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のんびり亭の見習い給仕  作者: しんた☆
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31/42

31 帰郷

「お母さん、ただいま!」

「おかえり。まぁ、なんだか背が伸びたみたいね。どう、元気でやってた?」


 ジュリエットが出迎えると、ミオは一気に子供に戻って母の胸に飛び込んだ。そんな娘を受け入れながら、ちらっとネロを見て満足げに頷く。


「ネロ、がんばってるそうね。オーリーが褒めてたわよ」

「え? ええ、まぁ。ミオが頑張り屋なんで、助かってます。今日は、お世話になります」


 照れ臭そうな言葉に、ジュリエットは目を見開いて驚いた。


「まぁ、まぁ、まぁ。なんてこと! あの悪ガキが、敬語を使って…。あ~、しかも弟子を立ててるなんて!」


 そう言うと、ネロも巻き込んで二人を一緒にぎゅっと抱きしめた。


「さぁ、中に入って。母もエドガーも楽しみにしていたのよ」


 温かい出迎えにネロは少し感傷的な気分になっていた。

―ああ、そうだった。どんなに悪戯しても、だらけていても、見捨てずにずっと育ててくれたこの師匠は、いつだって日向にいるように暖かいー

 ミオからは体調が優れないと聞いていたが、今日の様子だと、回復している様だ。


「わぁ、お姉ちゃんの帽子、まるで魔法使いだね!」

「ふふ。そうでしょ? エドガー、いい子にしてた? おばあちゃん、身体の調子はどう? 治癒魔法ができるようになったから、いつでも言ってね」


 三人がわいわい話している間に、ジュリエットはお茶の準備を始めた。ネロがさりげなく手伝いにキッチンに入ってくると、ジュリエットはにんまり笑って、横目でネロをからかった。


「あの思わせぶりなイヤーカフはどういうことかしら?」


 慌ててカップを落としそうになるネロを楽し気にフォローして、手際よく紅茶を入れると、ネロにお菓子を持って来るように頼んでみんなのいるテーブルへと運び込んだ。


「ジュリエット、聞いてちょうだい。ミオの治癒魔法でずっと患っていた膝の痛みが消えたのよ」

「ええ! ミオ、あなた治癒魔法が使えるようになったの? すごいじゃない」

「えへへ。ネロにもらった本に載ってたの。友達のお母さんが病気になって、何とかしてあげたくて、ネロに訓練に付き合ってもらったんだぁ。ね」


 そう言ってネロに目を向けると、うなじをこすりながら「そうだったかなぁ」などと視線を逸らす。そんな姿を見ていると、ジュリエットがぷぷっと噴出した。


「ふふ、それで? 二人はどんな感じなの?」


 いわれた途端、二人仲良くゆでだこの様に真っ赤になってしまった。そのまま話が進まないと見て取ると、ジュリエットはミオのつけているイヤーカフの話を持ち出した。


「ミオ、それはどうしたの?」

「あ、これはね。ネロのお友だちのビビさんがお守りにってつけてくれたんだ。でも…」

「ビビが? ふぅ~ん、それで?」

「良く分からないけど、なんだかつけているとほっとする魔力だなぁって。でも、ビビさんって、なんとなく油断ならないと言うか、ちょっと怖い感じがしていて、この魔力とは違う気がするんだよね」

「へぇ、じゃあ誰の魔力だと思ったの?」


 目のまえの焼き菓子をつまみながら何気なく声を掛けるが、ジュリエットはネロとミオを見比べている。

―ああ、師匠は大方の事に気が付いているんだー

 ネロがそんなことを考えていると、「ネロの魔力みたい」と聞こえて来た。


「あれ? もしかして、これって、ネロが作ってくれたの? そう言えば、この前なにか失くしたって言ってたのは、これの事?」


 不意にネロに向き直ってミオが問いただしていると、玄関で誰かの気配がした。


「こんにちは」

「どうやら役者は揃ったようね」


 ジュリエットがニヤッと口角を上げて来客を迎え入れた。


「いらっしゃい。ダイアナ、ビビ。久しぶりね」

「ジュリエット、すっかり元気になったのね。良かったわ!」


 ジュリエットは二人にも席を勧めて、新たに紅茶を淹れた。ダイアナは、ジュリエットとは凍土の森で修行していた頃からの仲間だ。ひとしきり昔話に花を咲かせた後、ふとミオのイヤーカフに気が付いて、その耳元に顔を近づけた。


「あら、素敵なイヤーカフじゃない? 彼氏の愛情がたっぷり練り込まれてるのね」

「ふふ。誰が見たって分かるわよねぇ。我が娘ながら、こんなに愛されるなんて、幸せ者ねぇ」


 その時、さっと席を立ってミオの横にやってきたビビが、嬉しそうに微笑む。


「それで、これの着け心地はどう?」


 そっとミオの黒髪を指で上げて、その耳に付けられたイヤーカフを確かめた。だが、ミオはきゅっと身を縮めるように避ける。


「ビビさん、これって誰が誰のために作った物なんですか?」

「これは僕が君にプレゼントした物だったろ?」


 ネロが悔し気にビビを睨んでいたが、ぷいっと席を立って、少し散歩してくると言い放った。


「好きにすればいいんじゃない?」


 ビビは目を細めてきゅっと口角を上げた。だが、次の瞬間、その目が見開かれることになる。


「じゃあ、私も一緒に行くわ! うちの庭も久しぶりだもの」


 さっと席を立つミオにビビが慌てて続こうとするが、その腕をぐっと握ってジュリエットが微笑んだ。


「君には聞きたいことがあるわ。座りなさい」


つづく

読んでくださってありがとうございます。


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