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夏と友

「えーと……こっちか」


『俺、絶対いずのこと忘れないからな!!いつか全部思い出したら、手紙かなんか、くれよ!!!!』


『俺んちの住所○○○区○○丁目○○-○○だからなーーー!!!!!!!』


『『個人情報町中で叫ぶな馬鹿ぁぁぁぁぁ!!!!!!!!』』


大分遅くなってしまったけど会いに行こうと思った。


勇悟、絢人、雫。青藍学園での任務で「友達」として接したあの三人に。


あの時以降三人にはあっていない。忙しいとかなんだとか言ってたけど本当は……記憶を取り戻した自分をなんと言われるか怖かった。


あの時全ての人生を掬いきれなかった自分をなんと言われるか。忘れてたくせに今更会いに行っていいのか。


「え……あれ?もしかして、いず?」


夏の匂いが頬を撫でた。その匂いと共に背後から降ってきたのは明るく元気なあの声。


「うわー!!いずだ!いずだ!」


後ろから覗き込まれた後に凄い声量で叫ばれる。


「いず! 本当にいずなのかよ!」


目の前で、あの頃と変わらない――いや、少しだけ背が伸びて大人びた勇悟が、太陽みたいな笑顔で飛び跳ねていた。


「な、勇悟……久しぶり」


「久しぶり!元気だったか!?」


勇悟はそう言いながら、遠慮なく出帆の肩をバシバシと叩く。その手の熱さに胸の奥に澱んでいた怖さが、少しずつ溶けていくのを感じた。


「ごめん……いろいろあってすぐこれなくて」


「いいにきまってんだろ!いずが生きてたんだから」


ちょっと待って、と言った後に勇悟は携帯を取り出してどこかに電話をかける。


「絢人、いずいた!すぐ来て、皆で遊ぼう」


『は!?』


絢人の大声が電話越しにこっちまで聞こえてきた。


『出帆!?いずって出帆だよね!?待ってそれどこ。すぐ行く』

「えーっとね……信号の前」

『どこだよそれ!』

「擬似スクランブル交差点。俺が前に轢かれかかったとこ」

『あそこか。おっけ、すぐ行くわ。雫も連れてく』


嵐のような電話の後に勇悟がこっちを向いた。


「浄化師、どう?」


「魔物の出没は最近止まったよ。もしかしたら僕達の代で魔物が根絶されるかもしれない」


「まじか」


凄く。軽く。でもなんとかして軽くしようとしてくれているのがわかる声だった。


「すげえな、お前」


「いや、僕一人の力じゃないよ。みんながいたから……」


そう口にしかけて、言葉を飲み込んだ。


あの戦い、あの別れ。自分だけがすべてを背負い、彼らの前から消えたあの日。けれど勇悟は、そんな出帆の湿っぽい感念を吹き飛ばすように、ガシガシと自分の頭を掻いた。


「いいんだよ、そういうのは! 結果オーライ! いずが頑張ったから、俺たちがこうして平和にだらだら過ごせてる。それだけで十分すぎるくらいだろ?」


勇悟の真っ直ぐな瞳に射抜かれ、出帆は小さく笑った。……本当に、この太陽のような眩しさには敵わない。


「……ありがと、勇悟」


「おう! あ、噂をすれば来たぞ!」


勇悟が指差す先、横断歩道の向こうから二つの人影が走ってくるのが見えた。


一人は信じられないような顔をしながらも、必死に足を動かしている絢人。そしてその隣で、いつものすました顔を崩しながらこちらを見つめる雫。


「おい、出帆……!」


息を切らして目の前で止まった絢人が、開口一番に毒づいた。


「お前、どんだけ待たせれば気が済むんだよ……!死んじゃったんじゃないかって……何回も思ったしっ……」


「出帆……」


隣で雫が静かに、けれどその声は微かに震えている。その瞳には薄く透明な虹が膜を張っていた。


「出帆、おかえり」


その一言で、最後まで残っていた「怖さ」が、音を立てて消えていった。


記憶を取り戻した自分を、何もかもを隠していた自分を、彼らは何一つ責めなかった。ただ、今日この場所で会えたことを、当然のように受け入れてくれている。


「……ただいま。勇悟、絢人、雫」


「ったく、今更戻ってきて……。今日から一生分、こき使ってやるからな! まずはゲーセン、そのあとカラオケ、最後は焼肉だ。全部お前の奢りだからな!」


「えっ、全額……?」


「当たり前だろ! 三人の友情を数年放置した慰謝料だ!」


絢人が無理やり出帆の腕を引っ張り、勇悟が反対側から背中を押す。


雫がそれを見て、可笑しそうに笑った。


青い空、アスファルトを焼く夏の匂い。


かつて守りたかった日常が、今、出帆の全身を包み込んでいる。


「ほら、行くぞいず! 夏は短いんだからな!」


勇悟の元気な声に導かれるように、四人は歩き出した。


あの頃よりも少しだけ大人になった、けれど何も変わらない「友達」としての時間が、再び動き始める。


出帆は空を見上げ、眩しさに目を細めた。

今度はもう、逃げたりしない。この温かな熱を、二度と離さないと心に誓いながら








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