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終末戦争  作者: Terra
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第12話 渡海

 あれから数時間と経たず、俺とガイアは準備を整えて統魔界を後にした。いくら何でも急すぎる気もするが、ガイア曰く、事前の準備を察知されないことを重視した結果らしい。

「………」

 そもそも、敵地に行くというのに大した護衛もつけず、王様が直接乗り込むのは戦術としてどうなのだろうか。戦争のやり方なんて知らないが、あまりに動きが極端すぎる気が―――

「どうした、考え事か?」

 不意に声を掛けられ、少し肩が跳ねてしまう。こちらの心配をよそに、ガイアは普段の雰囲気のままだ。

「いや、別に…というより、一つ聞いてもいいか?」

「なんだ?」

「…なぜ、船なんだ?」

 そう、今の俺たちは、なぜか船に揺られている。船底を叩く波の音が、一定の間隔で響いていた。窓の外を見れば、夜の海がどこまでも広がっている。統魔界の灯りは、もうとっくに見えなくなっていた。物資が大量に積まれていたことから、おそらく商船かなにかなのだろう。こういう時は、異世界らしくドラゴンに乗るだとか、一瞬で氷魔界に行く手段があると思っていたが―――なんともアナログな移動手段だ。

「なぜって…敵地に潜入しに行くんだぞ?多少の偽装はしていかねぇと、それこそ初っ端から殺し合いなんてお前も嫌だろ?」

「それは、そうだが…そもそも、こういうのって密偵とかを送り込むんじゃないのか?わざわざあんたが直接行かなくてもいいんじゃ…」

「まぁ、普段ならそうしていたかもな。ただ、今回はお前がいる。少しは統魔界以外のことも知ってもらいたいしな」

「はぁ…」

 氷魔界…話に聞く限りは、あまり豊かではなさそうだし、なにより治安が不安だ。潜入といったって、ただの高校生がやることじゃないと思うが。

「そう不安がるなよ。教団だって別に殺戮を求めてるわけじゃない。万が一奴らがいたとしても、すぐにやりあうことにはならねぇよ。勧誘はされるかもしれねぇがな。ハハハハハ!!」

「お前なぁ…」

 仮にもテロリストの話をしているのに、楽観的なんだろうか。確かに、ガイアほどの実力があれば、一緒に行動している間は不安に思うことはないだろうが…それでも、心配せずにはいられない。


「…あぁ、そうだ。お前に渡しておく物があるんだ」

 そう言うと、持ってきていた革袋の中から、細身の黒く長い物体を取り出した。それがいったい何なのか、一目で分かった。

「それは、日本刀…か?」

「日本…はお前の出身地だったか。俺たちは単に刀って呼んでいたが。ほら」

 軽く投げられたそれを片手でキャッチすると、思っていたよりも重量があったせいで、一瞬落としそうになる。

「うおっ…真剣なんて初めて見たな…」

 日本人として、少しばかり興奮してしまう。芸術品とさえ呼ばれる代物を、実際に見られる日が来るとは思ってもいなかった。鞘に入ったままのそれを、見聞きしただけの作法で状態を確認する。

「確か…切っ先を上に向けて…茎…は持ち手か?を持ったまま…」

 声に出しながら思い出しつつ、鞘から少しずつ刀身を露わにしていく。ランプの光を受けた刀身が、鈍く青白く輝いた。まさに芸術品と呼ぶべき、まるで濡れているかのような美しい刀身だ。

「………」

 あまりの感動から、声も出せずに、じっと見つめる。感嘆のため息さえ出てしまい、それに気づいてふと我に返る。

「はっ…これの銘は…?」

「さあな。なんてったって、ウチの宝物庫から適当に引っ張り出してきたお古だからな。普段流通しない代物なんだ。大事にしろよ?」

「あぁ…そう、するよ…」


 あまり刀身を出したままにしていては、客室とはいえ潮風に当たってしまいそうだ。いつか名前でもつけてやろうかなと思いつつ、とりあえず寝台の横に立てかけておく。

「そうだ…氷魔界のソフィア…さん…だったっけ。どんな人なんだ?」

「あいつか?そうだな…厄介な女…かな…」

「…は?」

 どっちの意味だろうか。ガイアなら強さとして言っている気もするが、イメージ的には、付きまとってくるような面倒な人物像が浮かんでしまう。

「色々考えているみたいだが、大体そんな感じだと思うぞ」

「…あんた、たまに頭の中覗いてるんじゃないかって思うんだが」

「そうか?まぁ、それはいいとして…氷魔王ソフィア。あいつは俺たちにとっては相性最悪な魔王だ」

「氷魔王…氷魔界だからか?」

「大体は自称だ。俺も、面倒だから統魔界の魔王で統魔王ってつけてるだけだしな。つけなくていいなら、単にガイアで登録したいくらいだ」

「そ、そうか…」

 魔王が自称とは、儀式のシステム的に強制されるとはいえ、名乗っていて恥ずかしくなりそうだな。

「名称はどうでもいいんだ。問題は、奴が使ってくる能力の方だな」

「やっぱり、魔ノ力を何か持っているってことか?」

「あぁ、奴が使うのは…魔法だ」

「ま、魔法!?あるのか!?」

「思っているような代物じゃないぞ。なにせ扱いがとんでもなく難しいからな。魔法か魔術があるなら、大体の奴は魔術の方を取るだろう」

「魔術もあるのか…俺はもう継承できないんだよな…」

「どうだろうな。世の中には、複数の能力を扱える特異体質もいる。実際にできるかどうかは、継承の儀をやってみるしかないが」

 魔法に魔術…魔眼を継承した今では、俺がその特異体質とやらじゃない限りは、もう縁のない話だが。


「そうだな…そろそろ、能力についてちゃんと教える必要があるのかもな…」

「…一応聞くが、忘れてたわけじゃないよな…?」

「まさか。お前がこの世界でも通用するように、突貫工事でやろうとした結果が魔眼の継承だっただけだ。世界の情勢がもっと安定していたら、基礎からじっくり教えていたさ」

「そ、そうか…」

 嘘をついているようにも見えなかった。ガイアは正直者というか、嘘を基本的につかない。逆にそれが、こちらの傷をえぐってくるようなこともあるが…だからこそ、その発言には信頼性がある。

「…そもそも、基礎ってなんなんだ?」

「まず、能力については大体わかっているよな?」

「個人ごとに一つだけ持てる、イメージを具現化させるもの…だったか」

「そうだ。その能力を成立させるために必要なリソースがあるんだが…塔夜、少し魔眼を使ってみろ」

「魔眼?ここでか?」

 疑問に感じつつも、言われた通りに魔眼を発現させる。あれだけの修行のおかげか、感情の起伏に頼らずに発現させることができていた。

「よし、その状態で、目を凝らしてみろ。空気中に存在する、ないはずのものを見るような感じだ」

「ないはずの…ものを…」

 部屋の中で、特に何もない場所に目を付け、凝視してみる。すると、何もないはずの空間に、紫がかったような、あるいは金色に輝いているような、そんな色が見えた。

「これは…」

「見えたか?そいつが、素因だ」

「ソイン?」

「能力を成立させるための燃料みたいなもんだな。それ以外の使い道だと…身体能力の補助、ダメージの軽減、治癒力の促進とかだな」

「…なんで最初に教えなかったんだ」

「理由は二つある。まず、魔眼の燃費が良いことだ。素因にはいくつか種類があるんだが、魔ノ力である魔眼は、魔素っていう素因を消費する。この消費する魔素が、魔ノ力の中でも特に少ない」

「常時発動していても問題ない…と?」

「そう考えてもらっていい。もう一つは、リソース以外の使い道が、全部補助的な部分で収まってしまうことだ」

「補助?」

「…おでこ出してみろ」

「…??」

 言われるまま、前髪を上げておでこを差し出す。すると、無言のまま、ガイアがデコピンを繰り出してきた。

「いってぇ!!はぁ!?」

「ハハハ、痛いだろ?結構本気でやったからな」

「おま…何考えて…」

「じゃあ次は、魔素をおでこに集中させてみろ。魔素を動かすなんてやったことないだろうが、イメージは魔眼と同じだ。空気中の魔素を、おでこに集中させるってイメージしてみろ」

「…少しは手加減しろよ?」

 先程の痛みも引かないまま、恐る恐る試してみる。空気中の魔素を集中させるイメージ…明確なイメージを持てないまま、なんとなくおでこのあたりに力を集中させる。念じることに意識がいっていたせいか、またしても不意のデコピンを食らってしまう。

「いっ…あれ?」

「どうだ?」

「いや、いてぇよ?いてぇけど…」

 先程の痛烈な痛みに比べれば、遥かに和らいでいた。確かに防御はできる。だが、これはどちらかといえば軽減と言った方が納得できた。

「思っている通りだ。軽減はできる。だが、結局ダメージは受けちまうんだ。無効化までは俺でもできない」

「だったら最初から魔眼使って避けたほうがいい…と?」

「ま、そういうことだ。あくまで補助、教えた直後に実戦で使えるもんじゃない。ほかも同じだ。身体能力もある程度までしか上昇しないし、治癒力の促進に関しては、十分な休息を取れる状態で素因を流し込む作業になる。戦闘中にやるもんじゃない」

「なるほど…」

 基礎というより、あくまで素因単体で使うならということだろう。俺やガイアの場合であれば、魔眼を使っていた方が得られるメリットは確かに大きい。

「この上で…だ。ソフィアの話になるんだが」

「魔法…だったか」

「そうだ。魔法ってのは、イメージした事象や物体を具現化させられる能力だ。ただし、このイメージの部分に問題があってな」

「さっき、扱いが難しいって言ってたよな」

「ああ、魔法はほかの能力と比べて、イメージに具体性が求められるんだ。その上、かなり明確なイメージを持てないと、性能がガタ落ちする」

「じゃあ、魔術と比べていたのは?」

「魔術ってのも特殊なんだが、発現させるために物体を経由する必要があるんだ。例えば、火を起こしたいなら、薪みたいな燃料がないとイメージしても発現しない」

「逆に、素材があるからイメージしやすい…みたいな?」

「理解が早いな。要は魔法ってのは、元となる物がないのにイメージできるかどうか、ここにかかってるといえる。普通の奴が、空気が突然爆発したりすることをイメージできると思うか?」

「………」

 そう言われて、確かに前兆もなく爆発したりするのはイメージしにくいと思ってしまう。逆に、前提があるならば遥かに扱いやすいんじゃないのかとも思ったが、そうなると魔術の方が―――

「難しく考える必要はない。とにかく攻撃を避けまくって、空気中の魔素が少なくなったところをドカンだ」

「…簡単に言ってくれるよな。こっちは初めての実戦なんだぞ」

「大丈夫だろ。俺もいるし」

「お前なぁ…」

 相変わらずの楽観的な考えに、こちらの緊張感も緩んでしまう。だが、相手が何であれ、俺はもっと強くなるために戦うだけだ。これまでとは違った経験が得られるなら、それもいいかもしれない。


 話せば話すほど、策を積み上げることが馬鹿馬鹿しくなってくる。結局、俺が付いてくる必要なんてなかったんじゃないのか。こいつが一人で全部倒して終わりなんじゃないのか―――と、余計な思考まで入ってしまう。

「まぁ…なんだ…別に戦闘になると決まったわけじゃない。案外、話し合いで終わるかもな」

「…宣戦布告されたのに?」

「…すまん、忘れてくれ」

 不安は残されているが、ガイアの言う通りの部分もある。最悪の場合、こいつの後ろにいればなんとかなるかもしれない。

「さてと…氷魔界までは二日かかるからな。着くにしても明後日の昼ってところか」

「…その間は魔眼の修行でもしていればいいのか?」

「使うのはいいが、船はそこまで頑丈じゃないからな。持続時間を延ばすための修行に収めとけよ」

「了解」

 そういいながらベッドに倒れこみ、船の揺れの気持ち悪さに耐えながら、魔眼の常時発動を目指した修行を始めた―――

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