第九十五話 「永遠の王」
一先ず治療を済ませて何とか傷を塞ぐ。そして私を庇ってくれたリーゼリットに声を掛ける。
「あの、此処は私が…」
「良い。此処は我に守られていろ」
「しかし、人皇は私が討たなければ気が済みません…どうか、我儘ですがこれだけは…」
「………仕方あるまい。我の隣で戦う事を許す、だが」
「?」
「貴様の身は我が守る。同様に、貴様は我を守れ」
「分かりました」
九十級が六本の片刃剣をそれぞれの指と指の間に入れて持つ。そして、侮蔑の目でこちらを見下ろしてきた。あの人は一体何本の刃物を持ち歩いているんだ…?
「長耳族は自由奔放だから呆れますね…。今も昔も変わらないんですか?その性格」
「変わる訳が無いだろう?我と言う存在が自由を象徴しているのだからな」
「はぁ……。皇、指示を。私は貴方に従います」
彼は人皇に委ねて、チラリと人皇の方を向く。それに応えた人皇は大きな声で言い張った。
「奴らを殺せ。殺せずとも、散らばった兵士達や旧英雄達が戻るまで持ちこたえて見せよ!」
「御意に」
そう言って人皇は逃げ出した。
「行け。小娘」
「え?」
「行けと言っているのだ。貴様の目的は奴の首であろう?ならば今が好機と見るが常。我一人でも奴の相手など務まる。分かったら行け」
「あっ、はい!」
うーん…。最後には合流出来るのかな。取り敢えず王様がそう言ったので大人しく従う。私は脇を通り抜けて、人皇を追うことにした。
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ラルダが人皇を追って、王座から廊下へ向かった時、九十級がスッと一つの剣をラルダの背に向かって投擲した。
しかし、また何も無い所から魔力障壁が現れ、剣を弾き飛ばした。
「不意討ちなど、我が許すと思うか?」
「…………まぁ、分かってはいましたけどね!」
一気に距離を詰めて至近距離から剣を突く。それをリーゼリットは見てから躱す。リーゼリットからすればただ速いだけの剣は弱い。
「『風圧』」
「っ!」
躱した拍子に自身と九十級の間に強風を精製し、吹っ飛ばす。少しの距離が空いたと同時に重ねて魔術を行使する。
「『神樹棘殲』」
虚空から棘が大量に生えた木の枝や根、蔓が現れ、九十級目掛けて襲い掛かった。
「このぐらいなら!」
九十級が神樹の一部を捌きに掛かる。しかし、絶え間無く襲い掛かってくる棘を全て捌ききる事は不可能。それを出来るとすれば剣聖や剣神ぐらいだろう。
九十級は捌ききる事が出来ずに棘をその身に受けてしまった。
「くっ!」
「まだまだ行くぞ?『痛傷閻鎖』」
九十級が棘によって斬り裂かれた傷の周りにぼんやりと鎖の様な物が現れて、その部位を巻き付けられた。その鎖は巻き付いたと思ったら消え、何も見えなくなった。
特に異変を感じないこの魔術。しかし、その異常性は直ぐに現れた。
「……手足が痺れ…?」
「受けた傷から先の部位を強い麻痺で使わせなくさせる魔力だ。貴様だって知ってるだろう?」
「…九十五級の魔力ですよね?何故貴方が?」
「さてな。何故だろうな?」
リーゼリットがヘラっとしながら話をはぐらかす。九十五級が彼によってどうなったかは分からないが、何かされたのは確かだろう。
「さて、動きを封じた所で、だ」
再びリーゼリットが『神樹棘殲』を展開する。その質量はさっきの倍以上。九十級はこの状況にハッとする。
「気付いたか?この状況がどういう状況かを」
ニヤリとリーゼリットが嗤う。そう、九十級が置かれている今の状況は、ついさっき自分がラルダに対して行った事とソックリだった。しかし、今回はそんな自分を守る者などおらず、『痛傷閻鎖』によって身動きが取れない。
向かう先は、用意された死、のみ。
「終わりだ、九十級。我が貴様如きに此処までしたのだ。精々平伏して死ね」
その言葉を最後にパチンと指を鳴らす。それが合図となったのか、『神樹棘殲』が動き出す。一つ一つの棘が、鋸の様になっている為、今回に関しては皮膚を裂くなんて言うチャチなレベルでは無く、触れただけでも身体が飛ぶ。そんな神樹が何十、何百本と九十級ただ一人を襲う。
『神樹棘殲』が九十級を覆い尽くし、姿が見えなくなるまで、リーゼリットが魔力展開を切ることは無かった。




