表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
のんびり亭の見習い給仕  作者: しんた☆
PR
38/42

38 瀕死のネロ

 二人が転移した先に着くと、一気に濃度の濃い瘴気が体に纏わりついた。それでも、ミオは一瞬、うっと声を詰まらせたが、こぶしに力を籠めると、ひるむことなく声を上げる。


「ネロ! 大丈夫? どこにいるの?」


 そんな様子をみていたビビは、自分は上空に上がって探し始めた。荒れ果てた土地のあちらこちらに戦いの跡がある。ふと気が付くと、そのずっと先で、オーリー達が瘴気の根源を探しに出かけるのが見えた。いよいよ最終段階に来たのだ。

 その時、ミオの叫ぶ声がした。


「ネロがいたのか?」


 急いでミオの元に向かうと、その手にイヤーカフが握られていた。


「これが、こんなところに落ちてたの。私のとおそろいの…」


 どんなに呼びかけても返事がないはずだ。では、本人は一体どこに行ったのだろう。ミオは拾い上げたイヤーカフを握り締めていたが、急に頭を横に振って叫んだ。


「嫌だ、諦めたくない! 絶対見つけるんだもん!」


 ミオの視線はドラゴンの元に向かった。目をそむけたくなるような恐ろしい魔物だ。しかも死んでも瘴気を垂れ流している。それでもミオは、ハンカチを口元に当てながらも、その周りをゆっくりと歩き出した。じわじわと胸の辺りが気持ち悪くなる。だけど、ここにこれが落ちていたということは、ネロはドラゴンと対峙していたはずだ。目を開けているのも辛い瘴気の中、ミオはもう一歩ドラゴンに近づいた。その姿は、瘴気を避けて少し離れた場所から見ていたビビを戦慄させるほどのものだった。


「ミオ、ドラゴンに触れてはダメだ! 君まで瘴気にやられてしまう」


 ビビの声は、ミオには全く届かなかった。ネロの名を呼びながら探し回っていたミオは、不意にある場所で立ち止まった。倒れたドラゴンの足の爪の間から、わずかに人の腕が見えている。そのドラゴンの足をなんとかどかそうと四苦八苦しているのだ。


「僕も手伝いよ」


  それまで距離を取っていたビビだったが、ミオの傍まで駆け付けると、ドラゴンの足をなんとか魔法で持ち上げた。その隙にミオが見えている人の腕をぐっと引き出した。もう、息がないかもしれない。体がまともな状態ではないかもしれない。それでも、ネロである可能性があるなら、どうしても助け出したかった。


「しっかりして! もう少しよ」


 二人してやっと引っ張り出した人物は、残念ながらネロではなかった。それでも、微かに息をしているのが分かると、ミオは躊躇なく治癒魔法を掛けた。


「う、うう。た、助かった。だ、誰かが、ドラゴンの口に飛び込んでいった。早く助け出さないと…」

「ええ!」


 ミオは治癒魔法を使いすぎてふらつきながらもドラゴンの顔まで歩いて行く。その間に、ビビは手紙鳥で救援を求めた。


「ネロ。どこにいるの?」


 救援はすぐにやってきた。助け出された魔法使いはテントへと運ばれ、ドイルがドラゴンの腹部を躊躇なく切り裂いた。中から若い魔法使いがどろりと流れ出された。ネロだ。


「急いでテントに連れていけ! ロックハートに治癒の準備を頼め!」


 一緒に来ていた魔法使いたいたちが、ピクリとも動かないネロを連れて、テントに転移した。ビビは、ぼろぼろ泣きながら声もかけられずそれを見送っていたミオを連れて、テントに転移する。大丈夫だとは、決して言えない状態だ。


「ポーションをありったけ持ってこい! マードック、ミオ、お前たちも来い!」

「ミオ、ネロは生きようとしているわ。泣くのは後にして、今は集中しなさい!」

「は、はい」


 三人がかりの治癒魔法が施された。ロックハートがネロの胸を強く推し、気道に詰まったドラゴンの体液を絞り出す。そしてすかさず治癒魔法を施していくのだ。グリーンハウも様子を見に来ていたが、治癒魔法が使えないものにはどうすることもできない。その時、ネロが何かを掴んでいることに気が付いた。


「おい、ネロの手ににぎられているのはなんだ?」


 医療班の魔法使いがそっとその手から離すと、それは、片手で持ちきれないほどの大粒のルビーだった。


「まさか…。このルビーに魔力を入れてドラゴンを動かしていたのか? おい、だれか長老を呼んでくれ」


 ネロの救出と同時に、事は大きく動き出した。



 おおよその魔獣は討伐され討伐は終了となった。だが、なんとか命は取り留めたものの、ネロの意識は容易には戻らなかった。アッシュフィールドの魔法使いたちは、そこで一旦、いつもの街にに戻ることとなった。怪我をした者は、それぞれ魔方陣でアッシュフィールドの凍土の森へと移送された。

 長老は、この戦いに参加したすべての魔法使いにバシュレ国王から受け取った報奨金を分け与え、一旦解散となった。


凍土の森がいつもの静けさに落ち着いた頃、オーリーの調査団からは、瘴気の根源となるであろう朽ち果てた邸宅を見つけ出したとの報告が入った。崩れ落ちた門の傍に落ちていたのは、レアードと記された紋章だ。グリーンハウは、すぐさまバシュレの国王と面会し、それが随分前に栄えていたレアード侯爵家であることが分かった。レアード領にはルビーやサファイアの鉱山が広がり、経営は順調だった。しかし、アッシュフィールドの魔法使いたちが流れ込んできたころから、みるみるうちに没落していったという。

オーリーは、ネロの掴んでいたルビーを見る度、似たような風景を重ね合わせていた。それは、バシュレにいるアナキンと面会したときのその手にぎらついていた宝石たちか、それとも、クリーブランド家の誘拐事件に絡んで面会したフォーディナントの執務室に並んだ魔道具に込められた宝石達か。


長老とオーリー、ドイル、グリーンハウが頭を突き合わせて悩んでいるところに、意外な人物がやってきた。医療班のリーダーだったハートロックだ。


「よぉ。邪魔するよ。医療班に居た嬢ちゃん、いい仕事をしてくれたよ」

「ネロの意識が戻ったのか?」

「いや違う。だが、ドラゴンの足の隙間から引っ張り出された男は、アナキンの部下でパターソンっていうらしい。そいつが意識を取り戻したんだ。面白い話が聞けたぜ」


 その場にいた4人が、話の中身をせっついた。


 パターソンは、アナキンの魔法軍の討伐隊隊長として働いていた人物だった。だが、彼らの間にも不満は噴出していたの言う。総統のアナキンは、バシュレの高位貴族たちと繋がっていて、連日豪遊しては、王宮内を我が物顔で歩いているという。しかし、総統が強い魔法で魔物を退治しているところを見た者はいないそうだ。


「ほう、つまりバシュレに逃げ込んだ魔法使いたちも一枚岩ではなかったってことだな」

「ああそうだ。それどころか、もっと面白い話を聞いたんだ。

パターソンによると、アナキンはどうやらアッシュフィールドの要人と繋がっているらしい。鉱山で手に入れた宝石を、そいつに安価で回していたそうだ。そんなに宝石が必要になる人物とはいったい誰だと思う?」


ロックハートの話を聞きながら、オーリーは執務室中に宝石をちりばめていた人物を思い出していた。犯人として検挙することまではしなかったが、アッシュフィールの王宮でささやかれている魔力無しの噂の人物。フォーディナント・ヴァン・アッシュフィールドだ。そんなオーリーの回想など関係なく、ロックハートの話は続く。


パターソンは、ドラゴンを素晴らしい連携で討伐するドイルたちの討伐隊の強さに驚いていたそうだ。若い魔法使いも、年配の者も、立場に上下がなくみな懸命に立ち向かっていたと。その時、若い魔法使いが、ドラゴンが口を開いた時に、喉の奥に宝石が光っているのが見えたと叫んで、自らその口に飛び込んでいくのが見えたのだと。


「まさか。自ら口の中に飛び込んだのか?」


 長老たちは、驚きのあまり言葉が出なかった。


つづく

読んでくださってありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ