幕間1 教会にて
耳障りな怒号と奇声。だが、ここではいつものことだ。最初こそ気味の悪さに吐き気すら覚えたが、もう慣れた。むしろ、これだけ気を許せる相手がいるというのは、彼らにとっても幸せなことなのだろう。とはいえ、そろそろリーダーが来る頃だ。このまま見物していても面白いが、引き締める部分がなくては組織は容易に瓦解する。
「お前ら、いい加減にしたらどうだ」
声を掛けられ振り返ったのは、灰色の髪に煤けたの服の男と、白色の髪に医師のような服装の男。何を言い合っていたのかさえ興味もなく聞いていなかったが、どうせこいつらの会話など中身のないものばかりだ。どうでもいい。
「だがよぉ!このガリ男の方がよぉ!」
「私は客観的な意見を言っただけだ。それに、助言を求めてきたのはお前の方だろうゴミ野郎」
「あ”あ”?」
「なんだ?」
これで幹部を名乗っているのだから救いようがない。今この瞬間に組織が崩壊しても誰も不思議がらないだろう。人の話を聞かないあたりは似た者同士だと言えそうだが。
「ハァ…そろそろリーダーが来る頃だ。その辺にしておかないと、また殺されるぞ」
「チッ…」
「フン…」
流石に懲りたのか、まったく納得はしていないようだったが、とりあえず場は収まったらしい。会うたびにこの調子では、周りの士気に関わってくる。
呆れていると、白髪でズタボロの服装の少女と灰色の体毛の狼が近づいてくる。
「さんぼーさん、りーだー、まだこないの?」
「大丈夫、もう少しで来るさ」
そういって頭を撫でてやると、微笑んでくれる。隣にいる狼も、同様に撫でてやると、こちらはいい笑顔を返してくれる。ただ、こうしていると普通の少女と狼だが、扱い方を間違えれば大惨事になる。気を付けなければ。
他にも、部屋の隅で縮こまっている青色の頭髪に濡れたような服の男に、部屋の柱によりかかってぶつぶつ言っている、スパルタ兵の容姿をしたいかつい男。リーダーの席の前にある祭壇に、意味もなく祈り続けている金髪の聖女。出払っているメンバーはいるが、こうした集まりに人が揃うのは珍しい。流石は、リーダーによる直接の召集だ。人望が違う。
特にやることもなく椅子に腰かけ休んでいると、部屋の大扉がゆっくりと、音を立てて開かれた。現れたのは、どこぞの統魔王を真似て後ろで髪を束ねた白髪に、旅装束と和服が混ざったような癖のある服装をした死んだ目の男だった。男が部屋に一歩入るだけで、空気が変わる。呼吸をするのも重たく感じられるほどの重圧。そのたったの一歩でも、リーダーとして、癖だらけのメンバーを束ねられるだけの人間性が伺える。本人にその自覚があるのかは分からない。ただ、こうして横から見ていると、その出自に見合うだけのカリスマ性があるのだと感じられる。我慢できずに絡んでいった白髪の少女を、一度撫でるだけで軽くいなす。これもいつもの光景だ。
男が部屋の奥にある、彼の為だけの玉座に座ると、雰囲気からは感じられない、透き通るような美声が聞こえてくる。
「それで、首尾は?」
それに反応するように、スパルタ兵の男が答える。
「作戦はおおよそは達せられました。しかしながら、予定外の戦力も確認でき、聖遺物の回収とまではいかず…」
言い淀んだ男に対し、部屋中の視線が向けられる。不用意な発言は死を招きかねないからだ。しかし、リーダーの反応は予想よりも良好だった。
「よい、本来の目的が済んでいるのなら後は些事だ。大事をなすには小事を気にし過ぎてはいけない。よくやってくれた」
「ハッ、ありがたき幸せ」
とても神とは思えない反応だ。戦神の名が聞いて呆れる。しかし、その反応も無理はない。おそらく、リーダーという地位のみが、この組織における唯一の上下関係なのだから。
「それで、聖界の方は?」
さらなる問いに、今度は医者の男が答える。
「それは私の方から。すでに三大国の内、ブリテン王国とフランク王国は壊滅状態。ただ、例の王朝の攻略には、もうしばらくかかるかと」
「そうか…警戒は怠るな。あの王は我々が思うよりも遥かに強大だ。油断していると、足元を掬われるぞ」
「承知しております」
この医者はある意味物怖じしないタイプに見える。先程の戦神に比べれば随分と肝が据わっている。
「さて、今後の方針について―――」
そうして、視線がこちらに向けられる。相変わらず、死んだ目をしているのになぜか輝きを失っていない、リーダーらしい良い目をしている。そして、だからこそ恐ろしい。
この後の発言を予感し、先だって椅子から立ち上がる。そして、何度も聞いたセリフが聞こえてくる。
「お前の口から説明してもらおうか、ガーフォールド」




