第八十六話 「反逆」
彼は叛逆すれば良いといった。しかし、定められた運命をそんな簡単に変えられる筈がない。運命とはそういうものだ。変えようとしても何らかの力で絶対に正しい方向へ進もうとする。
「ラルダさん、とても納得行かないって顔してるね。やっぱり僕もあいつみたいに、胡散臭い?」
「まぁね。貴方は少しあの邪神に似てる。私はあまり貴方を信用できないな」
「当然当然。突然出てきた人に信じろって言われても無理な話さ」
そう言いながら彼ははにかんだ。しかし直ぐに表情を変えて真顔になってこう続ける。光の無い目は真っ直ぐと私の方へと向けられている。
「だけど、僕はやっぱりあの神を騙る何かを倒したい。これだけは信じて欲しい。だから、『覇道』や『無垢』。当然『救世』である貴方にも助力してほしい」
「………」
その言葉を聞いても、やはり素直に、はいとは言えなかった。何を私は迷っているのか。
「『叡智』、俺はそれには乗らない」
「『覇道』、やっぱり君は反抗するんだね」
「当たり前だ。俺は誰かの言いなりになるなんざまっぴらごめんだからな」
「君らしい。分かったよ」
「そうか。諦めが早くて助かる」
そう言って『覇道』は立ち上がりこの場から離れた。私も早く離れたい。早く、早く終わらないだろうか。
「二人はどうするんだい?」
「私も抜けさせて頂きます。少し、しなければいけない事が出来たので」
「ふぅん…。君が抜けるとは意外だなぁ」
「あはは、しかし、事が済めばお手伝いするかもしれません」
「うんうん。その時は頼むよ」
それで会話は終わり、剣聖も立ち上がってこの場から離れていった。私と『叡智』だけが取り残される。うぅ…この無言の威圧が半端じゃ無いから心が潰されそうになる…。
「それで…君は?」
「………ぃ……」
「え?」
「はい…。私は貴方に助力しましょう…」
「あ、あのさ…そんな硬くならないでよ。僕が言わせてるみたいじゃないか。でもありがとう。君が居るだけでとても頼もしい」
『叡智』がまた笑顔を零す。その後に立ち上がって後ろを向いて、話を続けながら荒れた庭園の方へと歩いていった。
「この後、早速だけどやって欲しい事を言うから、庭園に来て欲しい。待ってるよ」
「うん…」
運命に逆らい続けてそれを正当化させる。言葉にすると簡単に聞こえるけどとても難しい。でもそれでしか世界を救えないのなら仕方がない。私はやらなきゃいけない、『救世』の降臨者として。
そんな思いを胸に秘めながら本を持ってる方の手に力を込めた。
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私はそのまま、サテラとモチヅキの方へと歩いていった。なんというかサテラみたいな妹っぽい子を撫で撫でしたりして心を落ち着かせたい気分だった。二人は妙にこざっぱりしていて綺麗になっていた。
「話は終わったのか?相当疲弊した顔をしているが…」
「え?そう?大丈夫だよ」
そうは言ったものの中身の無い言葉だったので直ぐに見透かされてしまったようだ。モチヅキの顔が険しくなる。モチヅキは何も言わずに足の上に座らせていたサテラを抱き上げて私に差し出してきた。険しくなったのはそういう事だったのか?
「サテラを貸そう。存分に愛でろ」
「あの…私は物じゃないんですけど」
「あはは、じゃあお言葉に甘えて」
「聴いてます?」
やはり少し大きい。それでも抱き上げる事ぐらいは出来るので文句無しだが。少し抱き締めて良い匂いでも嗅ぐとしようか。
「あ、あの…少し苦しいです先輩…」
「ん〜…なんでこんなに石鹸の良い匂いがするのサテラはぁ…」
「先輩が目覚める少し前にイースさんに霊泉に連れてって貰ったからです…」
成る程、それでモチヅキとサテラが妙に小綺麗になっていたのか。羨ましい私もその霊泉って言うのに入ってみたい。十分に良い匂いを嗅いで結構気分が晴れたので、モチヅキにサテラを返す。モチヅキは何も言わずにコクリと頷いた。なんだろうか。
「何?」
「『叡智』と話があるのだろう?行ってこい」
「そうだった…行ってくるよ。ありがとうね二人とも」
「あぁ」
「次にあれをするときはもう少し優しく抱き締めてください」
「うん、次はそうする、じゃあ行ってくるね」
「はい」
私は二人に見送られながら、庭園へと向かった。何を言われるのかは分からないが、きっと楽な仕事じゃないだろうなぁ…。




