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のんびり亭の見習い給仕  作者: しんた☆
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21 ブレンダ救出作戦

 ミオが再び山に向かったのは、それから2日が過ぎた夜だった。今回は、ミオだけでなく、ネロも近くに待機する形で接触を図ることになった。食べ物の入ったかごを抱えて獣道で待っていると、その日も少女が穴倉から出て来た。


「あの、こんにちは」


 思い切って声を掛けると、驚いたように身を固くしてしまう。そんな少女にミオは歩み寄ってそっとその手を包み込んで笑って見せた。


「この前、毛布を掛けてくれたのは、貴方でしょ。ありがとう。貴方のお陰で助かりました」


 ゆっくりと心を込めて語り掛けるミオを見て、危害を与えられる者ではないと分かったのか、少女の緊張がふっと抜けた。その時、ミオの片耳の赤いしずくを目に止めた少女が、ぼろぼろになった上着のポケットからもう片方の赤いしずくを取り出して見せた。


「これは、私が失くしたイヤリングの片割れね。見つけてくれたの? ありがとう」

「んん」


 言葉にはならないが、どうやら理解はしているようだ。ミオは慎重に言葉を選んで話しかける。


「お礼に、貴方を助けたいの。暖かいお風呂に入って、ご飯を食べましょう」


 少女には、まだ理解できないようだったが、ミオと一緒にいることはイヤではない様子だった。ミオは、かごにあったロールパンを少女に差し出した。躊躇いながらも受け取ってもらうと、適当な斜面に腰を下ろした。そして自分も同じものを取り出して、一口かじった。少女はそれが安全な食べ物だと分かったのか、ミオの真似をして斜面に座ると、ミオを伺いながら一口かじる。バターの香りとほんのり甘さのあるロールパンに、少女は目を見開いて驚いていた。


「もっと食べ物があるよ。一緒に行こう」

「…」


 ミオが少女を連れ出そうと立ち上がると、ふいに不安そうな表情になって、急いで首を横に振った。そして、戸惑うミオを残したまま、いつもの獣道を足早に進んで行ってしまった。


 次の日、ミオはサンドウィッチをかごに入れて少女の元を訪ねた。戸惑いながらもミオの差し出す食べ物を口にする少女だった。サンドウィッチの間にはさんである卵が口からあふれて少女は思わず笑顔になった。


「ふふふ。お口の周りを拭いてあげるね」


 ミオは少女の口の周りを丁寧に拭いてみせた。少女は不思議なものをみるような目で、その様子を見つめていたが、暖かいスープ差し出すと、暖かさに驚きながらも、きれいに飲み干してほっと息を吐いた。しかし、また獣道を気にして立ち上がると、いつもの道を歩き出した。

―今日もダメか…―

 焦る気持ちはあるが、仕方がない。無理強いは絶対に出来ない。ミオは少女が歩き出したので、かごにカップを入れて立ち上がろうとしたとたん、足を滑らせてかごの中身をぶちまけてしまった。


「キャッ! あ~、私って、ドジだなぁ」


 体制を整えてカップを拾い集めていると、少女が戻ってきて転がったカップを拾ってくれた。


「ありがとう」

「あり・が・と」


 そうれだけ言うと、やはり獣道を足早に進んでいってしまった。


 次の日も、ミオはかごにサンドウィッチを入れて山に出かけた。しかし、穴倉から出て来た少女をみて驚いた。少女の頬には明らかに殴られた跡があり、片方の瞼は晴れ上がり、足を痛めているのか、片足を引きずっていた。


「どうしたの?」


 ミオが問いかけても、少女は首を横に振るだけだった。よく見ると、少女の服が引きちぎるように破れていて、その服には卵サンドの欠片がこびりついていた。それに気づいたミオは頭を殴られたような衝撃を受けた。

―まさか、山の扉の向こうにいる大人に見つかったの?―


「私のせいだ!」


 ミオは思わず少女の小さな体を抱き寄せて、泣き出してしまった。


「ごめんね。私のせいで、こんな目に遭わせてしまって。もう、ここから逃げよう。お願いだから、私と一緒に来て!」


 少女は、ミオが泣き出したことにひどく驚いて、おろおろとしていたが、ミオが手を引くと、そのままネロがあらかじめ用意していた魔法陣へと入ってくれた。少女とミオは、あっという間にオーリーが用意した一室へと移動したのだ。

 明かりのついた部屋に慄く少女を、ミオが労わるように抱きしめる。すると、どこからかリスや小鳥たちがやってきて、少女をバスタブへと誘う。他に人の気配がないか確かめながらだが、手を暖め、足先を暖めた。


「大丈夫。体をきれいにしましょ」


ミオに誘われるまま暖かな湯船につかると、不思議そうにお湯の匂いを嗅いだりしていた。リスや小鳥はオーリーの使い魔だ。ミオと一緒に何度かお湯を変えながら、シャンプーや石鹼で体をきれいに洗い流すと、少女はほっとした表情を浮かべて、湯船のヘリに頬を乗せて寛いだ。洗いあがった肌はカサツキはあるものの陶器の様に白く、髪は明るい金髪だった。そして、悲しくなるほど痩せていた。

―ネロからは、何でも揃っているって聞いてたけど、本当に全部揃ってる。ー

 ミオは、その設備の良さに驚いていた。お湯はすぐに汚れてしまうので、何度か入れ替えたが、すぐに適温が準備出来て、少女を待たせることもなかった。


 用意されていた子供用のバスローブは、少女には大きすぎるほどだった。髪を乾かして、鏡の前でゆるい三つ編みにしてみると、とてもよく似合う。少女は、不思議そうな表情で鏡の中の自分を眺めていたが、肌触りの良いものを身に着け体が温まると、頬がほんのり染まって、もうどこに出してもはずかしくないほど整った容姿だった。


 服装を整えて部屋に戻ってくると、何人かの大人と、少女と同じような年頃の男の子が待っていた。


「ブレンダ! 僕だよ。ブルーノだ」

「ブルーノ…。ああ、う、うれし・い」

「よかった。よかったわね」


 少女は、ブルーノを見ただけで、すぐにそれが双子の兄だと分かった様だった。二人はぎゅっと抱き合う。すぐそばでは、クリーブランド伯爵夫妻が涙ぐんでいた。


「おいで、ブレンダ。お父さんとお母さんだよ」


 家族はしっかりと抱き合って、再会を喜び合った。その様子を見ていた背の高い男が、ミオの頭をそっとなでた。


「ミオ、よくがんばったな。ブレンダ嬢を救ってくれてありがとう」

「あの、あなたは…」


 きょとんとして見上げるミオに、まだ自己紹介していなかったことを思い出したオーリーは、その場でフクロウの姿になって見せた。


「オーリー!」

「そういうことだ。今回はよくやってくれたな。あ、それから…。もうちょっと先生を信用してやれよ。ネロのやつ、自分が傍に居てやらなかったから怪我をさせてしまったって、随分落ち込んでいたぞ。これからは、何かあったらすぐに先生を呼ぶこと、いいね」


 大人の色気を漂わせた紳士は、穏やかに微笑むと、クリーブランド伯爵に会釈してすっと姿を消した。


「貴方がブレンダを救い出してくれたのね。ほんとうになんてお礼を言っていいのか分からないわ」

「ああ、本当にそうだ。こちらが落ち着いたら、パーティーを開く予定だから、ぜひ参加してくれたまえ」

「え、い、いいぇ。私はそんな…」


 恐縮するミオに、夫人はそっと耳元で声をかけた。


「大丈夫よ。ジュリエットのお嬢さんなんでしょ? 彼女とは、凍土の森でご一緒したことがあるの。少し先になると思うけど、是非親子で参加して頂戴ね」


 母の名前を出されたら、断れない。クリーブランド家の人々は、今夜はここに宿泊すると言う。ミオも勧められたが、馬車を用意してもらって家に帰ることにした。部屋を出ると、廊下に数人の侍女が並んでいた。先ほどの部屋はゲストルームで、通常なら、ブレンダの入浴には侍女が付くものなのだが、今回は怖がらせてはいけないという配慮から、ミオにまかせていたとのことだった。執事に先導されて玄関に向かうと、大きな広間に出た。山の中から直接転移魔法でやってきたミオは、改めて大きなお屋敷の中だったことに驚いた。

―そうか、ここはクリーブランド家の別邸だったのかー


 馬車に揺れるながら、ブレンダのことを思い出していた。産まれてすぐから誘拐されて、言葉もあやふやな感じだったブレンダ。だけど、ネロからは、強い魔力を持つ双子だと聞いていた。きっと大丈夫。家族が揃っているんだから。そこまで考えて、ふと、ネロの姿を見ていないことに気が付いた。



つづく

今回はちょっと長かったですね。

お楽しみいただけていると嬉しいのですが。

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