第六十八話 「辿り着いたのは変わった龍の都」
氷の橋を渡る事はや二日が経とうとしている。しかし、一切陸地が見える事はない。途中までは会話が聞こえたりもしてきたが、今は無言だ。一体いつになったら辿り着けるのか。全員この思いだけで動いているのだろう。
「……なぁ、ラルダ。俺はよく見えないんだが、あっちを見てくれないか?」
「え?」
クレスに突然声を掛けられ、彼が指差す方を見る。が、岩山しか見えない。遠すぎるのか…?
「何も見えない、けど?」
「ん…。お前の魔力眼でもか?」
「いや、それはまだ試してないけど」
「試して見てくれ。何か見える筈だ」
そう言われて、魔力眼を開く。最近では出番も無くて久々の開眼だ。うーん…。相変わらず凄まじく遠い所まで見えるな。でも、それのお陰でくっきりと何かが映し出された。岩。
「岩しか見えないよ」
「上あたりに何か無いか?」
岩壁しか映っていなかったのでもう少し上を見る。すると、何やら入口のような広間が見えた。
「穴?があるよ」
「穴か」
「ならもうすぐだね。そのまま直進だ」
「おじ様、あれが何か分かるの?」
「うん。あれなら、わざわざヒュドラと相対しなくてもそのまま僕の故郷に行けそうだ」
「そうなの?」
「うん。君が見たのは龍族が使う勝手口の様な物さ。だからかなり大きく作られている。そして、あそこを抜ければもう僕の故郷だ」
なんで勝手口が?って思いたくなるけど遂に辿り着けそうなのか。しかも面倒な門番を相手にせずに。事が上手く進み過ぎではなかろうか?気にしないべきか?
「え?もうそろそろ辿り着けるの!?おっしゃあ!フルスロットルで頑張っちゃうぞ!」
「魔力切れだけは起こすなよ」
「分かってるよシリア。それより貴方は何もしなくて良いの?いつもなら暇な時に槍を振るってるじゃない」
「吾だって場を弁える。今はじっとしとくべきだ」
「そんな硬くならなくたって良いんだぞシリア。この前の夜中聞かせてくれ…」
クレスが何かを言いかけた時には既に槍が振り抜かれていた。槍が速過ぎて見えなかったのだが。クレスは首を曲げてギリギリの所で回避していた。こいつの動体視力もエゲツない。
「シリア…?何かしたの?」
「何も…!何もしてない…」
何かしたんだな、クレスが。一体どんなちょっかいを掛けたんだあの月神は。
「もうすぐで着くらしいぞサテラ。やったな」
「そうですね。二日張り詰めて歩き続けるのは疲れました…」
「望月さん、改変は必要ですか?」
「ん。今は大丈夫だ。ありがとう剣聖」
「無理はしないようにしてくださいね」
こっちも到着を嬉々として待ち望んでいたようだ。三人で居るのが微笑ましく見えてくる。
「とか、思ったらもう結構進んでたな。私もついてこ」
気付けば一人置いてかれていた。ウェインさん本気出しすぎだし皆の足も速くなっている。やっぱりけっこう辛かったんだな。
そしてそこから歩く事体感二時間。ついに岩壁へと辿り着いた。
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私はその壁を見上げて言った。
「どう登る?」
「私はちょっと休むね…。魔力が保たない…」
「僕が乗せて行こうか?ここに居る全員分なら運べるから」
「じゃあお願いします、おじ様!」
「お安い御用さ」
おじ様がこの短時間で龍に二回成っている。珍しい。ていうか、やっぱり龍から人に戻る時ってやっぱり部位が少しだけ変化するんだね。なんか黒い傷だらけだ。
「ちょっと潜ってくる。龍になる過程なんて見られたくないしね」
「……?分かった」
そう言っておじ様が海に飛び込んだ。
そう言えばおじ様は私達に龍になる所を見せた事がない。一体どういう感じに龍になるのか、気になる。
しばらくしたら銀龍となったおじ様が海から飛び出てきた。私達はその背中に乗せて貰い、龍族の勝手口の入り口に連れてって貰い、そこを通ることにした。
勝手口の通路はとてもとても暗く、おじ様の『雷帝』のエネルギーによってうすら明るく見えるぐらいだった。
「モチヅキさん、あのぶら下がった石はなんて言うんですか?」
「ん?あぁ…あれか。あれは鍾乳石だな。雨とかが降ってそれが地面から染み渡って来た水がああして岩から水滴となって落ちる事で何十年もの年月を掛けて固まり、ああやって紡錘状の石へと変わるんだ」
「へぇ。つまりここはずっと前からあるんですね」
「そうなるな」
歩きながらモチヅキの説明を私も聞く。知ってはいたがこういう話を聞くのは好きなので幾ら聞いても飽きないのだ。あの話は間違ってはないがちょっと違う。もうちょっと複雑な物なんだ。話が長くなるから言わないが。
「あ、出口です!」
「なんか長旅した気分だなぁ」
「そうだねぇ…私疲れちゃったよ」
「お疲れ様だな」
剣聖が声を張り上げ、皆がそちらに向く。確かに其処には光が入ってくる穴が見えた。あれは出口だ。間違いない。
その穴を抜けると、其処には無数の住処などが山の斜面に沿って建ち並んでおり、如何にも人が住んでいる感じなのが見て取れた。しかし、あんな小さな住居じゃ龍じゃ住めない。おじ様の五倍は大きくないと住めない。まさか、人間族に占領された?まさかな…。
「おじ様…?」
「……………シャァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
「「「「「「「…っ!!」」」」」」」
唐突の咆哮に咄嗟に全員が耳を塞ぐ。ビリビリと圧のようなものを直に受ける。不味い。吹っ飛ばされそうだ。
なんて思って、おじ様の方をチラリと見ると、咆哮を辞め、住居の方を見ていた。私達もそちらの方を見る。其処には龍と人間を足して二で割って龍要素を強くしたような龍人が顔を覗かせていた。
そして、龍人の一人がおじ様の姿を見て声高に叫んだ。
「エルドラード様だ!エルドラード様がご帰還なさった!!」
それに続くようにワーワーと龍人達が騒ぎ始める。それに対しておじ様は豆鉄砲を喰らった鳩の様にポカンとしていた。
「どうしたの?歓迎されてるっぽいけど?」
『いやね…なんで皆人に成れてるのかな?って思って』
「そういう技術が発展したんじゃないの?」
『そう思っとくかな…。後で龍帝共に聞いて見るか』
おじ様はそう言ってやれやれと言った感じに首を横に振った。その後だった。唐突に大きな影に覆われた。
「上?……六体の龍?」
『来たか』
「まさかあれが…!」
空から次から次へと龍が降りてくる。その数六体。それを見た龍人達は静まり返っていた。静まり返り、頭を下げていた。
『久し振りだな雷帝、死んだと思っていたが?』
『勝手に殺さないでくれるかい炎帝。それに僕はあの人間だって言ってるだろう?』
『あの時は信じられなかったが、今となっては皆が人になる術を持っている。認めざるを得ないな』
『そうだろう風帝。僕は死んでないし、追い出されるべきじゃなかったんだ』
正面の炎帝と呼ばれた龍はコクリと頷いた。やはりと言うものドラゴンと言うのはどれもおじ様みたいな見た目をしているんだな。おじ様が王道のドラゴンの見た目って感じだしなぁ。
『そこな娘や男達はお前の手先か?』
『手先と言うか、仲間だね』
『仲間か…。それで?突然大勢で訪ねて来て何用だ?』
炎帝が本題を切り出して来た。なんかこの龍が一番偉い立場にいるのかな。まるで戦隊モノだな。赤いし。
『僕の仲間が不治の毒を負ってしまってね、その為にあの何でも治せるっていう霊泉、あそこにお世話になりに来たんだが、暫く此処に居させて貰って構わないかな?』
『成る程な。他に誰でもない雷帝、お前からの願いだから此処は了承するが…一つ聞かせて貰おう』
炎帝はおじ様のお願いを快く了承してくれたが、他にも何やらあるようだ。
『何かな?』
『不治の毒を負った者を出せ』
炎帝は言った。その言葉に答えるように無言でモチヅキが前に出る。洞窟に入る前よりも顔色が悪くなって来ており、剣聖に支えられながら炎帝の前に出た。
『お前か?』
「あぁ…」
『突然だが、お前は『覇道』の降臨者を知っているか?』
「…っ。知っているが…それを何故俺に問う?別に俺でなくとも良いではないか…?」
『特に理由はない。だが知っているのなら良い。奴に居場所を知られずに此処に来たか?』
「……?俺達は氷を渡って此処に来た。当然居場所なんて分かられるわけがない」
『そうか。ならば良い。お前達を歓迎しよう。イース、案内してやれ』
『はい、分かりました』
そう言って炎帝は踵を返して空へと飛んで行った。それに付いて行くように五体の龍が飛んで行った。ただ、一体の青白い龍は残って居た。
『それでは、私が案内しましょう。エルドラード、貴方ももう、龍化を解いても良いんですよ?』
『ん?あぁそうかい。じゃあお言葉に甘えて』
そう言っておじ様がふるふると体を振るい出した。するとポロポロと鱗が落ちていき、肉体が崩れ始めた。何気に見るのは初めて見た。あんな変わり方するのか。
「さて、んじゃあ行こうか」
『はい、行きましょう。あっ、私も龍化を解きますね』
「ん?」
青白い龍さんも同じ手法で人になり始めた。
人になった彼女を見ると、やはり何箇所か龍の鱗があった。やっぱりおじ様みたいに完璧にはなれないんだね。
「えっと、自己紹介がまだでしたね。私はイース。七龍の水帝をやらせて頂いています」
そう言ってイースさんは私達に向かって一礼した。この人はあの中では一番下なのだろうか?なんかそんな階級はない気がするけど。




