第九十六話 「破滅を謳う降臨者」
王座から抜け出して再び通って来た廊下を走る。綺麗な装飾のなされた廊下はとても綺麗だ。だけど、今はそんな物を見ている暇はない。人皇を見つけ出して、速やかに倒す。しかし、何処に居るか皆目見当も付かない。
「『叡智』、もしもし…?」
『うん。おめでとう。君の泣き顔が王様の心を掴んだよ』
「……はぁ。そんな事はどうでも良いから、人皇の位置を教えて」
『はいはい。えっとね…君が登って来た階段、あるだろ?それを登った所、展望室かな?まぁそんな所に居るよ』
「分かった、ありがとう」
通信の護符の魔力回路を切って、廊下を走る。そして、大きな螺旋階段のある所まで戻ってきた。私はそれを駆け上がる。
「はぁ…はっ…はぁ…」
さっきはゆっくりと歩いて来たが、今は走り続けているせいで結構息が上がってくる。夜の世界での修練で多少は体力がついたと思ったが対して付いてなかったらしい。
階段を登りきり、円状の大部屋へと出た。此処からはリーシス全体を見渡せそうだ。
「来たか」
人皇はその大部屋の中心に立っていた。さっきとは違って真面目な表情で私を見据えて来た。さっきは見下ろして来ていたが今は同じ高さ、同じ目線だ。
「『救世』の降臨者、で合っているな?」
「……えぇ」
「なら、何故このリーシスを滅ぼそうとする。普通、世界の危機から救う筈だろう?」
「何故?何故ですって?そんな事、決まってるじゃないですか」
人皇が怪訝そうな顔をする。私はそれを承知で続けた。
「故郷が焼かれた事、忘れたとは言わせない。剣聖の善心に手を出したのも、両親を奪われて壊された事も、全てが許せないからです」
「………」
あの準備期間にほぼ全ての記憶を取り戻した剣聖から色々と聞いたのだ。剣聖が、トラウマとする『因果応報』を使ったクレイさんから逃亡した後にリーシスへと帰還するも、思ったような戦績を残せなかった剣聖を人皇は要らない者としたのだ。寄り辺のない剣聖はどうにか此処に居させてくれないかと人皇に頼み込むも、それを全て棄却され、王宮内ではなく、雑用係などが過ごしている小部屋に放られたそうだ。上の立場だった人間が突如として下の立場に落ちた事で虐められる事も多かったらしい。
「ならば、私だけを殺せ。何故わざわざリーシスを滅ぼそうとするのだ?」
彼はそう言ってバッと腕を広げた。人皇だけを殺した所で、何も変わらない、また、人皇の息子が王座に座って、また覇権を握る。そしてまた繰り返すのだ。
「そんな事で、収まるわけが無い!私は…私は……!」
「復讐心を燃やすのは結構。だが、その復讐を果たすための勇気が無ければ始まらん…。それかなんだ?人一人殺せない弱者が一人前に滅ぼすなどと言っているのか?」
「私は…人間族の破滅を謳う、降臨者だ……弱者では無い」
「なれば戦いて、強者の証を示してみろ」
人皇が頰を緩めて言う。
「貴様の魔力は『霹靂』、弓の魔力は『殲滅』。私の魔力は『全』。当然私の方が分が悪いが、一撃で殺せる、とは思わないことだ」
「戯言を」
私が不意を狙って、『流星』を行使する。人皇目掛けて、生成された『雷槍』や『電矢』がとめどなく飛んでいく。
「『障壁』」
人皇が呟くと、人皇を中心に小さな魔力障壁が出来上がり、私の不意打ちを無かった物にした。おかしい、普通の『障壁』ぐらいなら貫通出来るのに。
「『次元門』」
「門……?」
「九十級がやられた。九十四級が来るのも時間の問題。ならば、別次元に移動すれば良いだけの事だ。来い、破壊者」
気付けば、私の足は『次元門』へと向かっていた。恐らくだけど、『先導』の影響も受けているのだろう。なんの躊躇も無いままに次元の門をくぐり抜ける。潜り抜けた先は、色味が失われた、展望室だった。
前には人皇が立っており、後ろを振り返ると門の扉が閉まっていき、完全に閉じ込められた。
「続きを始めるぞ」
「………」
人皇がゆらりと体を揺らし始めたと同時に、魔力の流れを感知する。
不味い、何かが来る。そう思って私は、弓を使わずに『殲滅する破星の轟矢』を展開する。あの弓はもう使えない。大部分が破損した為、魔矢が装填できなくなったのだ。
私は人皇を拳で殴る形で、『殲滅する破星の轟矢』を放つ。
「ふっ!」
近距離及びに超高熱量、高密度の魔弾。まず普通の人間や魔族だったら即死は免れない。だが、人皇はニヤリと笑みを浮かべて、着弾直前に両手を前に出した。
青白い光に包まれて、凄まじい爆音と爆風を撒き散らされたので、魔弾が着弾した事を知る。
色の無い煙が漂う中で、私は人皇に勝利したと思っていた。なにせ、あの近距離からのこれだ。勝ちを確信するだろう。
だが、煙が少しずつ晴れてきて、その考えが甘かった事を悟る。人皇は、耐えていた。服のあちこちが焼けて、顔の肌や腕が火傷しているものの、きちんと足で立っていた。
「言ったはずだ、一度では殺せないと」
人皇は私を睨みながら、そう言ってきた。彼だって、リーシスの存亡が掛かっている。両者必死の戦いだ。




