第七十六話 「誘導」
木箱を開けられ、二人の殺人鬼から見下ろされる。私は身を起こし、二人を見る。この時、死ぬかもしれないとは思ったけど、何故か動揺はしなかった。私はこの時、不思議と落ち着いていたのだ。
「ん……。あんまり恐怖を感じないのか?」
「んー…。まぁね。私はそういうところが欠落してるのかも」
「ふん、面白くない小娘だ」
「そう、面白くないなら見逃してくれるとありがたいんだけど」
私がそう言うと、男は目が据わる。奥にいる見た感じボロボロの男は私をちらりと見てふんと鼻息を立てた。
「馬鹿が。逃す訳が無かろうて」
「やっぱりそうかー…。じゃあ…しょうがないか」
私は立ち上がり、木箱から出て、両手を上げた。生前、テレビとかでよく見たアレである。二人はそうしている私をじっと見る。私はそこから少しずつ動き、この部屋の出口である扉がある通路へとついた。この部屋は本棚や木箱が大量にあるので一種の図書室の様になっているが、出口は一方しかない。なのでこの通路につくしかない。
私と二人は見合いながらその場に留まった。
そして、少しの時間が経った時、私は全速力で出口に向かった。
「!」
「追うぞゲンナイ…。あんな長耳族だが、奴は早急に片付けておく必要がある」
「わぁってるよ…。ってか、お前さんも本来あっち側だろうになぁ」
「今はお前とペアだ。協力して何が悪い」
「まぁそうだがよ」
そんな会話を挟みつつ、追跡が始まった。
此処からは所定の位置まで鬼ごっこだ。
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扉を開け、そのまま二人を奇襲した窓から飛び降り外に出た私は外に隠して置いといた黒い小さな箱の様な物を拾う。この時間ならば絶対にバレないと思ったので置いといたが本当にバレなかった。良かった。
「神器展開、っと」
そう呟くと、黒い箱は忽ち巨大な弓へと変貌した。本当に何故重くないのか不思議だ。
私は弓に成りきったのを確認した後、再び居城の中へと全速力で突っ込む。今回は前門からだが。
前門を抜け居城の内部へと入り、大広間へ入る。当然誰もいない。後ろから二つの足音が聞こえてくる。不味いな、追いつかれる。この弓から魔力供給されるからフルで使うか。
そう思い、私は大広間を抜けて長い長い廊下に出る。そこで全速力で走りながら、自分の脚に魔力を集中させる。
「はぁっ!」
『霹靂』により一定時間の加速を得る。この状態から身を低くして更に速度上昇を試みる。生前だったらこんな本気で走ったら死んでただろうなぁ。この体は凄いよ。
さっきまで近くまで聞こえてきていた足跡が遠ざかる。差は開いた、この調子だ。もう少し…!
『覇道』とゲンナイは急加速したラルダを見て口を開いた。
「魔力を行使された…?」
「俺の『覇道』の範囲外だったか?いいや…」
「まぁいい、追うぞ」
会話は直ぐに途切れ再び無言で走り出す。ゲンナイはラルダの使用した魔力を知っている。故に、そのまま走り続けた。
長い廊下を走り続けること数分、本気で走ったからか息が切れる。
「──────はぁっ、はぁっ────!」
止まれば、少し遅くなれば、捕まる。捕まれば、死ぬ事になる。そんな事は当たり前の様に知っていた。だが、次第に速度は遅くなっていく。魔力の弱化が始まった。『覇道』の降臨者の魔力の影響を受ける範囲に入ってしまった。
「ぐっ、」
私はそこで動きを止めてこれまで走ってきた廊下の方を見る。誰もいない。
「……!上か!」
その場からバックステップをして上からの攻撃を回避する。数秒後、上から大鉈を持った男が大鉈を振りかざしてやってきた。さっきの男とは違う。こっちが『覇道』の降臨者か。遅れて彼の後ろから髭の男が到着する。
「追いかけっこは終わりか?」
「………はっ、……はぁっ……はぁ、ぐっ、はぁ……」
「もっと抗うと思ったが、大した事なかったな、死ね」
『覇道』の降臨者が大鉈を振り上げる。だがしかし、此処まで来れば此方の物だ。私は此処で待ち伏せて居る一人の男、いや、龍を呼ぶ。
「おじ様ぁぁぁっ!!!!!」
「シャアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
「なっ!?」
一体の銀龍が私の呼び声に応え、城の壁を破壊して出現した。大鉈を振り上げていた『覇道』の降臨者が、私が殺される所を見ようとしていた髭の男が。その突然の出来事に動きを止める。
「失踪した筈の龍帝エルドラードが何故!?」
髭の男が驚きを隠せず叫ぶ。龍となったおじ様は大きく息を吐き、それを思い切り二人に向かって吐いた。ドラゴン特有のブレス攻撃という奴だ。おじ様のは特別製で、高密度の雷光線だが。
二人はそれに対応出来る訳がなく、おじ様のブレスを喰らった。私はその隙におじ様の背中へと飛び乗り、一先ず命は助かったと安堵する。
おじ様のブレスによって周囲の壁や天井なども巻き込まれ、崩落してしまい、二人は瓦礫の下敷きになってしまった。これがおじ様の本気の『雷帝』か…。すごいなぁ。
おじ様の背中に乗りながら破壊した壁を抜けて中庭に出ると、六体の龍帝と私の仲間達と八十八級がいた。
八十八級はおじ様から降りた私に気付くと、さささっと近付いて来て肩を叩いた。
「ここまで二人の誘導お疲れ様!怪我はない?」
「はい、なんとか…本当に危なかったですけど…」
「そう、でも無事なら良いわ。だって、まだまだ始まったばかりですもの」
「え?でも瓦礫の下敷きに…」
「そんな物で死ぬ訳ないじゃない?瓦礫から出て来た瞬間魔力を行使できる者で集中砲火する。私とモチヅキは魔力を持ってないからそれには協力できないけど。それでダメだったら…一人一人相手にしないとダメね」
そう彼女が言うと、ガラッと瓦礫の方から音がした、全員の視線がそこに集まる。龍化した龍帝達は息を吸い、ブレスの準備をする。私やウェインさんも魔力放出の準備をする。『覇道』の魔力減退はフルパワーで放てば何とか物に出来るのでそれでなんとか火力を底上げしなければならない。
全員の準備が整った時、瓦礫から二人が姿をあらわす。無傷だ。あの二人の耐久力はどうなっているんだろうか。
その瞬間七方向から様々な属性ブレスが放たれる。私達の魔力放出は『覇道』に近づくにつれ弱まり、無くなってしまった。やっぱりだめか。
七方向からのブレスは二人にぶつかり、そこで七つが融合し、爆発を引き起こした。爆発というより発光だ。辺りが光に包まれ、収まったと思い目を開けると、城の大半が消し飛び、二人が居た場所は黒焦げになっていた。
「やった……?」
私はフラグになりそうな言葉を呟く。すると、あっさりと八十八級がこう口にした。
「いいえ、まだね。どちらの魔力の反応もまだ色濃く残ってる」
安定のフラグ回収である。やっぱりこういう言葉は使わない方が良いな。うん。
黒焦げになった地点から、一輪の蒼白い薔薇の様な花が咲いた。なんだと思ったら、だんだんとそれは咲き乱れていき、次第に岩肌が露出していた地面は蒼い花に包まれた。
「不味いわね…これで奴、九十二級は無差別に魂を抜き取れるようになった」
「八十八級、俺たちを裏切りそちらに就くとは何事だ?」
「………」
「だんまりか。まぁそれも良い。裏切ったと言うのなら、やる事は一つ、殺すだけだからな」
そう言って、九十二級と呼ばれた男が八十八級に手を伸ばす。不味い、あの構え、どう見ても!
私が早く離れて!と言おうとした瞬間、ドサリという音が私に耳の中に響いた。
その音は八十八級が倒れた音ではなかった。私は、ゆっくりと向こうを見る。すると、九十二級は『覇道』によって右腕を断ち切られていた。
「八十八級は俺の獲物だ。勝手に殺そうとするんじゃねぇ…」
「チッ。ったく…」
九十二級は残った左腕で煙草を取り出し、それを口に咥えて、それに火を付けて吸い始めた。九十二級の仕草から、そうとう苛立っているように見えた。




