第八十一話 「捕食、伐採」
〈レイシュ視点〉
ふと見渡せばそこは花畑だった。様々な花が咲き乱れてすぅっと息を吸えば、花の香りが身体中を駆け巡ってとてもいい気分になりそうな場所。
「結構落ちたけど、普通世界の作りとは根本的に違うみたいだね」
そう言ったのはシグ。私を助けてくれた人だ。自らを五人目の降臨者と言った彼はその二つ名に相応しい知識を蓄えていた。今回のこの言葉も真実だろう、きっと。
「普段なら行けない、というのは本当ですか?普通に来ちゃいましたけど」
「本当さ。今回此処に来れたのは君の『夢物語』が発動しているからだ。今頃僕達の体は眠っているだろうけど、そのお陰で来れている。此処に来れるのは魂だけだからね」
そう人差し指を立てながら言った。私の『夢物語』は本来魂と体を引き離す力なんて無かった筈なのだけど…。
「幽体離脱、って奴ですか?」
「まぁそうなるね、あっ」
「どうかしましたか?」
「ん?」
彼は「ここぐらいかな?」とか言いながら辺りをウロウロして腕を前に広げた。何がしたいのか分からなかったけど、すぐに分かった。上からシリアが降ってきたのだ。ちょうど腕のある所に。
「よし、丁度良いね」
「すまない、遅れた。そして助かる」
「私達、同じタイミングで落ちましたよね?なんでズレが…」
「通常の世界とは根本的に違うって言ったろう?」
「完全な別世界って事ですね」
「そう言う事だよ。さ、目的地に進もうか」
「目的地?」
聞き直すと、彼はうん、と頷いてずっと向こう側に指を指した。
「あっちに何か見えるでしょ?」
「え…。よく見えませんけど。シリアさん、見えますか?」
「ん、ちょっと見にくいが…凄く大きな、なんだ…?花、か?」
「そうだよ、それだよ。僕達はアレ、九十二級の本体に向かうんだ」
九十二級の本体って花だったのか、と今更ながらに驚いた。それにしても、ここから見えるぐらいの巨大な花を今から刈りに行くのかぁ…。
私ははたして斬れるのかという不安を抱えながらシグについていく事にした。
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暫く青い花道を歩いていると、ふわりと黄色い玉のような物が私達の目の前を通り過ぎて行った。
「なんだあれは?」
「生き物の魂だねぇ」
「私達も魂だけならあぁなると思うんですけど」
「僕らは夢の世界から入ってきたし、大丈夫だと思うよ。まぁ僕らが目を覚ました瞬間終わりだけどね。あぁっと、そんな不安そうな顔しないで。ラルダさんとかの魂はまだ、花の中には入って無いと思うから…けど急いだ方がいいね」
「急ぐぞ」
短い会話を終わらせて更に先へと進む。一際大きな花が段々とはっきり見える様になってきた。この距離でかなりの大きさだ。
そこから走り出して少しすると、大きな窪地に出た。そこにはあの大輪の花と無数の魂が蠢く少々気味の悪い空間だった。
「なんですか、これ…」
「溜め込んでるんだね…流石に一気に食べたりはしないよね。だけど良かった、これでラルダさん達の魂は残ってる可能性があるね。この量の貯蓄だと、何処かに紛れ込んでくれてるはずさ」
「早速斬りに行くか」
「そうですね」
「待って」
「え?」
「ん?」
シリアと私が剣を構えてその窪地に飛び込もうとすると、シグに肩を掴まれて止められた。なんなんだろうか。
「君達、何の考えも無しに斬り殺すのはやめようよ。せめて有効活用しないとね」
「え?」
「何を言ってるんだお前は…」
「奴を食べちゃおう。一欠片でも良いからなるべく多くね」
「えぇ?」
「本気で何言ってるんだお前は…」
シリアが本気で引いている。でしょうね、私もこの人が何を言ってるのかさっぱり分からない。何か意図が有って言ってるんだろうけど…。
「あー…そんな顔しないでよ二人とも。ちゃんと考えがあるんだから」
「それを言え。有益な物じゃなかったら却下だ」
「有益も有益。不利益が全く無い事だよ。ああいう魔力の塊みたいなのを食べれば、その魔力を身体に宿す事が出来るんだ。まぁ、魔力容量は個人差があるけど…九十二級の魔力を君達も物にすれば、いずれ役に立つかもしれないよ?」
「成る程な…どうする?」
「そうですね。サラダにしましょう」
「よし、決まりだ。行こうか!伐採に!」
その掛け声と共に私達は魂溢れる窪地へと飛び込んだ。もう少し高さがあったら骨が折れてたかもしれない。夢の中だから大丈夫だけど。
入った瞬間に視界を魂で覆い尽くされる。何も見えない。
「凄いですね…これ!」
「あぁ…、何も、見えない!」
「ずっと前だ!直進し続けて!」
シグの声を聞いてそのまま直進し続ける。晴れない視界の中を進むというのは中々キツイ物がある。しかし、何十歩か歩いたら、壁のような物に当たった。その壁は緑色をしていた。
「辿り着いた!」
「よし、レイシュさん!」
「はい!」
「十二級で斬りつけて!」
「了解です!」
指示を受けたので十二級を抜く。十二級は相変わらず生きているようだ。彼も彼で魔力を共有しているため、『夢物語』内では現実以上の力を出せる。剣を上に掲げる。
「あぁぁぁぁああああああああああああああっ!!!」
そして大声を上げて思いきり花に向かって斬りつけた。茎の一部だけがすっぱりと切れた。奥が見通せる。入れるな。確かに威力はあったけども…まだまだの様だ。それより、切った所から魂が溢れてるのを見ると本当に花なんだなとおもう。
「まぁまぁだね。よし。齧っておいで、シリア」
「あぁ、行ってくる」
ささっとシリアが切った所に侵入する。私達もそれについていき、内部へと侵入する。
「食べていいのか?」
「うん」
「じゃあ、お先に…はむ」
シリアが口をもごもご動かしながら少し怪訝そうな顔をする。美味しくないみたいだ。と思ったら、目を光らせてた。
「美味しいぞこれ」
「そうかい、それは良かった。じゃあここのあたりだけで良いし、内部から斬っちゃおう。やっちゃおう」
「はい、分かりましたよ」
私は内部を斬り広げて、そこから思い切り円状に斬り裂いた。暫くして、ギギギという軋む音がした。倒れる。魂の事をすっかり忘れていた。
「シリア、使えそう?」
「ん、やってみる」
そんな声が聴こえてきて、私は取り敢えず侵入した場所へと戻る。すると、シリアが両手を広げて何か操作のような物を行なっていた。
魂がゾロゾロと手の動きに合わせて動いている。
「これが魔力ですか?」
「あっ、お疲れさま、レイシュさん。そうだよ。九十二級の『結魂』だね」
「魂の使役ですか。微妙な能力ですね。それよりも、倒れてしまいます。このままじゃ魂が下敷きに…」
「任せておけ、ええと…これを」
左手をすっと横にずらして、右手を左の方にずらした。すると魂がゾロゾロとその指示に従う様に動く。壁の方に物凄く集合している。避難態勢ばっちりだ。
私達もそちらの方へと移動して、倒れるのを見守る事にする。
「念のため結界を張っとこう」
「ありがとうございます」
「助かる」
結界の中から倒れる様を見守る。ギギギ、ギシギシという音を立てながらそれは倒れた。
砂埃が巻き起こるが結界のおかげでなんともない。凄いな、『叡智』の結界というのは。
「さて、じゃ、とどめと行こうか」
「私がやる」
「分かりました」
そう言って凄い勢いで突っ切って言った。そして槍を突き刺した。
すると忽ち炎が燃え盛り、どんどん広がって最終的に全体に広がった。
「凄い熱気ですね…」
「そうだね」
暫くして炎は消えて完全な炭になった。そして、九十二級の死滅によって世界が壊れ始めたのか空がひび割れていく。
「世界の崩壊だね」
「魂を抑えとこう。元の世界に帰った時に皆、帰れるように」
「そうですね」
世界が崩壊すると同時に視界が光輝いた。




