25 とんがり帽子
「そんなのおかしい!」
突然怒り出したミオに、驚いてネロは言葉を失った。
「そうでしょ? だって、お父さんもお母さんも、兄弟3人を大切に育ててきてくれたんでしょ? 生きてさえいてくれたら、また許し合える日が来るかもしれないのに。ウィリアムさんは、悪いことをした人だけど、でも、まだ生きてるのに…。私だったら会いたいよ。どんな極悪人になっていたとしても、生きてるんなら、会いたい」
自分でもどうしてこんなに涙があふれるのか分からないまま、ミオはネロの服にしがみ付いておいおい泣きじゃくってしまった。
「わ、分かったから泣き止めよ」
ネロは、自分より悲しんで泣いてくれる弟子の肩をぎゅっと抱き寄せた。そのまましばらく泣きじゃくっていたミオだったが、ふと、抱きしめているのがネロだと自覚すると、途端に気恥ずかしくなって、慌てて涙をぬぐった。
「ご、ごめんなさい。私、取り乱して、その…」
「おまえは、あったかい家庭で育ったんだな。…はは、母親があの鬼師匠とは思えないな」
「お母さんは、鬼なんかじゃないよ。すごく優しいもん。でも、お父さんが亡くなってからは、我慢してる感じはするけど…」
抱きしめる力は緩まったが、なぜか大きな手がミオの頭を撫でている。
「そうか。おまえの父親は亡くなっていたんだな」
「うん、災害が起こった地域に派遣されて、その土地の人を助ける仕事をしていたの。だけど、がけから落ちそうな女の人を助けた時、上から大岩が落ちて来たんだって」
「立派な人だったんだな」
ミオは、そっと顔を上げて眉を下げたまま悲し気に微笑んだ。
「そうか、生きていればいつかきっと…。そうかもしれないな。気長に待ってみるか」
オーリーからは、地下牢での犯人たちの様子を聞いているだけに、先は長そうだと苦笑するネロだった。
それから数日が過ぎて、長老から凍土の森に来るようにと要請が来た。二人はミオの休みを見計らって、再び凍土の森に向かった。今回は、馬車ではなく、魔方陣を使ったので、あっという間だ。
「よく来たね。長老がお待ちだ」
人型になったオーリーが、二人を出迎えてくれた。まだ緊張気味のミオの肩に手を乗せて励ますネロを、ちらりと横目で見て取ると、慈愛に満ちた紳士らしい笑みを浮かべる。
「ネロ、ウィリアムの件は辛かったな。だが、いい顔になっている。成長したな」
「あ、ありがとうございます」
少し緊張した様子でネロが答えると、ミオが不思議そうにネロを見上げていた。
「ミオ、まずは君の今回の功績についてだな。長老の元に向かいなさい」
「はい」
オーリーに促されるまま、大きな木の根元にある魔方陣に乗ると、すぐに転移魔法が発動した。そこは以前長老に会った場所だった。
「ミオ、よく来たね。今回は、ブレンダ嬢を助けてくれてありがとう。あの子は赤ん坊のうちに誘拐されていたから、コミュニケーションを取るのが難しかったんだ。だけど、君の思いやりがあの子を光へと導いた。その功績をたたえて、このとんがり帽子を授けよう」
長老はどこからか先のとがったまっくろの尖がり帽子を取り出すと、ミオの頭に乗せた。
「ありがとうございます! うふふ。魔法使いみたい」
「ああ、そうだな。これで正式な魔法使い見習いだと堂々と名乗れる。鍛錬完了までは先が長い。これからも多くの人を手助けして、精進してくれ」
「はい、頑張ります!」
黒髪と黒曜石のような輝く瞳に、真っ黒のとんがり帽子が良く似合っていた。
「では、次はネロだ。ネロ、こちらに」
長老の言葉に合わせて、ネロが姿を現した。
「ネロ。短い期間に、ミオのことを良く育て上げたな。指導員としての力もしっかり身に着けたようだ。これからも、頑張ってくれたまえ」
「長老様、ありがとうございます」
今度は、金のピアスを取り出すと、ネロの耳に取りつけた。それは、ミオの母ジュリエットもつけているものだ。
「これからもミオをしっかり見守ってくれよ。ジュリエットからも、よろしく伝えてくれと言われている」
「げっ!師匠から?」
ゴホン!
思わず飛び出した言葉に、オーリーの咳払いが飛ぶ。
「し、失礼しました。これからも、ミオ共々精進いたします。本日はありがとうございました」
柄にもなくそう言うと、ネロはミオに目で合図して、長老の部屋を後にした。大きな木の下まで来ると、オーリーが見送りに来てくれていた。
「おまえたちのお陰で、魔法使いを襲う一派が捕縛された。どうも、王弟フェルディナント殿下がかかわっているかもしれないそうだ。あの方は、生まれつき魔力を持っていなかったそうだ」
「王族の方が魔力なしだなんて、聞いたことがなかったなぁ」
全ての能力に優れていると思われていた王族が、魔力なしと聞いて、ネロも驚きを隠せないようだ。
「だが、陛下は今回の事を重く見ておられてな。これを機会に、国全体に誰でも使える魔力ネットワークを作れないかと考えておられるそうだ。皆に平等な世の中にするのだと、意気込んでおられた」
「この国の王様は、すごい人なんですね」
「そうだな。そうやって魔力が誰にでも使えるものになったら、魔法使いを嫌う者も少しはへるかもしれないな。そうだ、ミオ。君は一度ジュリエットの元に顔を出してきなさい。そのとんがり帽子を身につけてな。それから、ネロも一緒に行くといい。二人の事もきっと喜んでくれる」
二人は思わず顔を見合わせて頬を染めた。
つづく
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