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のんびり亭の見習い給仕  作者: しんた☆
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40/42

40 訴えられたネロ

「ミオ、すぐに確認するぞ。付いて来い」


 オーリーは夫人から受け取った手紙を確認すると、キッと眉を寄せて立ち上がった。


「夫人、ネロは絶対に救い出します。では、失礼」

「待ってください」


 夫人は急いで侍女に何かを取りに行かせると、小さな小箱が二つ届けられた。


「こちらをネロに。この地方に伝わる習慣で、初めての歯をお守りにするのです。これがネロので、こっちがウィリアムの。エリオットは、ウィリアムは事故で亡くなったと言うのですが、私には、あの子は生きているとしか思えなくて。先日ネロが久しぶりにここに来たときにも、何か言いたげにしていたから、もしかしたらウィリアムのことを何か知っているのかもしれないと思うのです。一緒にあの子に託してもらえないでしょうか」

「分かりました。お預かりします」


 ミオがふたつの小箱を大切に受け取ると、夫人はほっとした表情になって、オーリーに会釈した。急かされるまま、馬車に飛び乗ると、人気のない山間までは馬車移動となる。


 意識が戻らないままのネロに、当時の状況を説明することなど出来ない。唇を噛みしめて、不安と戦うミオに、オーリーはなんでもないようにねぎらいの言葉を掛けるだけだった。


「そう緊張するな。王宮のことは長老や俺に任せておけばいい。それより、おまえはネロに渡されただろう魔法の書から、アイツを目覚めさせる魔法がないかしっかり調べておいてくれ。案外その小箱が役に立つかもしれないな」

「え? このお守りがですか?」


 確かに受け取った小箱は、ミオの手の中にあっても暖かな魔力を宿しているのが分かった。


「オーリーさん、あの…、ウィリアムさんって、アルドリット家では亡くなったことになってたんですか?」

「そのようだな。エリオットとしては、母親の暗い顔をみたくなかったんだろう。さっさと忘れろと言うところか。クリーブランド家の誘拐事件は、魔法使いの間では有名だが、世間にはそれほど漏れていないことだからな。エリオットは何も知らないんだろう。それにしても、アイツ…、母親になっても肝の据わり方は変わらんな」


 呆れたようにため息をつくオーリーの意外な顔に、ミオは少しだけ親近感を抱くのだった。


 頃合いを見て馬車は姿を消し、オーリーは、ミオを連れて凍土の森へと転移した。そして、さっそく長老の元に報告に出向くと、グリーンハウとドイルが待ち構えていた。


「やっと帰ってきたか。すでに王宮に役者は揃っている。すぐに出発するぞ」

「ドイル、話が飛躍しすぎだ。コホン、私の方で、陛下への報告は済ませました。どうやら魔獣の討伐が終わったからと、王弟フォーディナントからさっそくアナキンに宝石の注文が入ったらしく、今日はアナキンも王宮に来ている様です」

「お誂え向きだな。では早速出かけるか」


 グリーンハウが逸るドイルを諫めて説明すると、オーリーがいつになく悪そうな顔で笑った。それを聞いていた長老は、そっとミオの耳元で告げた。


「こいつら、何をやりだすか分からないからな。しっかり見張っておくんだよ」

「え? 私も行くんですか?」


 目を真ん丸にして驚くミオを、長老たちは楽し気に笑った。そしてドイルが大きな手をミオの頭にぽんと置く。


「アイツを救出するのは、君の仕事だ。頼んだぞ」

「そうだな。夫人からも頼まれただろ?」


 ミオはハッとして、手元にある小箱を見やると、「分かりました」と覚悟を決めた。


 王宮に到着すると、すでに話が通っているようで、すんなりと控えの間に通された。グリーンハウからの情報で、ドイルは早速変化してネロが拘束されている部屋へと向かう。ほどなく謁見の間ではなく、国王の執務室へと案内された。国王は、最側近の近衛兵を一人残して人払いをし、ソファに前のめりに座り込んだ。


「アシュビー、この度は我が弟が多大なる迷惑をかけた。申し訳ない」

「いえ、陛下が頭を下げられるようなことではありません。しかし、たとえ陛下の弟君といえども、見過ごすわけには行きません」


 いつになく硬い表情で長老が告げると、国王は再び頭を下げ、近衛兵をオロオロさせた。

そこに、グリーンハウが声をかけた。


「陛下。我々が隣国との国境に出向いた時は、それほど強力な魔物は出てはいませんでした。辺境地伯の騎士団でも十分に抑えられていました。しかし、隣国バシュレについては、調べれば調べるほど、問題が多く、どうやらそこに我が国から亡命した魔法使いやフォーディナント殿下の影がちらつくのです」


 国王は、ぐっと顎を引いて居住まいを正した。どうやらこの件については初耳だったようだ。フォーディナントに魔力が皆無だということは、王族の間だけの機密事項だった。それゆえ、世間にばれないよう公務というほどのこともさせずにいた。だが、王弟の名の元、横暴な取引をして荒稼ぎをした挙句、手下を使って魔法使いの抹殺に手を染めていたと分かった時点で、国王は国外追放を考えていたのだが、皇太后がそれを許さなかったのだ。魔力を持たずに生まれて来た子を哀れに思う母の、愚かで悲しい訴えだった。だが、ここまで来てしまっては、それを認めることは出来ない。


「実は、隣国バシュレの王女から助けてほしいと書状が届いていたのだ。元々バシュレには、魔法使いや魔力を持つ者がいない。そこに突然あふれ出した魔物たちに、父である国王はどう対応していいのか分からなかったそうだ。アッシュフィールドの魔法使いたちが亡命し始めた頃、バシュレの国王は魔法使いをまとめているというマルコム・アナキンに救いを求めた。ところが、アナキンの態度は日に日に横柄になり、ついには王女との婚姻を要求するようになったというのだ」

「つまりそれは、アナキンたちの自作自演だったということです。鉱物の取れる領地の貴族を殺害し、バシュレの国民を脅して採掘の仕事に就かせていたんです。その辺りは、アナキンの配下にいたパターソンが証言しました。本当にひどい話だ」


 傍で聞いていたグリーンハウは、珍しく声を荒げた。


「そして、そこでとれた宝石類をアナキンから安く買い取っていたのが、フォーディナント殿下です。陛下、はっきり申し上げますが、フォーディナント殿下には魔力がありませんね。魔法使いが悪者扱いされる噂の根源は、皇太后あたりでしょうか」


 国家機密にも値する話をさらっと告げるオーリーの目は、冷たかった。


「前にも言ったが、私はこの国の全ての国民に魔力が自由に使えるネットワークを構築したいと考えている。そうすれば、今度のようなことは起きないだろう。だが、それには君たち魔法使い殿の力を借りなければならない。グレアム・アッシュビー、どうか協力してくれ。その代わりと言ってはなんだが、フォーディナントと皇太后の処分は任せてくれ」


 じっと話を聞いていたミオが、そっと手を上げた。


「どうした。言いたいことがあるなら、話してみよ」

「はい、私は、見習い魔法使いのミオと申します。私の師匠のネロが、バシュレの戦いで瀕死の重傷を負って、意識が戻っていないのに、王弟殿下から魔物のドラゴンの核となっているルビーの塊を奪ったとして投獄されているのです」

「これもフォーディナント殿下の指示でしょう。陛下、私の独断で同胞が王宮内にいるであろうネロを救出に向かっています。どうかお許しを」


 グリーンハウがミオの横で援護する。国王は「まだそんなことをしているのか」と呆れ、近衛兵に王宮の客間をネロのために準備するよう命じた。



つづく

読んでくださってありがとうございます。

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