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終末戦争  作者: Terra
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第6話 受け継がれる力

 深紅に輝く双眸。目の前の人物へ抱いていた恐怖心の一端がこれであると、直感的にそう感じた。恐ろしく美しい。だが、視線を合わせているだけで、殺される気がした。それでも、そこから目が離せなくなっていた。

「どういう代物なのかは実際に訓練する時に教える。今は、こいつが継承されると思い込め。始めるぞ」

 そういうと、こちらの返答を待つ前に先程渡されたナイフを引き抜き、右の手の平に刀身を当てる。考えている時間はない。急いで能力が継承されるよう意識を集中させる。慣れているのか躊躇なく自身を傷つけると、握りこめられた拳から血が滴り落ちてくる。それは次第に杯を満たしていき、一口で飲めるほどの量で止められた。

「ッ…」

 杯へと伸ばそうとしていた手が、つい止まってしまう。得体のしれない力、儀式、いままで体験したことのない状況が合わさり、ここにきて手の震えが止まらなくなってしまった。これを飲めば、戻れなくなってしまうような、そんな気がした。

 無意識にガイアの方を見ると、真剣な眼差しでこちらを見つめていた。何を発するわけでもなく、ただ、こちらを信じているかのような眼をしていた。

 落ち着くため、一度大きく深呼吸をする。試合の時とは別の緊張ではあったが、同じようなルーティンが効いたのか段々と冷静さが戻ってくる。再び、今度はしっかりと杯に向き合い、意を決して手に取る。中を見ると、暗く、美しい。だが、あまりにも生々しい色だった。

「…よし」

 決意を固めるため、自身に言い聞かせるように一言発して、ガイアを、あの魔眼を意識しながらゆっくりと飲み始める。意識がそちらに言っている為か、味はほとんどしなかった。一度で全ての血を飲み干し、杯を台に戻そうとしたとき、急激に体が熱くなってくるのを感じた。

「ハァ…ハァ…ッ…!?」

 熱を感じるとともに、視界がグラつき、全身に力が入らなくなる。

「…月島ッ!?」

 異常な様子を察知し、ガイアが駆け寄ってくる。だが、そんなことには意識が向かないほど、体が異常を知らせてくる。息ができず、思考が安定しない。力が入らないはずの身体が強張るのを感じる。それだけじゃなく、胃がひっくり返るような気持ち悪さに、全身に激しい痛みが走り始めた。


「(ここで…終わるのか…?)」

 心臓の音がうるさい。息ができず、視界が崩れていく。全身を走る激痛が、鼓動に合わせて加速していく。そんな時だった、何か、見たことのない景色が見えた気がした。次第にそれは明瞭な情景として脳裏に映っていく。暗く、孤独な森だ。だが、どこか赤く、静かで、広く、何もない。そこにポツンと、赤子がいる。白い肌、無垢な瞳。無造作に置かれているように見える。眼を凝らすと、場面が変わった。玉座だ。二人の少年が言い争っている。言葉は聞こえてこない。また、変わる。雨に打たれている。また森だ。だが、暗い。一寸先も見えない。視線が落とされ、鮮血に塗れた両手が見える―――

「…しま…!!」

 どこかで声がする。起きなければ。そう思うと同時に、なにか、大事なものを失ってしまうような、そんな気がした。


「…きし………月島ッ!!」

 不意に目が覚める。最初に見えたのは、こちらを覗きこんでくるガイアと、先程までいた部屋の天井だった。

「月島!よかった、目が覚めたみたいだな。大丈夫か?」

「あ、あぁ…」

 息をするだけで肺が焼けるようだった、喉がひりつく。目を覚ますように首を振ると、自分でも驚くほどの量の汗をかいていたと知る。

「まだ、苦しいか?」

 そういわれて、改めて自分の身体を見てみる。先程までの痛みや熱が嘘のように引いていた。両手を見てみても、特に違和感はなかった。ただ、目の奥がわずかに痛んだ。

「…もう、大丈夫みたいです」

「そうか…よかったぁ…」

 安心したのか、ガイアは息を吐きながらペタリと座り込んだ。

「………」

 こちらもその様子を見てホッとするとともに、走馬灯のように見えた何かを思い出す。しかし、明確に見えたはずのそれは朧気なものとなり、思い出そうとするたびに遠のくように感じた。

「その様子を見る限り、継承はうまくいったみたいだな」

 そういわれて、体を見回してみるものの、何の変化もないように見える。見かねたガイアが、立ち上がってこちらに手を差し出してきた。手伝ってもらいながらなんとか立ち上がり、目元を触ってみるものの、やはり何の変化もないように思える。

「能力を受け継いだとしても、明確に外観に現れるケースはほとんどないさ」

「…そうなのか?」

「俺が化け物に見えるか?」

「(…そうじゃないのか?)」

 危うく声に出そうになって、何とかこらえる。しかし、確かにガイアの外見からして目元に異常があるようには見えないし、これまで出会ってきた人物たちも見た目は普通だった。

「ま、そういうことだ。結局は実際に使ってみないことにはわからないってことだな」

「なるほど…」

 納得はするものの、それならば他者の能力を判断するには実際に使っている場面に遭遇しなければわからないのではと、今後の不安が増したのを感じる。

 ため息をつきながら、急激に襲ってくる疲労感を感じていると、申し訳なさそうな顔でガイアが口を開く。

「疲れているところ悪いが、お前自身どういうものなのか知りたくはないか?」

「今から訓練…ってことですか?」

「訓練ってほどじゃない。まぁ、体力が有り余ってるってんなら話は別だがな。せめて一回ぐらいは試しておかないと、どんな能力なのかも知らずに過ごすのは不安じゃないか?」

「そういわれると、まぁ、確かに…」

 まだ詳細も説明されていない状態で、変に暴発でもしたら確かに大変なことになりそうだ。最低限、自分がいまどれほど強くなれたのか試してみたい気持ちもある。

「わかりました。指南の程、お願いします」

 深く礼をすると、ガイアは気分を良くしたのか、満面の笑みを浮かべながら胸をたたく。

「おう!任せときな!」

 なんだか楽しそうで、こんな男に任せて大丈夫なのか。そんな不安が、ほんのわずかに残った。だが、力を得て、新たな道が見えてくることに希望を持ちながらその場を後にした。

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