第八十話 「噴燼巻き散る剣の嵐」
紅い空、風化した地面。殺風景とも取れる風景に成り果てた地を見てシリアが言う。
「此処はなんだ?レイシュは私の世界、と言っていたが」
「そのまんまさ。僕達は連れて来られたんだよ。彼女の心象世界にね」
レイシュは千本までなら剣を何本でも精製出来る。その千本の剣達はとても脆弱で、短い剣だ。…一本の剣を除いては。その短剣は滅多に抜かれる事はない。何故ならその剣が剣を精製しているからだ。抜くとしたら千本目、または勝ちを取りに行く時だろう。それが、今だ。
「あの剣は彼女が異世界から来た時から持っていた剣だから僕も詳しくは知らない。だけど、望月から聞いたんだけどあの剣には名前があるんだ。シリア、君は知らないかもしれないけど、君の中の子達は知っている筈さ」
「…私の中の?どういう…事だ?」
「シリア…その体が仮初めの体なのは分かってるだろう?まぁいいや。今は彼女の剣の話だったね」
「…あぁ」
「月神の住処へと踏み入れる為の扉の鍵、全ての剣の源流とも言われてる。真銘はヤタカガミだったか。彼女はそれを抜いたのさ。元は刀身を見ればこの世界に飛ばされる、という物だったが…どういう変化だろうねこれは」
そう言いながらシグはレイシュと九十二級の方へと向き直る。二人が話している中、もう戦いは始まっていた。複数の剣が飛び交い、それを剣で弾く音が響く。
九十二級が一本弾く度にレイシュは更に二本を九十二級に向かって飛ばしている。一本を弾き距離を詰めようとする九十二級だが、さらに後続で二本飛んでくるので距離を縮める事が出来ない。
レイシュは九十二級、もといクレイが振るう剣の性質を知っている。最初は何一つ斬れない脆剣だが、物質が擦れる度にその斬れ味が増していく。そして弾く度に辺りに噴燼が撒き散らされ、ある一定量を超えると大爆発を引き起こす。
それを知っているからか、レイシュはピタリと剣撃を止めた。それを見計らい、九十二級がレイシュに猛進する。そして一気に距離を詰めて剣を振り上げ、その剣を思い切りレイシュの脳天に向かって振り下ろす。
「っ…」
振り落とされた剣はいとも容易く止められた。力任せに振り落とされた剣は二本の剣によって完全に止められた。力が拮抗しあい、ギシギシと剣が音を鳴らす。
「九十二級、貴方…」
─────ピシッ。
鉄が割れる音が静かな空間に響いた。その音の鳴りどころは剣なのだろうがどちらの剣なのかは分からない。力で押し通し、頭を割ろうとする九十二級に対し、二本の短剣でそれを防ぐレイシュ、その攻防は、どちらかと言われれば、レイシュの方が優勢に見えた。
「剣を、握った事が無いんですか?」
─────ビシッ。
鉄に決定的なダメージが入る。その音が鳴った瞬間に九十二級の剣の刃が砕けた。僅かながらにレイシュの方が上手だったらしい。
剣が砕けたと知った九十二級はバックステップを踏み、距離を取った。しかし、そこまでもレイシュの想定通りだった。
レイシュは空中に十本の剣を精製し、その十本の剣で地面を思い切り引っ掻いた。すると、風化した岩肌はたちまち粉状になり巻き上げられ、煙幕の様になった。
「残念です。私の知ってるあの人は、そんな力任せに剣を振るなんてしなかった。結局は身体に乗り移るだけで、身体能力とかは変わらないんですね」
その言葉をレイシュが砂嵐の中で呟いた時、残り全ての剣を精製した。総数六百六十本。その剣は砂嵐によって隠され、何処から飛んで来るのか分からない。九十二級は砂嵐の中辺りを見回し、周囲を警戒する。その警戒は無駄だと言うのに。
剣が一斉に九十二級目掛けて飛びかかる。当然、砂嵐の中から突然姿を表すのだから対処しきれない。九十二級は無抵抗のまま串刺しにされる。続いて二本、三本、四本…。串刺しにされる。
砂嵐が止むと、そこには大量の剣に刺された九十二級の姿があった。レイシュはそんな九十二級に近づく。そして、頰に触れて言う。
「終わりです。さぁ、口を開いて下さい。私達を皆さんのいる所に連れて行って下さい」
「……………行った所で無駄な事だ。それでも……行くのか?」
「当たり前です。まず行かないと進みませんからね」
「そうか………好きにしろ」
そう言うと忽ち緑色の穴が九十二級の周りに出現した。奥を除くと此処の景色とは違う風景が広がっている。これが九十二級の本拠地。
「さぁ、二人とも行きましょう」
「あぁ」
「うん」
レイシュに声を掛けられた二人は直ぐに返事をして穴に飛び込んだ。




