第九十一話 「単騎決戦 序」
遥か上空。地図と現在地を照らし合わせて、なんとかリーシス近辺の上空に辿りつくことが出来た。『猟眼』を開眼して、リーシスの防衛壁を遠目で見ると、石をどかしたら大量にいるダンゴムシみたいに兵士がうようよ居た。本当に十日でこれだけの量を出撃させる事が出来たとは…少し意外だったな。さすがは人間族側の最後の砦。
しかし、最上位旧英雄達の襲撃も絶えなかった筈なのにきちんと残り続けているのは何故か。その理由は単純で、移動を可能とする国であると同時に兵力も旧英雄を撃退出来るぐらいにあるという事だ。または、九十四級の力もあるのやもしれない。どの道、厄介な事この上ない。
「えーっと…『通信』の護符はっと…あった。魔力を通して、あー、あー。聞こえてる?」
『うん。バッチリだね。リーシス近辺に辿りついたかい?』
「うん。兵士の数も目でだけど少し分かった気がする。相当な数が居るよ。外からは押し通せそうに無いし上から侵入した方が良いかな?」
『そっか…でも、外からじゃないとリーシスは侵入出来ない。九十四級の魔力によって防護壁の様な物が張られてる。外側もそうだけど上より脆いんだよね。だからやっぱりその量の兵士を相手させなきゃならない』
「うーん…まぁ分かったよ。『映写機』は接続終わった?私の動き、見てるんでしょ?」
『うん、もう終わってるよ。結構皆から言われたからね。皆のご要望にお答えして、君の勇姿を見届けようじゃないか』
そう。現在龍の郷で、仲間達が私の姿を見ている。結局隠し通せなくてゲロってしまったら、陰ながらに応援しているから見たい。っていう要望が多発。仕方なく『映写機』での投影を許した。
「それで、本題に戻るけど。私は今から出るよ。この下あたりに小屋が有るって話だったけど、寄らなくて良いかな」
『うん、構わないよ。ただ、龍帝にはそこに向かう様に指示してくれ』
「だって。おじ様、分かった?」
おじ様に問い掛けると、こくりと頷いた。やっぱり龍化しててもきちんと言葉を理解出来てるから、凄いと思う。よし、やると決めたからにはきちんと遣り遂げよう。中途半端は一番いけない。私は頰をパンッと両手で叩き、大声で言う。
「じゃ、行こうか!」
『頑張ってくれ。必ず一人残らず殲滅するんだ』
私の声と共におじ様が急降下する。一気に地面が近くなり、私はおじ様の背中から飛び降りた。久々に感じる地面の感触。そして、正面を見渡せば、何十万単位の量の兵士。私はおじ様が戦線から離脱したのを確認し、両手に魔力を込める。両手から稲妻が走る。
[南門から強大な魔力反応!識別確認、敵陣一人と断定!なんとしてもここで排除しろ!]
何処かからそんな声が聞こえる。そういう魔力もあるんだ。へー。あ、これ『通信』の応用なのかな。凄いや。
兵士達がゾロゾロと動き出す。私はそれに立ち向かうべく、両手に魔力を蓄えながら走り出す。一人一人やっていたら時間の無駄だしいつ終わるのか分からない。此処は一気に削り取りたいところだ。
ただし、安易に最終定理を使ってしまうと目的である長耳族の奪還が難しくなる可能性がある。巻き込まれでもしたら消滅してしまうのだから。
十分に魔力を蓄えたのでそれを手を合わせて複合する。『霹靂』と『雷帝』による混合魔術。しかし、形にはなっていない。複合した物を私は地面に置き、地に還す。そして、そのまま走って敵陣の中に入った。
「「「『地烈』!」」」
「「「『獄炎球』!」」」
「「「『風刃』!」」」
多くの兵士が束になって、同じ属性の魔術を行使する。うん。剣とかじゃなくて良かった。剣を使って向かって来られると魔力を敷いた意味が無くなる。こういう属性魔力が来てくれた方が威力が増幅するからね。
私は正面の兵士に手を向けて、唱える。
「『霹靂』」
緑色の光が灯る。『地烈』によって裂けた地面から。四方から飛んでくる『獄炎球』から、『風刃』から。私を取り囲む兵士達から。そして、私が魔力を敷いた地面から。全ての物に緑色の光が灯り、魔力が増強される。
多分、此処の人たちは私を馬鹿と思っただろう。『霹靂』は確かに魔力の質や威力、身体能力とかを増強する物だ。でもそれは私がそう制御して使っているだけで、本来はそうではない。本来は何が起こるか分からない代物だ。
増強された魔力の弾幕は私に振りかかる事は無く、暴発した。そして、増強された兵士達も異変に気付く。一人の兵士が膝をついた。
「かっ…はっ…」
「!?」
それから連鎖的に一人、二人と倒れていく。皆が皆、身体を抑えながら。
「!…あっ…!?」
「あっ…!がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
『霹靂』は連鎖型と単発型が存在する。単発型は私がこれまで使ってきたみたいに、一時的に脚力を強くしたり、魔力を増強したりするのに使う。連鎖型は他人に連鎖する形で半永続的にバフが盛られていく感じである。その連鎖は私が魔力の流れを止めれば止めれるが。止めなければどうなるか、答えは明瞭。バフが盛られ続け、次第に容量に限界を迎えて。魔力回路が暴発する。魔力回路が暴発すると、想像を絶する苦痛を味わい、死ぬ。
兵士達の魔力回路が暴発し、場が阿鼻叫喚の嵐になる中で私は地面に手を置いて、第二の魔力を行使する。地面に敷いた混合魔力にも同じ方式で力を増強させていく。大地の魔力容量は無限だが、一個の一個の魔力の粒子が肥大化していったら、大地は崩れる。そして肥大化した粒子も爆発を引き起こす。
地面が隆起し始める。おっと、私も逃げないと巻き込まれる。私は、脚に『霹靂』を使い、脚力を増強して走る。やっぱり『霹靂』はこういう使い方に限る。
私は風の様な勢いで発狂する兵士軍を突破、城門を潜り抜けて国内に入る。よし、侵入出来た。
それと同時に、後ろから大爆発が起きた。少し風圧で飛ばされそうになる。どうやら狙い通り、暴発してくれたらしい。良かった。これであの兵士達は跡形も無いだろう。ただ。南門の兵士軍がっていう話だ。つまりはまだ三方、残っている。恐らく国内に戻ってくるので、その時に消そう。取り敢えず今は進む事だけに専念する。そう思って、走り出した時に、
「待て、侵入者」
足元にナイフが刺さる。足止めか?後ろを振り向くと、浅黒い肌をした男が立っていた。
…。
「南門、数分で全滅か。驚いた」
「……」
私は無言で神器を解放する。この男からは異様な気配を感じたのだ。ただの人間というよりも、何か他の存在の様な。
「古き時代でもこのような奴は居なかった。貴様は少し、楽しませてくれそうだな」
「………旧英雄」
「左様」
旧英雄は口元を緩めながらナイフを数本取り出して、こちらに向けてきた。中ボス戦、という奴の様だ。




