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第八十三話 「八十八対『覇道』前編」

 時は九十二級が吸魂を始めた時まで遡る───。


『覇道』は八十八級について行き、城を超えて、V字谷を超えた先、何やら巨大な槍やらが転がっている古びた広場へと辿り着いた。


「龍の郷の郊外にはこんな場所があるんだな」

「本当は彼処から道続きになっていたんだけどね…大地は世代交代と共に変わっていった。此処もその内草臥(くたび)れるだろうね」

「古戦場という訳か…。それで?決着を付けるんだろ?さっさと始めるぞ」


 そう言って肩に担いでいた大鉈を前に突き出す。それを見た八十八級はふふっと笑い、言った。


「うーん…。あれはあの中だったから勢いで言ったけどさ。正直、今はあまり戦いたくないなぁ…」

「ならあの時、死んでおけば良かったのだ」

「あの時は召喚されたばかりで本能のままだったからね、唐突に襲われたから応戦して、殺されそうになったから逃げただけだし。あ、八回殺されたのか」

「そのお陰でお前の性質も理解している。だから時間もある。次は完全に破壊する」

「どうかしらね…。私も貴方の戦い方を見てるから。模倣だって、対策だって出来るんだよ」

「お互い、相手の戦い方、性質を理解している。故に…」

「戦えば楽しいし、面白い」

「そうだ」


 大鉈を下げて、『覇道』もふっと微笑む。彼は限りなく鏖殺を繰り返して来たが故に、首以外の人体のどの位置を切り落とせば直ぐに死ぬかを理解している。なので毎回毎回その位置のみに焦点を置いて戦っている。しかし、八十八級はその位置を切り裂いても、切り裂いても倒れなかった。死ななかった。八十八級は彼なりに特別な存在だったのかもしれない。


「そういえば聞いてなかったね、名前」

「この後死ぬのに聞く必要があるのか?」

「あら〜?貴方も充分その可能性があるよ?」

「まぁ、そうだな…。ギドウだ」

「そう…素直に言うのね。じゃあ、私はリンデルって言うの」

「そうか。まぁ、覚えておいてやろう」


『覇道』…ギドウは大鉈を再び構えだす。もう話す事は無いという雰囲気を醸し出している。対して八十八級、リンデルは、地面に転がっていた朽ち果てた剣を拾って、それをギドウの顔に刃を向ける。


「始めましょう」

「始めよう」


 同時にその言葉を言い放ち、同時に動きに出る。互いの姿がブレて、ガキンと金属音が鳴り響く。朽ちた剣一本で大鉈を受け止める形になった。

 大鉈は当然の如くそれを粉砕し、リンデルの脳天に落ちる、と思われたが、それを身を翻して回避して、そのまま一気に後ろに下がり距離を取る。ステップで距離を広げる途中でさらに朽ちた剣を拾った。ここは古戦場。幾らでも武器は落ちている。最悪龍化してあの巨大な槍を使ってもいい。何せ元は龍戦士なのだから。


 ギドウが大鉈を上に持ち上げる。それをリンデルはすぐさま視界へと入れる。あの技は知っている。名も知らぬ国で使われた技。剣聖が見れば技ではないと否定しそうな攻撃である。


「っ…ハァっ!!」


 思い切り地面に大鉈を振り落とした。大鉈は地面に深々と入り、辺り周辺が振動する。その振動とともに辺りに落ちていた剣や槍が粉砕する。この振動はただの振動ではなく、何らかの効力が働いており、振動を受けると身がズタズタにされる。『覇道』は、斬り殺せないと分かれば、直接ではなく、間接的に身体を破壊しようとしてくるのだ。リンデルはそれを見て、受けて、殺されているが故にその攻撃に対応できる。


 リンデルは彼と同じように朽ちた剣を地面に突き刺した。すると、収まらなかった振動が段々と弱くなり、最終的に無くなった。相殺したのだ。


『常点視』。生まれつき、リンデルは目が他よりも飛び抜けて良かった。加えて、旧世代という波乱の時代を生き抜いた彼女は、一度見た攻撃を即座に対応、模倣出来る。一つ一つの筋肉の動きを見極めているが故の芸当である。


「………」


 ふらりとリンデルが揺れた瞬間ブレる。音が動きについて行けなくなり、タンタンタンという靴の音だけが聞こえてくる。


「っ──────!」


 目を見開き、ソレを頭を逸らして回避する。足音は遅れてやってくる。未だそれは目の前から。しかし足音を出している本人は既にギドウの横に居り、剣でギドウの頭を貫かんとした。

 遅れて凄まじい風圧に襲われ、辺りに散らばっていた小石が巻き散る。強風が剣の突貫から作り出されるレベルの威力。ギドウも少し冷や汗が出る。


 リンデルがその状態から一歩踏み込み、もう一本の朽ちた剣で突く。それをギドウが見て回避して、その回避に合わせ、もう片方の剣で斬り裂こうとする。その剣を体を横にずらす事で避けて、手刀で腕の間接を攻撃、剣を落とした。その隙をつき、リンデルの股下を潜り抜けて距離を取り、大鉈を上に持ち上げる。


 リンデルが体を回転させ、ギドウの元へと走る。また体がブレて姿が消える。足跡だけが遅れてやってくるため、姿が見えなくなり大鉈を上段に構えた意味が無くなる。のだがギドウはソレをやめなかった。


 あっさりとギドウの背後へと到達し、二本の剣で首を斬ろうとした瞬間。ギドウと目が合った。


「っ?」


 リンデルは分からなかった。何故ギドウと目が合うのか。そんな疑問を持っていると、自然と視界が斜めに傾きそのまま少しギドウよりも高い位置が見えるようになり。最後に視界が一面石床になった。


 ───────────────


 ギドウは半身を斬り落とされたリンデルを見て、一つ溜息を吐く。


「………(完全に上段斬りだと思い込んで背後に回ったのが間違いだ、リンデル)」


 彼がしたのは回転斬り。特に技らしい技でも無い威力に任せたおざなりな回転斬りである。だが、ソレが有効打となった。回転による遠心力で凄まじい威力となった斬撃が八十八級の硬い装甲を一瞬で斬り裂いたのだ。


「………!」


 ぞくりという感覚に襲われ、後ろを見る。リンデルは既に再生を終えていた。『絶対的不死』により彼女が事切れる事はない、どんな致命傷でも数分足らずで再生する。


「…その剣、覚えたわ」


 その言葉を吐いたのはリンデルの方だ。ポロリ、ピシッ。サラサラ。何やらかけらの様なものが風に乗って飛んでいく。ギドウは此処からが本番だと言わんばかりに、大鉈を投げ、拳を鳴らす。対してリンデルは少し崩れた箇所を抑えて立ち上がる。崩れた箇所からは黒龍の鱗の様な物が見えた。

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