理想の過去
「ミリノちゃん!?大丈夫?」
「はい…問題ないですけど…」
「問題大有りでしょ!?どうしたのいきなり敬語なんか使って!?まさか………に負けたせいで!?」
「なんて?」
明らかに不自然にリノアさんの声を聞き逃してしまう。
「だから………に負けたから…?」
負けた?というと…
「………に?」
アジナに?
「!?」
「そうだよ!良かった記憶喪失とかじゃないみたいだね………」
アジナという言葉が聞き取れない…?でもなんで…
「勇者の資格まで………に取られちゃって……ごめんね私のせいで…」
「え?」
勇者の資格を取られた…?
その瞬間私はリノアさんと初めて会った日のことを思い出した
アジナにいじめられていたリノアさんを助けたのだ。
その時に勇者の資格がどうのっとアジナが言っていたことを朧気ながらに思い出した
しかし、あの戦いでは私は勝利した筈…でなければこうはなっていない筈ですし…
「ミリノちゃん…本当に大丈夫?」
「え、えぇ…」
「念のため医務室いっとこ?」
――――――――――――――――――――――
それから賭けは賭けだと。私より才能のあったアジナは結局勇者となり旅立っていった
結局私は未来に戻ることもなく…いやそもそもがアレは未来ではなく夢だったのだろう。結局勇者ではなく冒険者となった私はあの夢のようにリノアさんと共に訓練を重ねていった
そしてあの夢の私と同い年になった
「皆!頑張りましょう!」
「元勇者候補のミリノ様もいるんだから心強い!」
「そうだよね!」
「照れますよ…」
一つ夢と変わったことがあるとするならば、今の私にはリノアさん以外にも友達がいた。
その子達と共に『冒険者』として魔王の討伐に赴くことになったのだ
だが何年立ってもあの夢が忘れられない
謎の魔法を使う少女を筆頭にあり得ないことばかりの夢だというのに単なる夢だと割りきるには少し胸が痛いような…
「ミリノ様。森には入りますよ」
「え?…あはい!」
いけない…集中だ。今日は旅の初日なのだから気を張っていかなくては
剣に手を掛け、いつ魔物に襲われてもいいように気を配る
「物音がしませんか?」
突然守り役として前に出ている槍を持った友人がそう話す
「いやとくに?」
「聞こえないけど…」
「ですが警戒するに越したことはありません。もう少し気を」
配りましょう。という言葉を友人に聴かせることは出来なかった
突如木の影から伸びた腕に槍を持った友人は捕まれ引きずり込まれてしまったのだ
「ッ゛!?」
「なっ!?」
「待って!!」
慌てて私達も木々に飛び込む
飛び込んだ先は大きな平原になっていた。周りは木々で覆われているため薄暗いがピクニックでも出来そうな広場。そこに巨大なゴブリンが陣取っていた。手に私達の友人を持って
「嘘…」
「コイツって…ゴブリンキング!?」
目撃例があったと報じられていた魔物。でもオーバーフィールドの効力上あり得ないって…
どさり。っと友人が解放された音が響く
しかし、その友人は槍は握力からか折れてしまい着ていた鎧には無数のひび。………中身は想像したくない…
「嘘…」
突然の仲間の死にリノアさんが膝を付く
「ニンゲン…カ…」
響く低い声。しかし、私はその声に聞き覚えがあった。その声はいつかの夢で見たゴブリンキングとそっくり同じ声だった
彼はなにかを話しているが、全く耳に入ってこない
そもそもアレは夢なんかではない。というよりもこの感覚…まさか…今の方が夢
「よくも………を!!」
仲間の一人がゴブリンキングに向けて弓をいる
「あ…駄目!待って!!!」
貴方じゃ勝てない…
その矢はゴブリンキングを貫くことはなくまるで岩にでも当てたように跳ね返ってしまう
「ツギハ…キサマガアイテカ……」
ゴブリンキングは拳を握りしめると、地面に思い切り振り下ろす
すると信じがたいことにその一撃は強烈な地響きと共に大地を割ってしまう
「っ!?」
弓使いということでバランスには自身があったとかつて豪語していたことを思い出す
その過去の発言を嘲笑うようにその子は体制を崩し、身動きが取れなくなってしまった
「……!!危ない!!」
リノアさんの叫びも虚しく、その直後ゴブリンキングの投擲した大地の一部が……さんを押し潰してしまった
「そんな…!」
「リノアさん!ここは一度退きましょう!」
これを相手にするのは不可能だ。圧倒的肉体に投石等から察せられる技術。そして何より素早い戦闘判断
これの相手を出来るのは恐ろしく強い人間か余程奇想天外な攻撃を行う人間くらいだろう
「待って!ミリノちゃ」
ゴブリンキングから背を向けて全力疾走…をしてたった数秒、後ろからグチャリと音が響く
「そんな…」
早すぎる…。あの時は逃げ切れて
「サイゴハ…キサマダ!!」
―――――――――――――――――――――――
「はっ!?」
意識が覚醒すると、そこは岩だらけの洞窟。ダンジョンだった
そう今のは数年間過ごした……ような気がしただけの夢だったのだ。思えば途中の数年の具体的な記憶はなかった
それでもアレは間違いなく私にとって理想の環境で…
今のは私が理想を歩むとこうなっていたという再現なのだろうか…
しかしあり得ないことではなかった。仲間が増えて勇者じゃなくなって時期がずれれば、私達はナナと出会わずゴブリンキングに殺されていた可能性も…
まあ夢のことなどどうでもいい。問題は私が夢を見ていたという事実だ
いくら私でもダンジョン攻略。それも一人で未知のダンジョンという危険すぎる状況で睡眠は流石にしない
ダンジョンのトラップの一つ…と見るのが自然だろう
しかし寝ていた筈だというのに体が痛い。嫌な汗もかいたし水でも浴びたいのだけど…
「そんなこと言ってる場合じゃないですね」
パキパキと間接を鳴らして起き上がる
どれほど眠っていたのかは分からないけど早く脱出を目指しましょう




