第六十六話 「いざ新天地へ」
話を終えた私達はこの仮拠点に居る全員を呼んでその事を告げた。
「…っていう感じなんだけど。どうかな?」
「良いんじゃねぇの?クレスは良いとしてもウェインの魔力総量が保つかどうかだがな!」
「私をあまり舐めないで欲しいな。前にラルダちゃんに負けてから肩身が結構狭いけどそれなりに実力はあるからさ…」
「氷の上を歩くんですか?楽しみですね!」
「あぁ、そうだな。後で靴底に滑り止め処置をしておこう」
私の発案はほぼ全員が承諾してくれた。ただ一人を除いては。その一人が嫌そうな顔で口を開く。
「僕は嫌だな。悪いけど君達だけで行ってくれ。僕は絶対に行かない。君達は分かってるだろう?僕が龍族が大嫌いな事を」
「分かってるけどさ…。モチヅキの毒を抜けるのはあそこだけかも知れないんでしょ?」
「そうだね。あそこの霊泉は万能薬だ。旧英雄の毒だって普通に浄化出来るだろうさ。だけどそれは僕が行く意味にはならない。僕を連れて行く必要は無いはずだ」
「龍帝」
一人がおじ様の二つ名を呼び立ち上がる。夕焼けの様な鮮やかな赤髪。シリアさんだ。
シリアさんはおじ様のすぐ近くまで歩み寄って質問を投げ掛けた。
「お前は何故そこまで龍族を嫌悪する?」
「それは…」
「普通は他人には言えない事だな。うん、それは分かる。だが、そこまで嫌悪するのはおかしくないか?あの土王だって一週間に一回は集落に帰るぐらい自分の種族を好んでいるんだぞ?」
「彼と一緒にしないでくれるかな?あそこはもううんざりなんだ、もう退いてくれ」
「何故うんざりなんだ?そこを教えてくれないと吾も退くに退けないんだが」
「……君ってしつこいんだね」
「まぁ其処はご愛嬌だ」
おじ様は本当に嫌そうな顔で溜息を吐いた。そんなに嫌なのか…。
おじ様は少しの間を置いてから、嫌々語り始めた。
「僕は普通の龍族だった。幼い時はね。でも成長して龍として半人前ぐらいだった時に僕の異常性が判明したんだよ。人間の姿に化けれるっていう異常がね。いやもう、僕はこれを才能だと思ったね。人間の姿の方が魔力使いやすいし、何しろ動きやすい。空は飛べ無くなったけど元々あんまり空を飛ばなかったしね。僕はこれを大いに喜んだ」
「ん。他の龍族達は人の姿になれないのか」
「うん。龍の姿のまま喋るし、生活する。だから僕は人間の姿に化けるっていう事は公にせずに普通に生活してたんだけど…やっぱりいずれはバレるんだよね」
おじ様はそう言って頰を掻いた。頰を掻きながら続ける。
「七龍帝に選ばれてから僕はずっと魔力について研究してたんだ。でも当然、人間の姿の方が調べやすいし、人間の姿になって研究してたんだけどさ。ある時に、別の龍帝に見つかっちゃってね」
「災難だな」
「それで人間族のスパイだのなんだの言われて追い出されちゃったんだ。龍に戻ろうとしても何故か戻れなかったし、言っても聞いてくれないしさ。それに、あの後風の噂で知ったんだけど僕、故郷では死んだ扱いになってるらしいんだよ。人間族に殺されたってね。どうせ今行ったって話も聞いてくれないだろうし、行ったら行ったで大混乱を巻き起こすだろうしね。だから僕は今凄い拒否してるんだよ」
「人間の状態じゃなく龍状態で行けばいいんじゃないかな?」
「うーん…。ずっと龍状態だと疲れるんだよね。あと僕は彼処に行きたくない」
「ただの勘違いだし別に良いじゃん。おじ様が気にすることじゃないでしょ。寧ろ帰ったらびっくりするんじゃない?それにちゃんと言えば分かってくれるでしょ」
「そうかなぁ…。彼奴ら聞いてくれないと思うけどなぁ」
なんかあとひと押しで行ける気がする。踏ん張りどころか。うーん…旧英雄の話題を上げよう。
「それに旧英雄だってもう召喚されてるって話だし、いつ踏み込まれてもおかしくないよね」
「まぁ…そうだね」
「おじ様も龍帝なんだから龍族を守りに行ったらどう?民を守れないんじゃ帝なんてやってられないって。まぁ私は前に族長とか言われたにも関わらずあの子達放置してるけどさ」
「…………そこまで言われるとなぁ。行くしかないじゃないか…。そろそろ僕も龍帝らしくならなきゃね…」
「と、言うと?」
「仕方ないけど僕も同行しよう。そろそろ駄龍から真の龍帝になるべきだ」
おじ様は笑いながらそう言った。そういえば私がこっちで初めて弓を貰った時、おじ様が駄龍って自虐してたな…。懐かしい。
そんなこんなで満場一致で氷渡りが採用された。正直イケるのかすら分からないけど、まぁ物は試しだ。明日、クレーターを登って橋を作りながら渡るという作業を繰り返すことになる。まぁ私のする事は魔力による補強と二人の氷術師へ魔力を供給する事だけど。
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夜になり、明日も早いという事で皆が寝静まった頃、シリアは外に出て、槍を振るっていた。彼女の性質上、日が昇っている時に外に出るのは危険なので、槍の鍛錬は夜にやるのだ。
「……っふぅ」
滴り落ちる汗を布で拭き取る。風呂は無いが、海も近いという事で汗を流す事は出来るだろう。と、思い休憩していると、仮拠点の方から普通じゃ聞き取れない様な足音が聞こえてきた。
「誰だ?」
「あれ、聞こえたのか?『隠密』を使って居たんだが…」
「なんだ、月神か。悪いが吾は耳が良くてな。無音じゃない以外は全部聞こえる」
「はぁ。なら普通に近づけば良かったな」
「あぁ」
足音の正体は『隠密』を使ったクレスだった。クレスは腕に黒い帯の様な物を巻いており、逆の手にはもう一つの黒い帯が握られていた。シリアは耳の他に目も良いので見えるのだ。
「一体こんな夜更けに吾に何の用だ?」
「……お前の話し方を聞いてるとモチヅキを彷彿とさせるな」
「そうか?……なんかやだな」
「ならいっそラルダとかみたいな口調に変えたらどうだ?」
クレスが人差し指を立てて言ってきた。口調を変える。ラルダの口調ってどんなんだったか、あぁ、あんな感じか。とシリアは内心で納得して実行してみることにした。
「…こほん。……それで?なんでこんな夜中に私の所に来たの?」
「…?」
「……あれ?違かった!?」
「いや……なんで違和感無いのかなって。普通口調変わると違和感あるからな」
「それもそうだね。でもやっぱり違和感の一つや二つはあるでしょ。ほら」
「いや、無い。ていうか前よりそっちの方が良い。見た目とか声とか合ってる」
と、真面目な顔で言ってきた。シリアは少し気圧されて後ずさる。すると、クレスが何か閃いた様に声を上げて言った。
「なぁシリア」
「な、何?」
「これからその口調でいけよ」
「…今だけな。……っていうかさ!本当はこんな事させる為じゃないでしょ?本当はなんで来たの?」
「あぁ、そうだった。はいこれ」
クレスがそう言ってさっきから握りしめていた黒い帯を渡してきた。シリアはそれを受け取り、聞いた。
「何これ?」
「魔力抑制の帯だ。こんな感じに腕とか、脚とか…まぁ何処でもいい。好きな所に巻く事で効力が発揮される。おそらくこれで、お前も昼に地獄を見る事は無いはずだ」
「はぁ。成る程ね。ありがとう月神」
「おう。こういう魔道具を作るのは得意だからな。それじゃあ、俺もう寝るから。じゃあな」
「うん、またね」
拠点に戻って行くクレスをシリアは小さく手を振って見送った。再び一人になったシリアは、少しの沈黙の末、
「吾は口調変えても違和感無いのか…少しずつ変えてくのも、悪くは無いか」
胸を押さえて小さく呟いた。この出来事以降、毎日の様に夜中、クレスに遊ばれるのだが、それはまた別の話。
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翌日、皆で早く起きてクレーターを登った。どうやって登ったかと言うと、サテラが地面が魔力を込めれば円柱状に競り上がるという概念を地面に譲渡して、魔力を込めて上まで競り上げたのだ。サテラの『譲渡』の魔力はとても有能だね。
「さて!じゃあいっちょやりますかね!」
「やっちゃってください、ウェインさん!」
「はいよぉ。『急速冷凍』!」
その掛け声と共に、海水が見る見るうちに一直線に凍っていった。ウェインさんは、ある程度、凍らせた後、一人、氷の上に乗り、何かを考え、頷いて後ろを振り返って言った。
「それじゃあ魔力による補強をお願い!補強すれば全員行けるから!」
「「「了解!」」」
魔力補強係は私とサテラとクレイさんとおじ様の四人。後の人達は後ろからついて来るだけである。因みにクレイさんはおじ様と交代で補強、供給を行う。日が昇っている間はクレイさん、日が沈んでからはおじ様って感じで交代する。
此処からは何日掛かるか分からないので、本当に運任せだが、なんとなく行ける気がした。
「(旧英雄の討伐、違反国の粛清、モチヅキの解毒、両親の捜索、やる事は結構あるけど、順をこなせば絶対終わらせられる。まずは、この第一歩を成功させる!)」
私はそう心に決めて、氷の橋に足を踏み入れた。その氷は私を滑らせる事なく、しっかりと私を受け止めてくれた。




