13.嫌な奴が自分に似ていると思うと、途端に俺は萎える。
俺は有馬奈緒のことが好きなのかもしれない。
いや、有馬奈緒のことが好きなのだろう。
ここ数カ月、俺は有馬奈緒のことばかりを考えている。
それは、まぁ、イマジナリー彼氏云々があったからなのだが、それ以前にも有馬奈緒を気にかけているような気がする。
……でも、俺から告白するのか?
そもそも好き=お付き合いなのか?
ここまで有馬奈緒に振り回されたのに、俺から告白するのは、なんか納得出来ない。
結局俺は、たぁくん探しに熱中していた時と同じく、何も行動を起こせずにいたのだ。
× × ×
「この話には諸説あってーー」
有馬奈緒は、授業中に相変わらず居眠りをしている。
グワングワンと揺れる姿は、以前は心配するぐらいの感想しかなかったが、今はかわいく感じるのはなぜなのだろう。
恋は盲目。そんな言葉が脳裏によぎる。
だが、有馬をずっと見ているわけにはいかないし、教師だっていつ居眠りする有馬に気が付くかわからない。俺はふっと息を吐いて、有馬を起こすことを決めた。
軽く肩を揺らす。
「ふぇ」
「……起きろ。授業中だぞ」
「! ……ごめんなさい。ありがとう」
有馬は花がほころぶようにフワッと微笑む。と言っても、俺は花がほころんだところを見たことはないんだが。ってか、ほころぶってなんだよ。
俺はそのまま黒板に意識を向ける。剥げかけた中年の男性教員の授業は、俺の心に冷静さを取り戻させる。
その後、俺は隣が気になりながらも、授業に集中した。
終わりのチャイムと共に、脳内でぴんと張った糸が切れた様に脱力した。次の授業もこの教室であるため、教科書だけ取り替えて机の上に突っ伏す。まだ3時間目だが、なんだか疲れた。
「有馬ぁ、さっきの授業寝てただろ~。大塚に起こされてたよね」
「え? あぁ、……うん」
隣から自分の名前が聞こえ、落ちようとしていた意識がグッと浮上する。
自席で次の授業の準備をしている有馬奈緒に、巨漢の男子生徒・盛岡勇気が声をかけている。盛岡はニヤニヤしながら、後頭部に手をやっていた。
「疲れてんのかぁ?」
「そ、そういうわけじゃないけど……」
「ふーん。まぁ、何でもいいけどさ、今度は俺が起こしてやろうか?」
「え!? いや、でも盛岡君の席、遠いじゃん。端と端みたいなものだしーー」
「それはさ、こう、隣の奴を通じて、バケツリレーみたいな?」
「えぇ? ……それはちょっと。結局、大塚君に起こしてもらうことになるじゃん」
盛岡は自分の失言?に照れながら、へらへらと有馬に笑いかけていた。有馬は困ったように眉を曲げながら、スッと体を引く。
……なんだ? 盛岡は有馬に気があるのか?
有馬は彼氏持ちだぞ。このクラスに居れば、一回くらいはたぁ君の話が聞こえてくるだろ。彼氏持ちにアタックするとか、倫理感ないのか?
(※本当は違う。たぁ君は有馬奈緒のイマジナリー彼氏である)
盛岡とは同じクラスって言うだけであまり話したことが無いが、デカくてすかした奴というイメージだ。時々、明らかにサボりじゃないのかっていう、休みを取っているので、悪い意味で記憶に残りやすい。そんな生活態度とは反対に、成績は悪くはないらしい。
誰彼構わず上から目線な所があるので、あまり仲良くなりたいと思わず、距離を取っていたが……。有馬には、こんな態度なんだな。
「あーあ。うちのクラスも席替えあったらな」
「私は別に……。先生の言う通り、テスト毎に席移動するのも面倒だし」
「えぇ、そうかぁ? 隣がずっと大塚なんて、嫌じゃね? 友達とか、話しやすいやつとかーー」
なんだなんだ。隣にその大塚がいることを見えてないのか?
と言うか、自分が有馬の“話しやすい奴”だと思っているのか? 自意識過剰だろ。有馬の顔を見てみろよ。頬引きつっているぞ。まず、毎日ちゃんと学校に来い。
俺が内心むかむかしていると、有馬がくすくすと軽く笑う。
「大塚君は中学校からの仲だし、男子の中では一番話しやすいよ。だから、私はこの席でラッキーだって思ってる。ただの出席番号順だけど」
有馬は何の恥ずかしげもなく、ケロッとした顔でそう言った。
俺の中のムカムカが、スッと晴れていく。
……これで俺がたぁ君じゃないとか、嘘だろ。自分の頬骨が熱を持っていくことがわかる。
盛岡は、目を丸めて驚いていた。「え、あ、そっか」とか、よくわからないことを呟きながら、おろおろとし始めたため、俺は思わず笑いそうになる。
いつの間にか次の授業の時間が迫ってきており、盛岡はいそいそと自分の席に戻っていった。俺もまた机から体を起こして、次の授業が始まるのを待つ。
有馬奈緒は普通にかわいい。だから、モテてもおかしくない。
盛岡には内心で色々と言ったが、俺だって同じようなものかもしれない。単純にかわいい子を好きになって、好きな子に良いように思われたいと思って行動する。自意識過剰で自分の世界に閉じこもっている。
好きとか言えず、でも、意識してもらいたくて匂わせる様に言葉を重ねる。
なんともまぁ、恋とは面倒だ。でも、好きな人に特別と思われているかもしれない行動をしてもらえるだけで、通常よりも強い幸福が得られる。
特別、特別ってなんだよ。




