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第七十八話 「蒼き花園の上で陽光が輝く」

 蒼い花園に変わってしまった大地は風も無くざわめく。異変は私達に直ぐに襲い掛かってきた。


「この感じ…」

「なんか頭がぼんやりする…」

「───っ、?」


 ウェインさんやモチヅキが症状に見舞われた。八十八級の情報通りだ。蒼い花が生えている所に少しでも留まると次第に意識を吸われていく。実際に私も、体が痺れるし、視界も揺れてる。不味いな、このままじゃ…。

 そんな中、八十八級が突然声を上げる。


「─────っく!『覇道』!」

「…あぁ?」

「あんたの目的は私でしょ!?あの時の決着つけてやろうじゃない!」

「…だそうだが、行っていいのか九十二級」

「勿論だ。行ってこい。此処は俺が一人で片付ける」

「はっ、そんな事言ってっと負けるぞ?」


 そう言いながら『覇道』は何処かへと跳んでいった。あの大鉈ってかなり重いはずなのによく跳べるなぁ…。それについて行くように八十八級もついて行った。もしかして、決着を着けると言いながら、『覇道』を遠ざける事によって『覇道』の魔力減退範囲から私達を抜けさせようっていう作戦なのかな。なるほどね。

 ていうかもう意識が朦朧としてきてるんだけど大丈夫かな…、大丈夫ではないか。

 九十二級は目を瞑り、頷いてこう言う。


「生物の記憶、魂というのは美味な物だ。よってお前らが今必死に意識を繋ぎとめて居る所を見ると、最後まで吸い出したくなってしまう」


 ざわりと花が揺れ始める。下から何かに引っ張られる様な感覚に襲われる。他も同じ感覚に襲われたのか、下を見てあたふたしている、うちに一人がふっ、と倒れた。モチヅキが急いで抱きとめる。


「サテラ!?おいっ!しっかりしろっ!」

「まずは一人目」


 サテラの卒倒を皮切りにウェインさん、クレス、おじ様、イースさん…とどんどん倒れていった。全員が目から光を失い虚空を見つめながら倒れ伏していた。全員が意識を吸い取られたのだ。


「モチヅキ……!私もそろそろ…保ちそう、に無いや…」

「なっ…!ここで倒れたら…誰が奴を……」


 モチヅキは何かを言いかけて倒れた。残ったのは私とシリアさんと炎帝だけだった。他は皆卒倒してしまった。炎帝に関しては私と同じくギリギリで持ち堪えている様だった。一方でシリアさんはなんともなさそうだった。

 ────────え?

 シリアさんが歩き出し、もう意識が途切れそうになっている炎帝の足をポンポンと叩き、こう言った。


「無理をするな炎帝殿。貴方達龍帝はよくやってくれた。此処は私に任せてくれ」

「フルルルルルルルルルル……」


 炎帝は首を曲げてシリアさんに顔を近づける。シリアさんはその顔を撫でる。なんで戯れてんだあの一人と一体は。なんて思っていたら、炎帝が力無く倒れてしまった。


「さて、ラルダ。」

「──────っ、?」

「貴方も寝ていいんだ。起きればこの戦いは終わっている」

「え?」


 シリアさん一人で何を?次第に意識が無くなっていくのに何を考えてるんだこの人は。いや、だとしたらウェインさんの次には脱落していたはず。なんでこんな平気な顔で立っていられるんだ?

 と言っても、私はもう限界だ。彼女の戦いを見たいと思ったがそれは叶わなそうだ。彼女の言った通り、眠るとしよう。身体から勝手に何かがスルリと抜け出して身体の融通が効かなくなり視界が真っ暗になった。


「それでは始めるとしよう。九十二級」

「何の真似だ槍兵。一回花に喰われてしまった魂は戻らんのだぞ?」

「其方は大勢で取り囲むよりも一人で挑んだ方が楽しめそうだと思ってな。夜明け前の吾じゃ魔力も使えないし、ただの置物同然だからな」

「つまりはお前が前線に出たいから、味方を捨てたのか?」


 そこで会話が聞こえなくなった。完全に意識が持ってかれてしまった様だ。


 ───────────────


 ラルダが倒れた後も会話は続いていた。シリアは九十二級の問いに頰を掻きながら答える。


「まぁ、そうなる。それに彼らはお前とは相性が悪いのだ。だからこの蒼い花に喰われた。最もお前との相性が良い奴なんて、魂が二つ以上ある人ぐらいじゃないのか?」

「さてな。魂が二つ以上宿った奴なんざ見たこともなかったからな。だが、今日この瞬間お眼鏡に叶った。槍兵、お前幾つの魂をその身に宿している?」


 九十二級が険しい顔で問う。だが、シリアは答えない。自分の身体に宿る魂の数なんて分かるものか。という思いが表情から出ている。


「知らない。だけどこうして吾がこの花畑の上に立っていられるという事は複数のソレが宿ってるんだろうな」

「そりゃ面白い。混同した魂を抜き取るのは面倒だが、跡も残らず抜き取ろう。全ては成長の為だ」


 空が段々と明るくなっていく。夜明けだ。シリアが頭に巻いていた魔力抑制の帯を外す。この夜明けの刻から、彼女の戦闘力は増長していく。

 シリアは槍を器用に振り回し、最終的にその先を九十二級へと向けた。


「(ああは言ったが、混同した魂とはいえ抜き取るのは容易だ。だが、吸魂を激化させても全く吸えないのは何故だ…?)」

「武器を構えろ九十二級、話はもう良いはずだが?」

「あぁ、そうだな…」


 太陽が岩の間から出てくる。太陽光が槍を敵に向けるシリアと九十二級を照らす。九十二級は手をグッと音が聞こえるぐらいに強く握り、それに反応するようにシリアが前屈みになる。

 ざわりと花が揺れる。魂を吸おうという動きではなく、風によって揺れているのだ。そんな中、足に重心を掛けて、凄まじい勢いでシリアが飛びかかる。対して九十二級は正拳を構えてその場に留まる。

 そしてシリアがあっさりと互いの距離を縮め、槍を心臓に撃ち込もうと手に力を入れたその時、九十二級は身体を逸らし、その軌道から外れた。


「───────っ、あぁぁぁぁ!!」


 シリアは避けられたと判断し、その場で着地する。そのまま寸分違わずその場でくるりと九十二級の居る方に回り、さっき溜めた分の力で一突き。その一突きは、音よりも速かった。が、九十二級はそれを手で止めていた。軽くいなされていた。


「……」

「っ!」


 九十二級は一瞬出来た隙を突き、槍を九十二級側へと引き寄せ、シリアとの距離を少し詰める。そして、距離が近くなり、槍という障害物が無くなり、無防御な所で正拳突きの構えを取り、その正拳が放たれた。

 しかし、その正拳が当たる事はなく、近距離からのシリアの飛び膝蹴りが見事に炸裂する。少しだけ九十二級の体が宙に浮き、口元から血が吹き出る。そして、急いでその場から後退り槍を扱えるぐらいの距離を取ったシリアは銅金の方を持ち、思い切り九十二級の腹に石突をぶつけた。

 何も出来ぬまま攻撃を食らってしまった九十二級は衝撃で仁王立ちのまま後ろに下がり、少しの間停止する。シリアはそれを好機と見たのか、全力を出し、その槍に魔力を込めて標的に向けて投擲した。

 そして、勢いよく走り出し、モチヅキの仮死体の懐に携えてある剣を一本拝借し、それを抜いて九十二級へと近づく。

 シリアが九十二級に近づききったその時は槍が刺さる前だった。九十二級は槍に対して両腕での防御の体勢を作り、なんとかして胴体への損傷を防ごうとした。

 しかし、横からの斬撃は想定していなかったのだろう。右腕を切り落とされてしまった。


「──────っなぁっ!?」


 九十二級は驚きを隠せないまま、体をのけずらせてしまった。それにより槍が心臓を抉り、ヨロヨロと後ろに数歩下がった後、ばたりと倒れた。倒した。


「……あっけないな」


 蒼い花畑も九十二級が倒れた瞬間枯れ始めて、最終的に何も無くなり、また殺風景な岩肌が現れた。しかし、やはりというべきか、魂を吸われた人達は起き上がろうとしなかった。


「……」

「シリアさん」

「!」


 後ろから優しげな声がする。振り返ると其処には服が所々破けたりボロボロになった剣聖が立っていた。彼女はこの場を見て、シリアに尋ねた。


「何があったんですか?」

「旧英雄の吸魂によって皆吸われた。残ったのは私と八十八級だが、八十八級は『覇道』との決着を着けると言って行ったきり帰ってこない」

「成る程」

「九十二級は倒したが…」

「それはありません」

「何?」


 シリアは焦る。今ここで心臓を抉り死んだ。死んでいない筈が無いと焦り出す。

 剣聖はそんなシリアに教えるように指を指して言う。


「彼処に血痕があるので確かに心臓を貫いたんでしょう。ですが、その死体は何処ですか?」

「…な、無いっ!」

「この通りです。彼は死んだと見せかけて、この隙に何処かへ行ってしまったんです。ですが、このまま帰すわけにはいきませんよね?」

「…勿論だ」

「そういう事なら蒼い花を探しましょう。それに擬態していると思うので」


 そう言いながら剣聖はうすらと笑顔を浮かべた。何故この女はこの状況でも笑えるのか不思議でならないとシリアは思った。

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