第八十五話 「不死の消滅と降臨者の談」
『覇道』と呼ばれた男が上から私達を見下ろす。その別名故か、何とも言えない覇気の様なものが感じられた。リンデル、と呼ばれた八十八級はそれを見て歯を食いしばりながら立とうとするも、パキッという音を立てて足が折れて、再び倒れてしまった。
「え…?」
「あはは…結構ガタが来てたんだよね。此処に来る前に…十七回も殺されちゃったし…昔のも合わせれば…何回死んでるのかな」
顔を見ると半分以上が欠けていて、多数のひび割れと左目の所に穴がぽっかりと空いていた。中には何もない。本当に空洞。その姿に、何も言えないでいると、ちょっと悲しいのか、眉を八の字にして笑い、こう言った。
「人間の国に召喚された時は目の前にある魔力源を捕食する事しか考えてなかったけど…久々にこの龍の郷に帰って来た時、イースが私を異常視せずに迎えてくれたのは普通に嬉しかったなぁ。本当はもっと落ち着いて、この世代を楽しもうかなぁとか思ってたのに…これじゃあ無理だね」
「…」
「貴方は罪深い男だよ、ギドウ」
「…………」
「でも、そんな貴方になら頼めそう。聞いてくれる?」
上を向いて、『覇道』の降臨者に問いかける。『覇道』は無言で岩から飛び降りて、倒れている八十八級の側に立った。
「聞いてくれるんだ…。嬉しい」
「早く言え。その脆さでは喋ってるのも辛いだろうに」
「そうだね。じゃあ…」
スゥっと息を吸って空を仰ぎながら笑顔になって、
「私を壊して」
そう言った。それを聞いた『覇道』は担いでいた大鉈を構えて、眉間に皺を寄せながら頷いた。
「それがお前の望みか?」
「うん。前は何とも無かったけど、やっぱり致命傷を喰らっても死ねないのは辛いんだ。地獄のような苦痛を強いられて、とても辛い、だからもう終わりにしたいの」
「分かった。お前を殺せて俺は今とても幸せだ」
「……ありがとう」
その一言を告げて、大鉈を思い切り八十八級の身体部分に振り落とした。大鉈がぶつかった瞬間に、バキャンという音が鳴り、四方八方に八十八級の欠片が飛び散った。剣聖が走って此方へと向かってくる。
「……ちょっと」
「『覇道』、貴方!」
「『無垢』…『救世』…俺を責めるのは間違っているぞ。奴は、これを自ら望んだのだ。俺はそれの手助けをしたにすぎない。それに、死にたがってる相手を生かそうとするのが間違いだ。あんな状態で生かしても、奴のためにはならん」
「だからって…」
「大体、『無垢』と『救世』に関しては旧英雄は抹殺対象だろうが。それを俺が殺してやった。寧ろ感謝してほしいぐらいだ」
そう言って、この場から離れようとした。しかし、その行く手を阻む様に立つ、一人の蒼白髪の男。
「『叡智』…お前も文句があるのか?」
「いいや?それよりもせっかく四人の降臨者が集まってるんだし、一つ話をしていこうじゃないか…。一人だけ抜けるなんて言わないでね」
光の無い目が『覇道』を見据える。その目を見て若干狼狽えたのか、舌打ちを一つして、その場に座り込んだ。
「そう。それで良いんだ」
「あの…シグさん、話って言うのはなんですか?」
「レイシュさん、今話すよ」
シグと呼ばれた『叡智』はニコリと笑って答えた。あの笑い方はあの邪神に若干似ていてあまり好きじゃない。寧ろ嫌いだ。
「まずはラルダさん、これを見て」
「本?」
「うん、チャゼルが魔神王の宝物庫から見つけて来たんだ」
チャゼルはどうやらシグさんの方へ行っていたらしい。良かった。私は本を受け取ってペラリと捲る。剣聖と『覇道』は横からその本を覗き込んでくる。本を見ていくと、少しだけというかかなり気掛かりな事が分かった。それに剣聖も気付く。
「え…なんで……」
「まさか!」
「何の事だ?」
「『覇道』以外気付いたよね。それ」
そう、この本に記されている主人公と私の動きが完全に一致しているのだ。一つのズレなく。そして、主人公だけでなく他の人物も全て。背筋がゾクリとした。寒気が止まらない。
「どういう事なんでしょうか…これ」
「あの神は僕達をこの世界に連れてきてこの話通りに運命を進めようとした。僕達はこの物語に出てくる登場人物、役者だ。そして、もしこの本の物語通りに事が進むとなると」
私は最後のページを見て、背筋を凍らせる。血に塗れた死体の山が大きく描かれている。
「皆死ぬ。奴が求めている怒りの日という終末理論の完成だ」
「どうすれば…これを避けれるんですか、シグさん」
「ラルダさん、そんなに怖がらなくていいんだ。簡単な話だからね」
シグさんは私の方に手を置いて目を開いたまま笑い、言った。怖い。
「叛逆するんだ。あの神が想像している運命にね」




