第九十話 「十日間の生活」
私が無言を貫いてぼぉっとしていると、サテラが話しかけて来た。
「あの…」
「何?」
自分の思っていた声よりも冷たい声が出た。あぁ、どうしてだ。せめて、何も知らないサテラには迷惑を掛けさせたくないのに…。
「なんでそんなに、苦しそうな目をしているんですか?疲れたんですか?」
「…」
答えられない。確かに今の私は、ちょっと精神的に来ているのかもしれない。疲れてるんだね。
「うん。疲れてるのかも」
「でしたら、霊泉にでも浸かってきたらどうですか?あそこなら疲れも癒えるかと」
「ありがとう。でも大丈夫。気にしないで」
「でも…」
「大丈夫だから」
「っ……!」
私は優しく微笑んだ。だがしかし、サテラはそれを見て目を見開いた。サテラが目を逸らして言う。
「そうですか…」
「うん」
やっと納得してくれた。いや、納得はしてないか。私が押し通しただけで、彼女は全く納得なんてしてない。
取り敢えず何とか撒けた事に安堵していると肩を叩かれた。振り返ると『叡智』がニコニコしながら佇んでいた。ウザい…。
「次は何ですか?」
「話は終わったかい?」
「えぇ、まぁ」
「それじゃあ、早速準備と行こうか。僕が「転移」を使おう」
準備。あぁ、殲滅戦の準備か。正直、このままでも良いんだけど。
そんな事を思いながら、『叡智』の手を握り、「転移」の準備を終えた。『叡智』も左手が握られた事を確認すると、右手で指を鳴らして、「転移」を行使した。別れの挨拶すらしなかった。だけどその時だけは何も思わなかった。
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転移中は気を失うらしい。まったく記憶がない。そして、瓦礫だらけの風景が視界一杯に飛び込んできた。
「ここは?」
「八十九級に襲撃された場所、と言えば分かるかな?」
「成る程、ね」
それで、ちらほら長耳の子が居るわけだ。襲撃されても生き残った子達だろう。あの子達もまた、この街の復興を願って瓦礫撤去に勤しんでるんだね。
そんな事を思っていると、背が高い長耳の男に『叡智』が声を掛けられた。
「おう、シグ。お帰りか?」
「うん。ただいまシグラス。復興は進んでるかい?」
「ん…。見ての通りだ。あんまり進んじゃいない」
「そっかぁ。頑張ってくれ」
シグラス?シグラス…。あぁ、あの強面の長耳族!懐かしいなぁ。心なしか強面が少し柔かくなっている気がする。
「ていうかよ、そっちの姐さんはもしかしてラルダか?」
「そうだよ」
「おひさぁ、シグラス」
「はぁ〜…美人に育ったもんだな」
そう言って彼は私をジロジロ見てきた。うーん、美人って言われると、少し照れくさいなぁ。
「まぁ僕らはこれから少し用事があるからこれで。作業頑張ってね」
「おう」
私は歩き出した『叡智』に付いていく。そしてシグラスの横を通った時に、情報のような物が私の脳内を通った。
『無理はするな』
その一言だけだった。どうやら私は余程酷い顔をしているらしい。だから、サテラに怯えられたのか。成る程。
「それは無理な話だなぁ…」
「何か言ったかい?」
「いいや、なんでも」
彼からはどうやらシグラスの思念が届いてないみたいだ。つまり『同調』によるものだろう。
暫く会話も無く、瓦礫の山を歩いていると一つの小屋に辿り着いた。
「さ、着いたよ」
「此処は?」
「僕達の拠点だよ。入って入って」
暖簾の様な物を掻き分けて中に入る。外見も外見だったが、中身も酷かった。床は土が剥き出しで敷物が敷かれているだけで、天井は今にも抜けそうな感じ。即席で作ったような物だった。廊下を歩いて、広間の様な所に出ると、其処には三人の男が座っていた。皆見覚えある人達だ。
「おや、帰ってきたのか。って…」
「お久しぶり。エスド爺」
「ほー…。まさかまた相見えるとはの」
「ん?その声はラルダさん?」
「チャゼルも久しぶりだね。元気してた?」
「久しぶりに帰ってきたら見違える程成長したもんだな…」
「まぁ、急成長しましたからね。お久しぶりです、ヘーグ近衛騎士長」
少し遅れて、『叡智』も中に入ってくる。何をしていたのだろうか。彼は少し溜息を吐き、言ってきた。
「今ね、『探知』と『特定』でリーシスの場所を特定したんだ。んで、『伝文通知』で人皇の元に内容が宣戦布告の伝文を投げ込んできた」
「動くと言うことは、ラルダを味方に付けたのかの?」
「うん」
「此処まではお前の計画通りだな。後はラルダさんにリーシスを潰してもらう。それで終わりでいいんだよな?」
「そうだよヘーグ近衛騎士長」
この計画に乗ったのは私なので何も言わない。私が無言のままでいる中、『叡智』は続ける。
「それでね。僕、奴の癇に障る事をめっちゃ書いたから多分直ぐにでも軍隊を敷くと思うからね。敷き終わって、少しの間が経つ…そうだな。十日で準備を済ませよう」
「了解した」
「ラルダさんは月帝弓の手入れをしといてね」
「え、あ。うん、分かったよ」
今日を含めて、十日で準備を終わらせて出発する。結構ハードスケジュールだ。と言っても、私は月帝弓の手入れだけなのでそんなに時間を要さないんだけど。なんで?
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十日も時間を取った理由が分かった。どうやら、私に合ったサイズの外装を作るらしい。外装と言っても、ガッチガチの鎧の様なものでは無く、極めて軽い動きやすい外装なのだそうだ。
その間に私は『叡智』からリーシスへの方角などを教えてもらう。弓の手入れをする、などの一日で終わりそうなのばかりだ。
予想は的中し、弓の手入れや座標の享受は今日限りで終わった。
リーシスという国は移動を繰り返す国で、其処が危険と分かったら直ぐに安全な場所に移動するというシステムである。国境の壁ごとである。凄い。
二日から四日目は特に無く、五日目。外装が出来上がった様だ。
「結構いい感じだね。動きやすいし軽い。いい感じ」
見た目的には真っ黒な堅式鎧。兜はない。ブーツとかもあるけど、太もも辺りが露出しているのが恥ずかしい。そのことを『叡智』に言うと。
「良いじゃないか。君はそう言うところを隠しすぎだぞぉ?ちゃんと王様を魅了しないと、ね?冗談だけど」
「戦いに行くんだからそんな事しても無駄でしょ」
「だから冗談だって」
相変わらず、言動とかがあの邪神に似てるからあまり好きになれないんだよなぁ…。この人。
六日目。龍の郷に戻り、おじ様を回収した。その時に契りっていう物をおじ様とした。『叡智』曰く、契りを交わすとその契った魔力を互いに共有出来る、との事。それと右目辺りに黒い爪痕みたいな紋様が浮かび上がってきた。『龍帝の紋章』っていうらしい、カッコいい。
「契りとかって後で解除出来るの?」
「まぁ、出来るけど。なるべくはしない方がいいね」
「そっかぁ。じゃあずっと一緒だね、おじ様」
「あぁ、そうだね」
それからは龍の郷で霊泉に入ったり、おじ様達と一緒に過ごしたりした。サテラが意外と成長していて、模擬戦した時に月帝弓を盗られた時は唖然としたものだ。んで、契りに則って実際に私は『雷帝』を再び使える様になっていた。矢型にした『雷帝』のエネルギーを『霹靂』で増幅させて放つ『殲滅する破星の轟矢』の威力は山を一つ消し飛ばすほどの威力になったのだ。これは私の魔力の進捗でもある。
─────そして。
私は、おじ様と共に龍の郷を飛び立った。人皇と、最上位旧英雄九十四級が居るとされるリーシスへと。




