第12話「豪華な鳥籠と底知れない愛」
獣人帝国の帝都は、雪に覆われた人間の国境とは別世界のように活気にあふれていた。
巨大な城壁に守られた宮殿は白亜の石で造られており、魔石の柔らかな光が周囲を照らし出している。
到着するなり、ロマンは皇帝の私室である最も豪華な部屋へと案内された。
床には足が沈み込むほど厚い絨毯が敷かれ、天蓋付きの寝台は公爵家のものよりもはるかに大きい。
部屋の隅々から、カルステンのものと同じ、甘く心を落ち着かせる香気が漂っていた。
すぐに獣人の使用人たちが現れ、湯浴みの準備と温かい食事を運んでくる。
彼らはロマンが人間の貴族であると知っているはずなのに、憎悪の目を向けるどころか、深い敬意を込めて頭を下げた。
運命の番として皇帝に選ばれた人間に対する、無条件の忠誠と歓迎の意だ。
温かい湯で体を洗い、上質な絹の寝巻きに着替えても、ロマンの心はひどく冷え切っていた。
『俺は、こんな場所で安穏と保護されていい人間じゃない』
寝台の端に腰を下ろし、彼は両手で顔を覆う。
公爵家が獣人たちに強いてきた残酷な仕打ちを思えば、ここでこうして手厚くもてなされることが苦痛でならなかった。
前世の記憶を持つとはいえ、自分にもあの冷酷な一族の血が流れているという事実は変わらない。
重い罪悪感が、安全な鳥籠に匿われた彼の首を確実に絞め上げていく。
静かに重厚な扉が開き、政務を終えたカルステンが部屋に入ってきた。
ロマンの沈み込んだ様子を見た彼は、足音を立てずに歩み寄り、隣に腰を下ろす。
「食事が手つかずだ。どこか具合でも悪いのか」
背中をなでる大きな手は、どこまでも優しく温かい。
その温もりがかえってつらく、ロマンは振り絞るように声を上げた。
「どうして、俺を怒らないんだ。俺の家が、お前の同胞にどれだけひどいことをしてきたか、知っているはずだ」
肩を小刻みに震わせるロマンを、カルステンは強い力で抱き寄せた。
抵抗を許さない腕に閉じ込められ、ロマンの顔が広い胸板に押し付けられる。
「レンティス公爵家の罪は、帝国法に則り必ず裁きを下す。彼らは正当な報いを受けるだろう」
冷徹な皇帝としての声が頭上から降り注ぎ、ロマンは身をこわばらせた。
しかし、次いで紡がれた声は、甘く溶けるような熱を帯びていた。
「だが、お前は違う。お前はただの、心優しき私の番だ」
頭頂部に唇を落とされ、深い香気がロマンの肺を満たしていく。
「一族の罪をお前が背負う必要はない。お前は誰の命も奪わず、名も知らぬ獣の傷をいたわり、自らの命を投げ出して私を守ろうとしたではないか」
カルステンの言葉が、ロマンの胸の奥で固く結ばれていた鎖を一つずつ解きほぐしていく。
誰からも理解されず、孤独に怯え続けていた魂が、これ以上ないほどの肯定を与えられていた。
胸のつかえが取れるような深い解放感とともに、ロマンの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
声を殺して泣き咽ぶ彼を、カルステンは決して離すことなく、夜が明けるまで甘い熱で包み込み続けていた。




