第11話 暗流
「氷魔界…?」
日も落ちて暗い部屋を、異様に明るいランプで照らしながら、作戦室で話し合っていた。俺の質問に、リュカオンが答える。
「大半が永久凍土の土地に築かれた、貧しい国だよ。不毛の大地に加えて、周辺諸国が軒並み過激派でね。戦争の影響がずっと出続けている、そんな魔界なのさ」
こんな状況下でも穏やかな口調が変わらないことで、こちらにも落ち着きを取り戻させてくれる。そんな二人にさえ気を取られず、ガイアは考え込んだ様子のまま、椅子に腰かけていた。
「あ、あの~」
こちらから声をかけると同時に、何か一つの結論に辿り着いたようで、確信めいた顔つきへと変わった。
「間違いない。この一件、教団が関わっている」
「まさか…いや、でも確かに…」
「…え~と?」
二人で勝手に結論に辿り付いてしまったのか、俺は置いてけぼりになってしまった。二人の顔を往復していると、真剣な眼差しのガイアが口を開いた。
「いや、すまない…何も分からないよな。少し長くなるが、大丈夫か?」
「まぁ、分からないまま進められるよりは…」
「よし、じゃあまずは…」
そういいながら、周りの棚をガサゴソと探し始め、一枚の紙を取り出してきた。三人で囲んでいた、世界地図が広げられているテーブルの上に、それを広げて見せる。
「これは…なんだ?」
それは、顔が描かれてない集団がいくつか描かれた、文字だらけの紙だった。見たところ、集団の名前と、それに対する説明にも見える。
「これはな、エダメシア教団っつう連中について書かれたものだ」
「エダメシア…教団?」
「あぁ、なんでも、相互理解こそが平和な世界を築くだとか触れ回ってる、テロリスト集団のことだ。三界のあらゆる場所に手を広げているみたいでな…特に魔界と聖界は酷いありさまだ」
「テロリスト…」
もはや現代では聞きなれてしまった単語だ。あまり聞いていて心地のいいものではないが。しかし、当然のような疑問が頭をよぎった。
「…でも、そいつらが今回の件になんの関係が?」
「まず、魔界で戦争が起きること自体は珍しいことじゃない。特に氷魔界のような、恵まれていない環境の国は、物資や土地を求めて戦争をよく起こす」
「こっちの世界でも戦争…か」
「今回の件で問題なのは、統魔界を相手に選んだことだ。歴史上、統魔界に戦争を仕掛けた国は数えるほどしかない。しかも、その大半は現体制への反発が理由だった」
確かに今の制度は、力と信頼、その両方を必要としている。力だけじゃ上に行けない今の制度は、過激な連中には気に食わないんだろう。
「相手が相手ならまだ理解できた。例えば、どこぞの蠅魔王とかな。あれくらい地位や名誉、財産を欲しがっている奴なら納得のいく話だ…だが、氷魔王はそんなタマじゃない。アイツも大分過激派だが、これまで統魔界へ要求してきたのは、物資や食料の支援のみだ。はっきり言って、今回の件は異常だよ」
これまで少なくない時間を共に過ごしてきたからか、今ならわかる。ここまではっきりと言い放つ以上、ガイアに確信させる何かがあると。その横で、気がかりなことがあるのか唸ったままのリュカオンがいた。
「ソフィアさん、ほんとに頭おかしくなってしまったって線はないんですか?最近、あの周辺の情勢がまた悪化してるらしいじゃないですか」
「確かにその可能性もないわけじゃない。だが、それで言えば教団の動きもかなりきな臭くなってきている。魔界で何かしでかそうって、主張しているような動きがな」
「わざわざアピールしているっていうんですか?教団側にメリットなさそうですけど…あそこって少数精鋭でしょう?」
「そこは流石に本人たちに聞かなきゃ分からない。だが、神界を拠点にしているには、魔界での活動が多すぎる。せめて奴らの目的が分かればな…」
またしても考え込んでしまう二人に、状況がまだ呑み込めていない俺はついていけなかった。固有名詞だらけで頭がパンクしそうだ。だが、なんとなくわかったことはある。
「…え~と…とりあえず、教団は敵で、氷魔界はなんか工作?されてるみたいな…そんな感じでいいのか?」
「「………」」
これまでの長々とした説明をふんわりとした説明でまとめてしまったせいか、妙な沈黙が流れてしまう。少しの静寂の後、難しい顔をしていたガイアの顔が一気に笑顔に変わり、それにつられてリュカオンも呆れてしまったようだった。
「ハハハハハ!まぁ、簡単に言えばそういうことだな。考えていても始まらねぇか!」
「…結局、分からないことだらけですもんね。今はとりあえず対処しなきゃ、ですね」
説明されたことは大して頭に入っていなかったが、とりあえずいつもの雰囲気に戻ってきたようでほっと胸をなで下ろした。ガイアも、目的が明確になったおかげか、いつも以上に気合が入った様子で椅子から立ち上がった。
「じゃあ、まずは、リュカオン!」
「はい!」
「お前は留守番だ」
「はい!!…え?」
意外な言葉だったのか、それまでの笑顔が一瞬で吹き飛んで、疑問だけが残ったような顔になった。
「いや、今のは僕も一緒に氷魔界に行く流れでしょう!?」
「いいや、氷魔界には…俺が行く」
そう言い放った時、これまで見たこともないような、本当に戦う時を覚悟した顔を見た。そんな顔が、どうしようもなくカッコいいと思えてしまった。
「俺が行くんだが…塔夜」
「は、はい!…え、まさか?」
この流れで呼ばれるとは思わず、声が裏返ってしまう。それと同時に、嫌な予感が頭をよぎった。そしてそれが的中していると言わんばかりに、ガイアがゆっくりとこちらを見た。
「予想の通りだ…一緒に行くぞ、氷魔界!」
「え、えぇえええ!?」
流石にこの流れは想像もしていなかった。まだスタートラインに立ったばかりの俺を連れていくとは、この男こそ本当に頭がおかしいのかもしれない―――




