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のんびり亭の見習い給仕  作者: しんた☆
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36/42

36 医療班

「また、後でな」


 振り向いて手を振るネロをぐいぐい引っ張って、ウォートンは医務室へと入っていった。


「気にしなくていいのよ。あの人、いつもあんな感じだから。さっきの子とは知り合いだったのね」

「ええ、魔法の師匠なんです」

「ふふふ。見習い魔法使いに、見習い魔法使い指導者ね。いいわねぇ、初々しくて」


 マードックの言葉に思わず頬が熱くなる。ネロに会えたことで、緊張気味だったミオもほっと肩の力を抜いた。


 翌日は、再び移動することになった。じわじわと中型の魔物も増え始め、後方支援の内容も、食事だけでなく医療班としての意味合いが濃くなってきた。マードックは普段看護師として働いているとのことで、てきぱきと無駄のない動きをしてミオを圧倒した。


「ミオ、こっちのベッド、シーツ替え頼む」

「ミオ、ポーション取ってきてくれ」

「ミオ、消毒処置頼む。その後治癒だ。そっちは任せたぞ」


 二日、三日と日が経つにつれ、重傷者も出て来るようになり、マードックとミオは、完全に医療班だけの活動になっていった。ひどい傷を負った魔法使いたちに、ロックハートたち医療班は黙々と治癒魔法を施すばかりだった。時折、軽症の若い魔法使いがやってくると、すぐさまウォートンが自分の執務室へと引き抜いて行くが、もうそんなことが気にならないぐらいに、あたりは騒然としていた。

―ネロは、大丈夫かしらー

 

 ミオが思わずイヤーカフに触れながら思っていると、ふいに声が聞こえて来た。


『大丈夫だ。うちの班はまだけが人は出ていない。ミオは大丈夫か?』

「ネロ!」


 思わず声を上げてしまって、慌てて口を押えた。

『これって、前に話してたイヤーカフの力なのね。うん、私は大丈夫! ネロ、充分に気を付けてね』

『了解! 早く帰ってミオのスープが飲みたいぜ』


 いつもの声が聞けて嬉しくなったミオは、そっと俯いて、嬉しさをかみ殺した。


「何を笑っているの? こんなに重症の人たちがいるのに、ホントに使えない子ね。ちょっと若いからってちやほやされて、調子に乗るんじゃないわよ!」

「すみません」


 ウォートンだ。初めは、誰にでもきつく当たる人だと思っていたが、ここ数日は、ミオを目の敵にしている。


「その妙な魔道具はなに?」


 ウォートンがイヤーカフに手を伸ばすと、ミオは慌てて抑え込んだ。


「貸しなさい! ちゃらちゃらと、そんなものをつけて!」

「やめなさいよ。魔法使いなら誰だって、魔道具のアクセサリーぐらい付けるでしょ」

「うるさいわね。大して仕事もしないくせに、男受けばかりよくて、イライラするのよ!真面目にやらないなら、さっさとしっぽを巻いて帰りなさい」

「おい、いい加減にしろ。この子だってがんばってる。医療班はこの子の頑張りを認めているんだ」


 医療班の魔法使いたちが庇えば庇うほど、ウォートンの苛立ちは積み重なっていく。


「なによ、みんなで寄ってたかって!」

「いい加減にしないか。ウォートン、調理班でトラブルが起きている。すぐに対応しろ」


 有無を言わさない対応はシューブリッジならではだった。ウォートンはキッとミオを睨んだまま、その場を後にした。シューブリッジははぁっとため息を一つ落として、表情を改めると、医療班に告げた。


「ドイルの班がドラゴンと応戦している。けが人も出ている様だ。対応を頼む」


 その一言で、医療班に緊張が走った。ドラゴン、身体が大きく魔法使いにとっても厄介な存在だ。ただ、強力な魔物が出始めているということは、瘴気の根源が近いことを意味する。周りの大人たちは、そんな予感を感じ始めていた。だが、ミオにとってはそれどころではない。ドイルの班といえば、ネロが加わっている班だ。思わずイヤーカフを握り締め、どうか無事で!と願わずにはいられなかった。


 しばらくすると、ドラゴン討伐の知らせが入ってきた。後方支援チームは一斉に喜びの雄たけびを上げる。それでも、怪我をした魔法使いたちは、続々と医療班を訪れた。


「ミオ、重症の人をこちらに誘導してちょうだい。軽症の人は、向いの部屋へ」

「はい!」


 次々の運ばれてくる魔法使いたちの多くは、みな傷だらけだ。治癒能力に優れたマードックとミオは、重症者を担当する。腕をもぎ取られたり、足を噛みちぎられている者もいるが、これでも死者が居ないのは奇跡だ。


「待って! 彼はこちらに。私の治療で治します」


 医療班の多くが、その言葉に違和感を覚えた。


「おい、ちょっと見て来いよ。治癒魔法ができる人間は、ここにいる5人だけだろ? あの女、どうもおかしなことをしているんだよな」

「包帯の補充がてら、見てくるよ」


 そう言って医療班の一人が様子を見に行くと、すぐにもめるような声が聞こえて来た。


「何、勝手なことをしているんだ。ここは戦場なんだぞ。貴様の実験に使われたらたまったもんじゃない!」

「おい、どうしたんだ?」


 騒ぎを聞きつけたロックハートが駆け付けると、ウォートンが若い魔法使いになにか魔法を掛けているところだった。


「医療班のリーダーとして宣言する。君は、今すぐここから出て行きなさい。君たち、すぐに彼を医療班の元に運んでやってくれ」


 出て行けと言われたウォートンは、ただキッと睨みつけるばかりだが、リーダーの命令は絶対だ。周りにいた者に押し出されるようにして医療班を後にした。


「おい、ミオ。アンタの知り合いだろ? 見てやってくれ」

「え? 私の知り合い?」


 ぞっと寒気が襲ってきた。慌てて抱えられた魔法使いをベッドに寝かすと、フードから銀色の髪がサラっと流れ出た。ビビだ。


「ビビ! しっかりして」


 ミオは懸命に治癒魔法をかける。途中でマードックも加勢して、無事に怪我は治ったが、無理やり掛けられた中途半端な魅了魔法が解け掛け、随分気分が悪そうだ。


「やあ、ミオ。ありがとう。あの女、最悪だよ。僕以外にも被害に会ってる人がいると思うよ。弱い魔力だから普段は跳ね返すんだけど、怪我をしている時にやられると逃げられなくてね」

「大変だったね。もう少し、ここで休んでいてね」

「ミオ…。ホントにありがとう。僕、あんなことしたのに…。そうだ、ネロはこっちに来てる?」


 急に言われて、思わず見回したミオだったが、ネロの気配はしない。そういえば、イヤーカフからも返事がなかった。ミオは、何かを知ってそうなビビに思わず詰め寄った。



つづく

読んでくださってありがとうございます。


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