第13話「下された裁きと新しい朝」
宮殿に到着してから数日が経過した朝、ロマンは寝台に差し込む柔らかな陽光で目を覚ました。
体を起こすと、すぐそばの長椅子で書類に目を通していたカルステンが顔を上げる。
彼は手元の羊皮紙を机に置き、足音を立てずにロマンの枕元へと歩み寄った。
「よく眠れたか」
深い愛情がにじむ声に、ロマンは自然と顔をほころばせる。
恐怖と罪悪感に苛まれていた夜はすでに遠く、今ではカルステンの存在が彼にとって最も安心できる場所になっていた。
カルステンはロマンの金髪を優しくなでながら、一枚の報告書を差し出す。
「人間の王国に派遣していた帝国軍から、帰還の報告があった」
その言葉の意味を察し、ロマンは息をのんだ。
報告書には、レンティス公爵家の領地に帝国軍が突入し、裏で行われていた密輸と奴隷狩りの拠点をすべて制圧したことが記されていた。
当主をはじめとする一族の主要な人間はすべて捕縛され、王国の牢獄ではなく帝国の法廷で裁かれるために移送中だという。
檻に囚われていた多くの獣人たちは無事に解放され、手厚い保護の下で帝都へと向かっている。
「終わったんだな」
ロマンの唇から、かすれた声がこぼれ落ちる。
悪逆非道な公爵家の末路は、ロマンという一人の逃亡者を除いて現実のものとなった。
一族が裁かれることへの悲しみは微塵もなく、ただ救われた命が多数あることに安堵の息を長く吐き出した。
背負わされていた破滅の運命が、音を立てて崩れ去った瞬間だった。
「これでお前を縛るものは何もない。人間の国に戻りたければ、身分を隠して生きる手配もできるが」
カルステンは試すような言葉を口にしながらも、その黄金色の瞳は獲物を逃がさない捕食者の色をしていた。
ロマンは苦笑し、報告書を置いてカルステンの大きな手を取り返す。
「あんたが俺を手放すはずがないだろう。……それに、俺もここから離れるつもりはない」
明確な意志を持って告げられた言葉に、カルステンの瞳が大きく揺れる。
ロマンは自ら腕を伸ばし、冷徹な皇帝の広い背中にしがみついた。
獣のころから変わらない、深く甘い香気が彼の鼻腔を満たす。
この温もりの中こそが、彼が前世から求め続けていた真の居場所だった。
カルステンの強い腕がロマンを抱きしめ返し、二人の体温が隙間なく溶け合っていく。




