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14/20

14.これがきっと恋だって、私は思った。

ヒロイン目線です。


 私が“たぁ君”を始めて認識したのは中学一年生の秋。後期の委員会で同じ給食委員会になった時だ。

 私は委員会に知り合いがおらず、一人小さくなっていた。その時、隣で友達らしき人と談笑していたのがたぁ君だ。


「校舎裏のヒガンバナロードあんじゃん。なんか、華見たい気分になって、昨日その道通って帰ったんだ。でもそこの奥のとこで3年の峰岸先輩が彼女とイチャイチャしててさ。しかも通り過ぎる時に、目が合って」

「うわぁ。災難だったな」

「思わず鳴らしちゃったよね。チャリのベル」

「お前、何してんの?」


 ふふっ。隣で聞いていただけなのに思わず笑みがこぼれる。

 咲き誇る彼岸花の中でイチャイチャする派手なカップルの後ろを、チリンチリーンと自転車のベルを鳴らしながら走り去っていくたぁ君。しかもたぁ君の見た目は優等生って感じなので、余計にシュールだ。想像するだけで面白い。


 すると、その声のせいでたぁ君が私に気が付き、こちらを見つめていた。


「あっ、……ごめんなさい。盗み聞きしたかったわけじゃないんですけど」

「いや、俺たちの方こそうるさかったーーですよね。すいません」

「そんな」


 互いに恐縮し、おずおずと頭を下げ合う。

 その時の私は独りが寂しく感じていたので、思い切ってたぁ君に話しかけた。


「……どうして、自転車のベル鳴らしちゃったんですか?」

「へ?」


 たぁ君は、まさか先ほどの会話を追及されるとは思っていなかったようで、気まずそうに頬をかいた。私は「やっぱりいいです」と言いかけたが、それより先にたぁ君が口を開く。


「なんか、景気がいいなぁって思ったら、鳴らしてた」

「け、景気?」

「ウエディングベル的な? あれ? ウエディングチャイムだっけ?」


 彼は、教会の奥にあるような鐘の事を言っているのだろうか?

 もしそうだとしても、鐘と自転車のベルじゃあ、全然違う。


 たぁ君は独特の感性を持っているらしいと、その時はそう思った。

 まぁ、後々考えてみれば、先輩のイチャつきという特殊なイベントに遭遇し、戸惑った末の突発的な行動というだけだろうけど、その時は変わった子だなと思った。

 それから何度か委員会で一緒になったが、たぁ君は気が使えて優しい子だった。委員会の途中で、たぁ君が学年で1・2を争う成績の持ち主だと知り、変わった子から頭のいい子という風に印象は変わっていった。


 2年生になり、たぁ君と同じクラスになった。

 それでも私たちの関係性はあまり変わらなかった。グループワークとかで一緒になったり、時々タイミングが合ったりした時に簡単に雑談する。それぐらいの仲だった。


 ある日、私は男子も含めたテニス部の面々と教室で雑談していた。本来はミーティングの日だったのだが、急遽、顧問の先生に会議が入り開始が遅れていた。

 教室にはテニス部以外の面々もいて、会話の輪は段々と大きくなっていった。でも、人が多くなるにつれ、私はしんどくなり始めていた。頬が段々と引きつっていくのが感じられた。あまり、多くの人と話すのは得意じゃない。特に男子とは。

 極限まで気配を消していたはずなのに、突如私に話題の矛先が向いた。


「有馬って、背ぇ高いよな~ 今何センチ?」

「えぇっと、春の健康診断では167センチだったよ」

「女子って、そんなに背高くて服とかアンの?」

「え?」

「あ、確かにぃ。奈緒ちゃん靴がどうこう言ってたよねぇ」


 いつの間にか話は自分の身長の話になっていた。

 その時の私の身長は170cmで、確かに中学校の中では一番背の高い女子だったし、男子と比べても上位に入るほどだった。


「……服とかは大丈夫だよ。靴もない訳じゃないし」

「そうなん? この前テレビで『背が高い女の悲痛な叫び特集』みたいなのやってたけどーー」

「あ、見た見た! 『背が高いと女としてみられない』って言ってたやつだよな! でもあれに出てたスポーツ選手、この前熱愛報道出てたよな~」

「ハハッ、言ってるだけじゃん。雑魚っ」

「やっぱ、芸能人だから、全くモテないってことはないんだな」


 別に自分が悪く言われているわけではなかった。でも、みんなの笑い声が気持ち悪く聞こえて、耳を塞ぎたくなった。

 ゲラゲラ、キャッキャ、ゲラゲラ、キャッキャ。

 そんな時だった。


「でもまぁ、現実的には背が高い方が有利だろ。それこそスポーツとか。あとは女子の方が成長期早いし、田舎だから有馬さんが目立って見えるだけでしょ」


 たぁ君は声を張り上げたわけじゃなかったが、会話を切り裂くような覇気があった。

 怒っているわけでもなく、ふざけているわけでもない。ただ、淡々と。


「確かにぃ! 奈緒ちゃんテニス部でもエースだもんね。身長が上手い方向に行ってる可能性もあるかも」

「奈緒のサーブ、えぐいもんな」

「そうだな~。あ、今度の大会も頑張れよ!」

「あ、うん」


 たった一言で、会話の空気が変わる。

 あっという間に私にとって嫌な雰囲気が、楽しい雰囲気に変化していく。さっきまで歪な笑みを浮かべていると思っていた同級生たちは、自然な笑顔になっていた。

 みんなの会話は次々に展開していく。


 私は、そっとたぁ君を見つめる。

 たぁ君は会話に積極的に参加しているわけじゃあないが、真剣に話を聞いている。頭がいいたぁ君は意見を求められることも多く、的確なアドバイスを返していた。よくよく観察してみると、まつ毛が長い。


 それからの私は、ことあるごとにたぁ君を観察するようになった。

 たぁ君はいつも真面目に授業を聞いている。その表情はむっつりとしているが、別につまらないと思っているわけではないらしい。むしろ勉強は好きなようだった。

 たぁ君はけっこう面倒くさがりで、ミーハーなところがある。所属しているのは美術部だったが、別に絵が得意と言うわけじゃないらしく、うちの中学で一番楽な文化部が美術部だったから、という理由で入部したらしい。むしろ、スポーツ観戦とか結構好きらしい。

 たぁ君は突発的な行動をすることがある。嫌味な先生に噛みつくこともしばしば。男子たちからは英雄視されていたが、本人はそれを直したいと思っている様だった。


 たぁ君の周りには不思議な空気が流れている。誰も寄せ付けないようでいて、友達は多い。

 本当に不思議な人だった。



×   ×   ×



 2年生の冬。私たちに初めての詳しい進路希望調査書が配られた。

 私は白紙のそれを眺めながら、図書室で頬杖をつく。


 本来なら、一番近い安原高校に行くのが普通だ。でも、安原高校はあまりテニス部が強くない。テニスをするならちょっと遠い三波高校だろう。でも、だからと言ってそこまでテニスがやりたいかと言われると……わからない。進学校だから勉強のレベルだって高くて難しい。それに通学時間がかなりかかる。


 私がため息をつくと、その風で進路希望の紙がひらりと舞い上がった。そして床に向かって飛んでいく。落とさないように掴みかかると、私の手をそれは躱していった。


「おっと。大丈夫か?」

「わっ、ごめん! ありがとう」

「どういたしまして」


 私の進路希望調査書を拾い上げたのは、たぁ君だった。

 重たそうなリュックを背負い、片手に小難しそうな本を抱えている。


「それの提出明後日だよな? まだ白紙ってことは、悩んでいるのか?」

「え、いや、まだ書いていないだけで……」


 悩んでいたのに、なぜかそんな否定する言葉が口を出ていく。追及されるのが怖くて、「君は決めたの?」と返す。


「俺? あぁうん。三波高校かな」

「え」

「書いたままでまだ提出してないけど。有馬さんの用紙見るまで忘れてた」


 三波高校。それは私も気になっている学校だった。思わぬ登場に、私の体はブレーキがかかったように固まった。

 たぁ君は何でもないように、肩をすくめる。


「進学するなら安原より、三波高校の方が実績あるし」

「確かに勉強のレベルで言ったらそうかもしれないけど……。でも、通学の時間結構かかるよ?」

「それはそうだけど。まぁ、一学年に1人2人は進学してるし、どうにかなるだろ」


 たぁ君は学年で1・2の成績の生徒だ。大学進学を考えるなら当然、安原高校よりレベルの高い三波高校だろう。


「勉強したいの? 頭いいもんね」

「ん? あぁ、まぁ、熱心にしたいってわけじゃあないけど」

「じゃぁ、安原高校の方でもいいんじゃないのかな? 三波高校は遠いよ」

「そう、かもな。……でも、選択肢が広い方がいいだろ。いつか本気で勉強したくなった時、できる環境に身を置くことは大事だと思う。大は小を兼ねる的な?」


 いつかのために。

 そんなことは今まで考えたことが無かった。

 私も今はテニスが好きってだけだけど、いつか、本気で勝つテニスをしたくなるんだろうか。その時の私はどこにいる?


 目の前の同級生は、あまりに自然体で眩しかった。


「……進路悩まなかった?」

「あんまり? なるようにしかならないしな」


 たぁ君はへにゃりと笑うと、背負っていたリュックから何かを取り出した。それは、飴の袋のようだった。たぁ君はその中から琥珀色の飴玉を取り出し、私に差し出した。


「最近、風流行っているから。良かったらどうぞ。母さんがめちゃくちゃ買ってきてさ、これが家に山ほどあるんだよね。喉の痛みが引くって、結構有名らしいよ。味も普通にうまい」

「あ、ありがとう」

「もっと欲しかったら、またあげるよ。進路もあんまり思いつめないように……って俺が言うことでもないだろうけど。じゃ、また」


 たぁ君はそのまま図書室から出ていった。

 私はかなり煮え切らな態度だったと思うが、たぁ君は深く追求することはなかった。私がたぁ君に質問責めしても、嫌な顔一つしなかった。その距離感が私にはどうにももどかしく、心地よかった。


 私は、手の中で宝石のような飴玉を転がした。たぁ君の事もまた、その日飴玉のように輝いて見える様になった。


 たぁ君の事を考えるとドキドキする。これがきっとーー


お読みいただきありがとうございました。

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