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神隠しで異世界に来た私が獣を守るため人間と敵対すると決めるまで  作者: 春と桜


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境目の向こう側

どうもはじめまして春と桜です。

初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。


音が、消えていた。


春の終わり。山の奥、人目につかない古びた神社。

褪せた朱の鳥居は色を失い、鈴は風に揺れているのに音を立てない。


砂利を踏むはずの足音も、葉の擦れる気配もない。

風だけが確かに吹いているのに、世界から音だけが抜け落ちていた。


ここは一宮 椿が時折足を運ぶ場所だった。

人ではない「何か」の気配が、いつも静かに満ちている場所。


だが今日は、その気配すら消えている。


「……えらい静かやこと」


椿は小さく呟いた。

京言葉の柔らかさとは裏腹に、その瞳は周囲を冷静に測っている。


普段なら絶えないはずの存在の気配が、まるごと削ぎ落とされている。

風の流れだけが残り、それ以外のすべてが途中で断ち切られていた。


「……境目か」


ぽつりと落ちたその言葉と同時に、足元の感覚が消えた。


踏みしめていた地面が抜ける。

重さがなくなり、視界がふっと裏返る。



気づいた時、空の色が違っていた。


群青でもない、夕焼けでもない。

どこか深すぎる青。


むせ返るような森の匂いが肺に入り込む。

湿った土の気配も、風の質も、知っているものとはまるで違う。


「はて、これはまたえらい遠くまで来てしもたみたいやねぇ」


椿は静かに辺りを見渡す。

だが、取り乱す様子はない。


むしろ、その目はわずかに細められていた。



その時。


意識の奥に、何かが触れる。


感情のない男の声が直接流れ込んできた。


———帰る場所はもう隠れている


椿は顔を上げる。


「……誰?」


返事はない。


それでも、続けて声だけが落ちてくる。



———元より歪んでいる世界を



——お前がどう混ぜるのかを見ている



——ここで何を壊すか、見せてみろ


それだけで、気配は消えた。



「…壊す、ねぇ」


椿は立ち上がる。


そして、ふっと微笑んだ。

どこか面白がるような冷たい笑みだった。


「ほな、遠慮のう生きさせてもらいます。」



一歩、踏み出そうとして、足元の違和感に気づいた。


古びた石の像。

見覚えのある神社の狛犬。


「……あんたも巻き込まれたん?」


指先でそっと触れる。


その瞬間。


石の表面にひびが走り、淡い光が滲む。


崩れるようにほどけていき、次に現れたのは——


白い獣だった。


雪のように柔らかな毛並み。

小さな体。


だが、不思議と目を引く。

その佇まいは、小さな獣でありながら、どこか守る側のものだった。


獣はゆっくりと身を起こし、椿を見上げた。


淡い瞳に警戒の色はなく、椿はわずかに目を見開いた。


そのまま、そっと頭を撫でる。


「……ほんまに 生きとるんやね」


確かな温もりが、指先に残る。


獣はほんの少しだけ顎を上げ、その手を受け入れた。



その時。


白い獣が低く唸る。

その視線が、迫る気配の方向を示していた。


森の奥から、何かが近づいてくる。


空気がわずかに揺れる。


椿の視線が静かに細くなる。


足元の枝を拾い、軽く重さを確かめた。


「……間に合わせにはなるか」


着物の袖を掴み、片腕だけをするりと抜く。


動きを縛るものは要らない。


露わになった腕に、無駄な力はない。



次の瞬間、影が飛び出した。


人型の醜いケダモノが一直線に椿へ迫る。


椿の視線は一切揺れない。


半歩、ずらす。


すれ違いざま、枝を振り抜く。


先端がそのまま目へ沈んだ。


鈍い感触。


ケダモノの動きが止まる。


声にならない音が喉から漏れる。


その一瞬。


椿はすでに懐に入っていた。


踏み込み、流し、崩す。


背後へ回る。


腕を滑り込ませ、喉を捉える。


「急に飛び出してきはって…ずいぶんお行儀のよろしないこと」


静かに締める。


呼吸が潰れる。


骨がきしむ。


暴れていた力が、ゆっくりと抜けていく。


やがて、完全に止まった。



椿は腕をほどく。


崩れ落ちた体を一瞥することもなく、手を離した。


遅れて、風が戻る。



白い獣が、小さく鳴いた。


椿は視線を落とし、ほんの少しだけ目を細める。


「……ええ子やね、助かったわ」



椿は視線を上げる。


この世界の奥へ。


まだ見ぬ何かへ。



———この時、うちはまだ知らへんかった。

この世界で獣とどう向き合うことになるのか。

本日初めて活動報告を更新しました!良ければそちらもご覧ください!

書き溜めはありますが、暫くは様子を見ながら1日1話から2話を目安に投稿しようと思っています!

毎日20時更新予定です!


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