37 ドイル班の受難
「ビビさん、お願い! 何があったか教えて!」
ビビはどうしたものかと迷っているようだった。その時、新たなけが人が運び込まれ、マードックに呼ばれたミオは、急いで患者の元に向かうことになった。
次々に運び込まれるけが人は、みんなドイル班のメンバーだ。
「気持ちをしっかり! 絶対に助けるから!」
マードックの声にハッとしたミオは、自分も治癒に集中することにした。大丈夫。ネロは絶対に大丈夫。不安な気持ちを無理やりねじ伏せ、目の前の惨状に対応する。時折ふらっと意識が飛びそうになると、マードックからポーションが手渡され、それを飲み干しては治癒魔法に集中していった。
けが人の状態がやっと落ち着いた頃、オーリー率いる討伐隊は、恐ろしい風景に絶句していた。バシュレの山岳地帯に無数に開けられた穴。その中から人かどうかも分からないほどの風貌の人々が何かを運び出しているのだ。やせ細った体に髪や髭は伸び放題で、纏うのは服とも言えないほどの布切れ一枚だ。伸びた髪の間から、恨めし気な視線が王宮の方角を見つめている。瘴気の発生源は、どうやらここのようだった。
「なんだこれは! グリーンハウが見せた風景どころではない!」
気が付くと、岩陰で木の根を掘ってむさぼっている者がいる。それを監視役らしい身ぎれいな男が鞭で叩いているのだ。討伐前の会議でグリーンハウから聞かされた、バシュレの元の国民の多くが行方知れずになっているという話は、ここに繋がっていたのか。魔物による被害どころか、魔法使いによる被害と言わざるを得ない。普段感情をあまり見せないオーリーのこぶしが握りしめられた。
「討伐班、一旦引き上げだ。討伐対象が変更になるかもしれない」
「どういうことだ?」
「瘴気だまりはこの辺りのはずだろ?」
オーリーの言葉に皆は口々に戸惑いを見せた。しかし、長老を交えて作戦会議を招集すると言われれば、従うしかない。後方支援のチームが待つテントに戻ると、すでに連絡を受けた他のチームも集合していた。
ドイルの班はけが人が多く集まる人数は少ないが、グリーンハウの班も加わり長老の意見を待った。
「皆、ご苦労だった。魔物の多くはみんなによって討伐され、ひとまず落ち着きを取り戻している。しかし、バシュレの国王から内密に聞かされていた国民の行方不明については、どうやら宝石の鉱山で不当に働かされていることが分かった。そして、それを指示しているのは、我々と同じ魔法使いであるアナキンであることが分かった。オーリー、例の者をここへ」
「はっ」
オーリーがサッと手を上げると、小さな小鳥がその手に留まった。そして、直ぐにその姿はオーリーそっくりに変化する。
「これは、私の使い魔です。アナキンの動きに違和感を覚えて、私の代わりに今回の討伐についての説明を聞きに行かせました。そうして、まんまと操り人形に仕立て上げられました。記憶させているので、ご覧に入れましょう」
オーリーは、自分そっくりの使い魔に再現をさせると、無表情なまま言葉を発し始めた。
「ふふ。アシュビーの腹心と聞いていたが、私の術にはまってしまうとは、なんともお粗末だな。さて、お前には、アッシュフィールドの魔法使いたちを使って、バシュレの大掃除をしてもらう。鉱山の近くにいるドラゴンだ。あれを討伐したら、さっさとアッシュフィールドに帰るのだ。けが人が多くてこれ以上は無理だと言ってな。国王には、よくもこんなひどい状態の戦いを押し付けたなと恨み節の一つでもぶつけてくれ。あとはこちらに良いようにしておく」
オーリーの使い魔の言葉に、周りからどよめきが起こった。ここで再び長老が立ち上がった。
「聞いての通りだ。先ほど、その鉱山まで足を延ばしたオーリー達が、そこで奴隷のごとく働かされているバシュレの人々を目撃している。しかも、それを監視しているのは、アナキンの息のかかった魔法使いたちだ。これで、次なる討伐目標ははっきりした」
長老は、グリーンハウに国王に密かに連絡を取るよう指示を出し、オーリー、ドイルに、魔法使い討伐の作戦を立てるよう指示を出した。
「おい、ドラゴンはもう居ないだろうが、まだ魔物が出てくる危険はあるぞ。迂闊に外に出るな」
テントからそっと外を伺っていたミオは、ふいにロックハートに肩を抑えられて驚いた。
「すみません。あの、ネロが、私の師匠がまだ戻ってこないんです。ドイルさんの班にいたはずなのに」
「なんだって? おい、だれかネロを見かけなかったか?」
ロックハートの呼びかけで、ドイルの班がざわつき始めた。ドラゴンと対峙した際は、誰もが必死で、仲間を意識する余裕もなかったようだ。
「後方支援の手伝いをしているんじゃないのか?」
「ポーション取りに行くって言ってたのを聞いたから、資材置き場にいるんじゃないか?」
魔法使いたちは、ドラゴンを倒して一息ついている状態で、ミオの焦りは届かない。
「お願いです。ドラゴン討伐の現場に連れて行ってください!」
「ミオ、それは危険すぎるわ。命を落としても、その死体からは濃度の濃い瘴気が漏れ出しているはずよ」
マードックが止めるが、ミオにはどうしても納得がいかなかった。
「僕が、連れて行きます」
そんな中、声を上げたのはビビだった。ミオはビビの手を取って祈るように頼み込んだ。
「ビビさん、お願いします! どうしても気になるんです。ネロに何かあったらと思うと、私…」
「分かった。ネロには借りがあるからね。一緒に行こう」
「ビビ、あんまり近づくんじゃないぞ。しっかり守ってやれ」
ロックハートに心配されながらも、ビビと連れ立ってテントを出たミオは、その荒れ果てた風景に思わず体を強張らせた。しかし、そんなことをしていてはネロを見つけ出すことは出来ない。
「ミオ、怖かったらやめてもいいよ。僕一人でも探しに行くから」
「いいえ、行きます!」
わずかに震えているのが分かるが、その意志の強さにビビは従うしかなかった。
つづく
読んでくださってありがとうございました。
よかったら、リアクション、評価、感想などお聞かせください。




