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第七十四話 「対談」

 炎帝は旧英雄は抹殺対象と言った。だがしかし、その中でもただ一人だけは殺せない者が居ると教えてくれた。


「それで?その旧英雄の階級と位はなんだい?」

「位は最上位、階級は八十八だ」

「ふーん…。でもどうして殺せないんだい?君はそう言うのに対して容赦しないタイプだろう?」


 おじ様がそう尋ねると、炎帝は一瞬目を逸らして、手を組みながら言った。


「加護の『絶対的不死』により如何なる方法でも死なないのと、我々龍族と馴染み深いお人だからだ」

「────馴染み深い?」


 おじ様がその言葉を聞いた瞬間、ピクリと反応して、疑問にして返した。その質問に対して炎帝はこくりと頷いて続けた。


「魔力を有さずに産まれ、武力だけで龍族最強に上り詰めた女性を知らない訳が無かろう?なぁ、雷帝」

「……勿論だ。だが、そんな方が旧英雄に入ったのか?」

「あぁ。お互い敵同士。彼女は我々に牙を向けるだろうさ」

「そうか…。最強の龍戦士に勝てる訳が無いよな…。君が殺せないと言うのも大いにわかる」


 そう言って二人で頷いていた。話は勝手に終わったが、そんな旧英雄でも私は『救世』の降臨者として殺さなければならない。でもどうしたものか…。

 私は私で何か良い方法が無いかとあくせくしていると、扉が開けられた。そこから快活な女性の声が響き渡る。


「こんにちはー!私の話をしてる所悪いけどお邪魔するわね!」

「!?」


 場に居た全員がその女性を見た。その視線を受けた女性がむすっとした顔で言う。


「あれ?話と全然違うじゃないあんたの仲間!」

「当たり前だ。突然入って大声上げたら誰でもそうなるだろ」

「モチヅキさん!お帰りなさい!」

「あぁサテラ。ただいま」

「モチヅキ!?その連れている女性は──!?」


 サテラがモチヅキに走って近寄り、おじ様がそう言いながら立ち上がりモチヅキの肩を掴んで揺らす。モチヅキは話すから揺らすのを辞めてくれ、とおじ様を制止し、乱れた服を直して咳払いを一つした。


「炎帝殿、霊泉の手配助かった。お陰で健康そのものだ」

「あ、あぁ…。それより…」

「彼女は霊泉で出会った。旧英雄なのに全く悪の要素が見当たらない。もし彼女を殺そうと言うなら考え直せ」

「いやぁ、えへへ…」

「望月さん、貴方、何か変わりましたか?」

「──?いいや、何も」

「そうですか」


 突然の旧英雄とモチヅキの乱入で一度騒然としたが、その後は八十八級が旧英雄について色々と話してくれた。話している内に気がついたのだが、彼女に敵対心と言うものは一切無く、寧ろ此方に凄く友好的に接してくれた。

 こういう旧英雄も居るのだな、と肝に免じて置くことにした。


「それでまぁ、今この世界に残っている旧英雄は私達最上位全員と上位が数名ってとこね。あとは、剣聖さんが持っているその黒剣、それも旧英雄よね?」

「……!……凄いですね。よくお判りです、それと一つ良いですか?」

「何かしら?」

「貴方は何故、私達にそんなに友好的なんですか?貴方達にとって私達は抹殺対象でしょう?それなのに貴方は何故何もせず私達にこうも色々な情報を提供してくれるんですか?」


 その質問に対して八十八級は口をつぐんだが、暫くしてため息を吐いて答えてくれた。その答えはとても意外な答えだった。


「モチヅキには話したけど……。旧英雄を殺してもらわないと困るからよ」

「それを旧英雄である貴方が言いますか?」

「えぇ。言わなきゃいけない。そして旧英雄を全て殺さないといけないの。他の誰でもない、貴方達降臨者がね」


 そう言って八十八級は私達に指を指した。

 え?でも降臨者って確か戦争の抑止者として呼ばれた者で…まさか、もうそんなレベルでは無いってこと?


「貴方達は私達を殺して一つの答えを導き出さなきゃならないの。この終わらない物語を終息に導くためにね」

「……終わらない物語?」

「そう。この世界の時間なんて結局は神が決めた運命、物語にすぎない。いくら反発したって神はその物語の分岐点を幾千幾万と持っているから結局は物語が終わらなくて延々と続いてしまう。それを今回で断ち切らなきゃならないの」


 頭がこんがらがる。あの神が今のこの世界、物語を綴ってる?……うーん。

 私が悩んでいるとふと思いついた様に八十八級が言った。


「モチヅキが青い薔薇の夢を見た。と言っていたわ。青い薔薇の夢を見たって事はこの近くに九十二級がいる事が確定よ。誰かが侵入を阻んだ方が良いわよ。彼を放置してると段々と夢の青薔薇が成長して他の人の夢にまで入り込んで人の意識まで食べちゃうから」

「それって、クレイさんやばいんじゃ…」

「私も行った方が良いですね」

「え?剣聖?」

「剣聖さん、大丈夫なんですか?」


 サテラと私が剣聖に心配の声を掛けるが、立ち上がって玄関へと向かう剣聖は私達に振り返り、笑顔を見せてこう行った。


「大丈夫です。私は『夢見の剣聖』とも言われてますので」


 そう言って外に出て行った。私は彼女を心配しながら窓を見やると外はもう暗かった。


 ──────────────────


 そんな経緯で今に至る。『覇道』を数手で無力化した剣聖は折れた剣を複製し直し、三本目、四本目の剣を作り直す。真っ正面には端正に髭を整えられた男、最上位旧英雄九十二級ゲンナイが立って居た。


「なんだ?十二級を抜かんのか?」

「あくまで奥の手ですから。暫くは千剣で相手しますよ」

「くっはっは!面白い!そげな脆剣、全て折ってやろう!」


 剣聖が二本の剣を構えてゲンナイに向かって走り出した時。腰に携えられた旧英雄十二級は


『(違うんだレイシュ。君はここで僕を引き抜くべきだった。出し惜しみなんかせずに、最初から殺す勢いで立ち向かわないとダメだったんだ!じゃないと彼は…)』


 剣聖は音が追いつくより先に動き、ゲンナイの首をかっ切ろうと回転剣舞をした物の、手応えは一切無く、避けられたと、直感的に悟った時は遅かった。ゲンナイの冷たい視線と目が合う。

 この時、剣聖の身体中にゾワァっと寒気が襲った。記憶を全て失った筈なのに、身体がそれに反応してしまう。ゲンナイは足に力を入れ、ある一つの構えを取った。


「(あの動き、まるで…まるで…!)」


 剣聖の消えた記憶が一つ蘇る。蘇ってしまった。一人の友人であり教え子だった子を守る為に絶対に勝てぬ相手に挑んだ時にされた蹴り。ゲンナイの構えはその蹴りを放つ構えにそっくりどころか全く同じ物だった。

 瞬間、蹴りが放たれる。遠心力によりさらに威力を高め、確実に相手を屠る為の殺人脚。蹴りは綺麗なほどに剣聖の鳩尾へと抉り込まれ、一気に体内の物が上がってくるのを感じた。


「─────っ!か、はっ!」


 その威力が一気に爆散し、衝撃で凄い勢いでぶっ飛ばされる。地面を転がり、跳ねるぐらいの勢いだった。

 剣聖は立ち上がれず、そのまま、気を失った。


「なんだよ…もう終わりかよ。つまんねぇの」

「……」

「おい、『覇道』。起きてんだろ?」

「…あぁ」


 ごそごそと『覇道』が立ち上がり、剣聖を見やる。


「奴の夢は食わないのか?」

「あぁ、奴にはそれよりも嫌な事をしたからな」

「そうかよ」


 そんな会話をしながら二人はさらに龍の郷の奥へと入っていくのだった。

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