第七十五話 「二人の殺人鬼」
剣聖は十二級が辛うじて繋ぎ止めてくれた意識の中、二人が更に郷の奥、龍帝達が棲む根城の方へと向かうのをただ見ている事しか出来なかった。
「────、っはぁ…はぁ…」
剣聖は仰向けのまま、右手で左の脇腹を抑える。地面に激突した拍子に肋骨が何本か折れたのだ。肺に刺さらなかったのが不幸中の幸いとでも言うべきか。
「十、二級…。現実改変による治療は可能ですか…?」
『生憎だけど無理だね。あの『覇道』という男の能力か特質かは分からないけど、魔力がかなり弱まっている。こんな状態でしたら君をもっと壊してしまう』
「そう、ですか…。───っ、がはッ!」
剣聖は上にまで運ばれて来る血や胃液を咳き込みながら吐き出す。剣聖は胃液が通った事による喉が焼ける様な痛みに襲われ再び咳き込み、漸く治った所でふぅ、と溜息を吐いた。
「じゃあ、仲間が来るまでの辛抱ですね…。問題は、私の体力が保つかという事と仲間なんですけどね…」
『そうだね。ていうか君、結構意識保ててるね」
「だって貴方が繋ぎ止めてくれてるんじゃないですか」
『あれはあくまで応急処置、僕は今何もしてないよ』
「じゃあ…単純にあの殺人脚を耐えるぐらいの耐久力は持つようになったって事ですかね…げほっ」
『良い事じゃないか。昔耐えれなかった攻撃を耐えれる様になったんだしさ』
「それでもここまでやられましたけどね」
彼女はその夜の間、十二級と話し続けた。十二級も彼女の話に飽きる事なく付き合った。十二級は分かっていたからだ。彼女を今此処で眠らせれば、その眠りは永遠の物になってしまう事を。
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一方剣聖を無力化した『覇道』とゲンナイの二人組は場所を移動して、龍帝の棲む城下までやってきていた。当然ながら民は居ない。全員家でご就寝だからである。
「『覇道』、どうだ?」
「あぁ、居る」
「了解した」
その短い会話を終わらせゲンナイは開いた右手を上に掲げる。ただ掲げただけで何も無い。少なくとも普通の見方では。『覇道』はゲンナイの人の殺し方を知っている。眠っている人の夢に入り込み、その人の意識ごと喰らう事で永遠の眠りに陥れるという物。最初は一人ずつなのだが、他の国で大量の民を喰い荒らしてきたこの男は既に広範囲で捕食を可能にしていた。
暫くして、掲げていた手を下ろし、喉元を鳴らすような感じで笑い出す。
「くっくっく…終わりだ。満たされた…」
「んじゃまぁ、城に潜り込むぞ」
「了解した。だが、分かって居るのか?この城に八十八級が居なかった場合七…いいや、六体の龍帝と相対する事になる訳だが」
「望むところだ。俺は龍殺しってのもなってみたかったんだ」
「お前、なんか朝の時よりイキイキしてるな」
「そうか?ちょっと体を動かしたからだな」
そう言いながら大鉈を肩で担ぎながら居城へと向かっていく。ゲンナイはそれを見ながら、ふっ、と笑う。今度の戦いは俺の出る幕は無いな、と彼を思った。
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そんな二人を居城の窓から待ち構えていた私は、弓を構える。八十八級の指示でもしも剣聖が突破された時に不意討ちで傷を与えろと言われたので一応弓師である私はずっと構えていたのだ。
「剣聖は突破されちゃったか…。そして、さっきのが夢喰いかな…。じゃああの手を上げていた男じゃなくて、もう片方の男を狙って…」
『猟眼』を開眼し、ちゃんと狙いを定める。狙うのは足。足を矢で突けば後々の機動力に関わってくる。だから自然と狙いは足へと定まった。
「(………!ここ!)」
力強く引いた弓を放す。その音はもう弓の音ではなく銃弾の様な物だった。銃弾の如く矢が一直線に『覇道』の降臨者へと向かっていく。
「がっ!?」
「(よしっ!当たったみたいだ!)」
それを確認して急いで中へ隠れる。最初の一撃を外していた場合、もう二度と攻撃は出来なかっただろうし、これは成功だった。私は外から聞こえてくる会話を聞く。
「…矢だと?」
「…お前も不意打ちを受けるんだな」
「…ちっ!何処から撃ちやがった!出てきやがれ!」
「…まぁまぁ落ち着け『覇道』。その刺さった矢の向きと角度を見れば撃ってきた方向が分かるだろ?」
「おっ…。あぁ、そうだな」
「つまりは…」
私はその大きな会話を聞いてゾッとした。バレてる。奴らは此処にくる!
「(どうしよう……何処か…あっ、此処だ!)」
一先ず目に入った小部屋へと入る。小部屋を使われて居なかったのか、ちょっとキツい臭いがした。この臭いは紙とインク、それとカビの匂いかな。
「(一先ずここの木箱に隠れとこう。バレたらバレただ!)」
暫くして足音が隣の部屋から響いてきた。入ってきた。そして少しの間、ゴソゴソ、ガサガサと何かを漁る音が聞こえた。こう聞くとただの空き巣である。そして、会話が聞こえてきた。
「居ねえな…」
「確かにな。ん?この扉の向こうに行ってないよな?」
「あぁ。行くか」
「おう」
ガタンと扉が開けられる。私は出来る限り息を止めて、気配を殺した。どうか通り過ぎてくれますよう、願いながら。
暫くして、私の近くで足音がなった。私はとてつもなく強張ったが、通り過ぎて行って安心した。だが…突然視界が明るくなる。
「みーつけた」
「っ!?」
整えられた髭を持った男がニヤリと笑う。なんで?なんでバレたっ!?




