女の姿。


そして翌朝の違和感。


司は震えた。



「俺と……夏希だったのか」




初めて。


すべてが一本に繋がった。


夏希が妊娠した時期。


自分の出張。


出産日。


そして。


あの夜。





「……俺の子だった」




その事実を理解した瞬間。



司は崩れ落ちた。




夏希は、自分の子どもを一人で産んだ。


自分には何も言わず。


自分から逃げるように。




「……俺は」



司の目から涙が落ちた。



「何をしてたんだ……」

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