第六十七話 「出始めから」
私達はデミングポートにて旧英雄二体に遭遇し、撃退に成功した。しかし、モチヅキが劇毒を受けてしまい、それを浄化する為に龍族の郷へ向かう事になった。
と言うわけで今、私達は龍族の郷に向かう為に海に氷の橋を架けて貰いながら渡っている。
「結構歩きましたが、まだまだ掛かりそうですね。ウェイン、保ちそうですか?」
「大丈夫かな。日没までは絶対保つよ」
「寧ろ保ってもらわないと困るんだが?」
「クレイはさっさと私に魔力を供給しなさい。落とすわよ?」
「俺にだけ辛辣だなこりゃ…」
ウェインさんが氷の橋を作りながら剣聖とクレイと話していた。剣聖もだいぶ馴染めるようになったな。最初はあんなに硬かったのに。
と、前の思い出に浸っていると後ろから肩を叩かれた。
「ん?ってモチヅキか。どうしたの?」
「あぁ。龍帝の指示で魚を釣って欲しいと言われてな。一緒にどうだ?」
「…二人で?」
「サテラも居る」
「本当にいつも一緒だね」
サテラとモチヅキはもう親子で良い。そんぐらい親密だしね。どれくらい親密かって言うと私とおじ様より親密だ。
「でもこんな所で釣りなんてしてたら置いてかれるよ?」
「それなら安心して欲しい。必要量釣ってくれたら急いで搬送する」
「へ?おじ様…ってえぇ?」
「乗せてくれるそうだ。背中は借りるぞ、龍帝」
「私も借ります!」
「任せてくれたまえ」
海からおじ様(龍状態)が登場してきた。久々に見たけど綺麗だな。てか、喋れんのか。見たのは森以来だったかな。懐かしい。
「どうしたんだいラルダ。置いてくよ?」
「あっ、ごめん!今乗る!」
私は銀龍の上にそそくさと乗り込んだ。私を乗せたおじ様は、そのまま橋から離れ、海洋のど真ん中で滞空した。海面すれすれだ。これ長い時間するのキツくない?
まぁ釣りをしろと言われたのでやる事にする。しかし、釣りをすると言ってもどういう風にやれば良いんだろう。私、釣りとかした事ないから分かんないんだよね。
「どうした?」
「それ、どうやって作るの?」
「あぁ、浮きか。貸せ」
モチヅキに工作を任せ、サテラの方に目をやると、既に魚が来るのを待っていた。早い。
「サテラは出来るんだね」
「はい。モチヅキさんに教えてもらいましたから」
「流石はお父さん、ってとこかな」
「俺はそのつもりで色々教えていた訳ではないんだが…出来たぞ」
「あっ、どうも」
私は浮きの付いた釣竿を受け取り、投げる。さて此処からはただ辛抱するだけだ。掛かったら引く。
「そういえば、サテラはあっちで新しい魔力えお得たりとか、なんか進歩はした?」
「いいえ、まだまだです…。強いて言うなら木の棒とかに概念を擦りつけて武器にする事ぐらいしか出来てません」
「そっか…え?それ凄くない?」
「そうですか?…んっ!」
掛かったみたいだ。立ち上がって引き上げようとしている。あんな小さな子が魚の力に勝てるのか。ていうか、妹分のスペックの進化が止まらない。これでは私もいつ追い越されるか分からないな。
「先輩!手伝ってください!」
「あぁ、はいはい」
私にご指名が掛かったので、釣竿を足で抑えながらサテラの腰の部分を掴んで引っ張る。やっぱり力はまだまだか。
「くっ…!あっ!見えてきましたよ!もう少しです!」
「よし!引っ張ってしまえ!」
私の声と共にサテラが思い切り引っ張る。そしてついに一匹目が姿を現した。見た目は普通の魚…ではなく、何やら平べったく、厚さが無い魚だった。
「何これ?」
「モチヅキさん、なんか薄っぺらい魚が釣れました」
「ん?あぁ、こいつは刀剣魚だな。見てもわかると思うが、薄っぺらい見た目から剣の刃みたいだからそんな名前が付けられたみたいだ」
「へぇ……って、凄い量釣ってるね」
モチヅキの持っていた大きな容器の中には二十匹ぐらいの魚が置かれて居た。
「俺の釣り糸は深海まで届くし、針の量もそれなりに多いからな。一気に三匹以上は釣れる」
「漁師じゃん…」
と言っても彼は竿は使わず、そのままの糸で釣り上げている。三匹以上の魚の力で引っ張られるにも関わらずなんともなく引き上げるって凄い力だな…。とか思ってるうちに更に引き上げて来る。
「ほれ五匹だ。入れ食いだな」
「もうモチヅキさんだけやれば良いんじゃ無いですかね…?」
「ん?俺はこっちの方が効率的だしやってるだけだから気にせず釣りをしててくれ。正直あっちで歩き続けるよりかはマシだろ」
「それもそうですね…」
「んで、龍帝よ。何匹くらい釣り上げれば良いんだ?」
「そうだねぇ。30匹くらいは欲しいかな」
「ならもう少し待ってくれ」
「わかった」
そう言ってモチヅキは再び海の方向へ向いてしまった。私達もそれに合わせて持ち場へ戻った。
しかしこの後、一向に釣れなくなり、結果、26匹で妥協する事となった。まぁ、しょうがないね。
そして再び氷橋へと戻って来ると、行く前よりもずっと先へ進んでいた。どうやらかなりの時間を釣りに費やしていたようだ。
「さてと、じゃあ急いで追い付こうか」
そう言ったおじ様は私達を乗せて凄い速度で飛んで行った。目を開いているとすぐに乾いてしまうのでずっと閉じるはめになったが、あっという間に剣聖達の元に辿り着いた。速い、龍速い。
「あれ?皆さん、どこへ行ってたんですか?」
「ちょっと魚釣りに行ってました!」
「成る程、結構釣ったな」
「私達は特に何も出来てないけどね…」
釣りから帰ってきた私達を剣聖とクレスが出迎えてくれた。ウェインさんは既に魔力残量が限界に到達したそうで、シリアさんに膝枕してもらっている。此処からはクレスの番だ。
「クレス、時間だよ」
「分かっている。あぁ、これは忠告なんだが」
「何?」
「魔力譲渡は俺にはしない方がいい。どうせ夜の俺だったら魔力がそうそう切れる事も無いし、譲渡するぐらいならひたすら補強に専念して欲しい。朝になると脆くなるから、補強に専念した方がいい」
「成る程、じゃあ私達は補強に携われば良いんだね?」
「あぁ、頼んだ」
「まーかせて」
そんな会話をして、クレスは作業に戻って行った。夜になると異様に寒く感じるのは彼の魔力及び特質のせいである。
『月光』。月神と謳われた時から持ち合わせていた、月神特有の物。その効果は、夜になるにつれ、己の魔力が増大し、その精度、威力が上がって行く。また、己の体を中心としてどれくらいの範囲かは不明だが、かなりの広さで尋常じゃない気温低下に見舞われる。
そんな気温低下に何故私達は平気で立っているかと言うと、彼自身が編み出した魔道具によって己の魔力を抑制しているからである。
「それにしても…今日は暗いなと思ったらやはり新月か」
「本当だねぇ」
「滑り落ちるかもしれないから注意してくれ」
「分かった」
クレスはそう言うと、前に向き直り、氷で道を作り始めた。ウェインさんより早いし、補強を必要としないぐらい厚いし固そうだ。
「これなら魔力の補強を必要としないんじゃないか?」
「いいや、必要だ。俺の魔力の性質上朝になるにつれて脆くなっていく。だからなるべく早く補強してそれを食い止めなければならないんだ」
「成る程な」
「それよりクレイはそろそろ休憩しろ。朝からぶっ通しだろ?龍帝と交代したらどうだ」
「そうするわ、じゃあな」
クレイさんはクレスの言葉に賛成し、後ろへと戻っていった。決断が早い事。
「てな訳で僕が補強番に入るよ。宜しくね」
「うん、宜しくねおじさ…何その格好?」
「ん?あぁ、これかい。龍化から急いで戻った所為で一部が龍みたいになっちゃったんだ。まぁ、ゆっくり戻れば良かったんだけどね。君にこの姿を見られるのは二回目だったね、ラルダ」
「もしかしてあの時も急いで人に成ったから鱗が残ってたの?」
「うん」
てことは鱗が残ってなかったら、私の父親に龍帝と信じてもらえず、追い出されてたって事か。いや、多分ちゃんと説得するだろうけど。でもこんなにスムーズに事が進む事は無かった筈。あの時は運が良かったのかな?いや、そんな事はないか。
「さて、それじゃあ続けようか」
「うん。目的地に向かってね!」
そうして、私達は氷の道を張っていくクレスの後ろにつき、ひたすらに魔力補強を施していった。




