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のんびり亭の見習い給仕  作者: しんた☆
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33 討伐依頼

「みな良く集まってくれた。ここに集っている者は、今この国で現役魔法使いとして動けるすべてだ。我々は、長く冷遇され、魔法使いであることを隠しながらその血を繋いできた。しかし、この度、隣国バシュレから湧き上がるように増えている魔物が、いよいよ我がアッシュフィールド王国に流れ込み始めている。そこで、国王陛下より、魔物討伐依頼が来た。陛下は、この討伐を魔法使いの復権に繋げたいとの思し召しだ」


 長老の言葉に、その場はワーッと盛り上がった。能力を隠し、悔しい想いをする者や、魔法使いであることがばれて、虐げられた経験のある者は、特にこぶしに力が籠る。


「でもよぉ。魔物討伐が終わった後、本当に俺たちを虐げないという保証はないんだろ?」

「働かせるだけ働かせて、ちゃっかり騎士団の手柄になったりしないのか?」


 ミオのすぐ隣で、懐疑的な声も聞こえて来た。確かに、今まで何もしなかった王室が急に考えを変えるとは思えない。ミオはそっとネロの表情を伺った。


「とりあえず、長老に従っていよう。オーリーや長老にも何か考えがあるんだろう」

「分かった」


 再び前を向くと、大きなパネルには組織図が描かれ、それぞれの得意な分野に振り分けされている。


「俺は討伐隊に入っているが、ミオは後方支援だな。ダイアナが一緒みたいだ。アイツに頼るといい」

「わ、分かった」


 ネオはすっかり戦闘態勢に入っている。勢いに飲まれるまま頷いたが、戦いを知らないミオは不安で仕方ない。魔物と戦って命を落とす者だっているはずだ。ネオにもしもの事があったらと思うと、泣きそうになる。


「心配するな。魔物とは、数年前にも戦ったことがあるんだ。俺は、あの頃はまだ見習いだったけど、オーリー達は何度か経験しているみたいだし、一人で戦うわけじゃない。皆で協力して魔物を滅ぼすんだ。ただ、治癒魔法は依頼されるだろうから、力配分を間違えるなよ」

「分かった!」


 それっきり、ネロは討伐班の作戦会議に出向き、会うことは叶わなかった。後方支援も物資の調達や運搬などの計画が練られ、多くの魔法使いがせわしなく働いている。


「ミオ、こっちのケースを運んでちょうだい」

「はい」


 ダイアナに言われるまま、ケースを持ち上げようとすると、ずっしりと重い。どうやら薬品が入っているようだ。


「重いでしょ? 魔法を使って運べばいいのよ。それ、最近開発されたポーションなの。魔法使い専用の滋養強壮剤みたいなものね」

「そんなものがあるんですね」

「討伐が始まったら、ゆっくり休めないだろうしね。こういう物で補給していくのよ。ミオは治癒魔法も使えるんでしょ? 医療班に行くかもしれないから、あなたもこれのお世話になるかもしれないわよ」


 今まで魔力切れで倒れたことなどなかったミオには、想像がつかない。まず、ネロやオーリーのような人たちが傷つき、ミオが治癒魔法の使い過ぎで倒れてしまうなどということは信じがたいのだ。

 気が付くと、バラバラと人が帰っていくのが見えた。


「おい、その辺でいいんじゃないか。俺たちも一旦帰ろう。さっきの会議で討伐は明後日からに決定した。皆、普段の生活に戻って、しばらく留守にする話をするみたいだ。俺は自由業だからいいけど、ミオはマスターたちに迷惑をかけてしまうからな。アンリさんに事情を話しておくといい」

「分かった」


 そのまま転移魔法でいつもの街まで帰ってくると、ミオはさっそくのんびり亭に顔を出した。


「おかえり、ミオ。ジュリエットから手紙をもらったわ。何かあったんでしょ?」

「そうなんです。王室から魔物退治の依頼が来たそうで、明後日からしばらくここに来られなくなるそうです。あの、ご迷惑をおかけします」

「そう、無理しすぎないように、出来る範囲でがんばるのよ」


 アンリの眼差しは、母の様に優しく、それでいて微かな憂いを秘めていた。


「あの…、お母さんもこんな風に戦っていたんですか?」

「それはもう、大変な勢いでね。魔力切れで倒れるまでがんばっていたらしいわ。でも、一人で抱え込んではダメよ。あの子もよく上司に叱られたって言ってたわ。あなたは彼女に似ているから、心配よ」


 そういうと、ふわっとミオを抱き締めて「この街の皆が、ミオを大切に想っているわ。無事に帰って来てね」とつぶやいた。そして、さっと腕を外すと、付け加えるように言う。


「ネロにも伝えてちょうだい。あの子も無茶をする方だから。絶対に無事に帰ってきなさいってね」

「はい。必ず伝えます。アンリさん、ありがとう」


 自分の部屋に戻ると、手紙鳥が届いていた。ジュリエットからだ。久しぶりに会えてうれしかったこと、病み上がりの自分はこの戦いには参加するなと長老に言われたこと、そして、無事に帰ってきてほしいとそんなことが記されていた。その手紙の端に、子どもの文字で、―ねえちゃん、またかえってきてねーと書き添えられている。最後のページには、見覚えのない不思議なマークが描かれていた。


「なんだろ? 後でネロに聞いてみよう」


 ミオは出かける荷物の中にその手紙ごと突っ込んで、準備を始めた。そして、部屋着に着替えるとき、イヤーカフをつけたままだったことに気が付いた。そっと手に取って眺めて見る。金色のリング状になった部分には、細やかな小花の模様が刻まれている。器用なネロの職人技だ。お守りって言ってたし、これは身に付けて行こう。そっと枕元に置くと、ケビンがくれたお守りイヤリングが転げ落ちた。


「しまった。でも…可愛すぎてちょっと付けづらいんだよね。こっちは引き出しに入れておこう」


 翌日は、朝からネロと合流して、もう一度治癒魔法の練習と、身を守るための結界の貼り方を学んだ。


「まぁ、一人じゃないから大丈夫だろうけど、最悪の場合も考えておくに越したことはないだろう」

「魔物って大きいのが一匹出て来るだけじゃないの?」

「あー、見たことなかったのか。そうだなぁ、強いやつから、弱いのまでいろいろだ。だいたいは遺恨を残した人の恨みや苦しみが溜まって瘴気として発生するんだ。それがひどくなると魔物になっていく。だから、きっと瘴気が発生する根源があるはずなんだ。最終的にはそれを見つけ出して浄化することが目標だな」

「人の恨み…。そんなものが元になってたんだ」


 想像もしていなかった現実に、得体のしれない不安を覚えるミオだった。そして、ふと、実家から来た手紙にあった不思議な文様を思い出た。


「ねぇ、これって何だと思う?」

「魔法陣だな。ああ、これは転移魔法だ。古代文字で書かれた古い文様だな。どうしたんだ?」

「実家の手紙の最期に書かれてたの。お守りのつもりかしら」

「そうだな。ちゃんと身につけておけよ。きっとピンチの時に役立つはずだ」


 ミオは、小さく折りたたんでペンダントに忍ばせることにした。


読んでくださってありがとうございます。

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