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12 - 完 -

『……これさ、尚人から口止めされてたんだけどさ。もう時効ってことで』

「……尚人が関係してんのか」


 久々に口に出した、その名前。忘れたはずなのに、いまだにまだその名前を口にするのは抵抗がある。


『ちょうどお前らが付き合い出したときのことなんだけどさ。尚人が、ユウジにちょっかいだしてるヤツがいて牽制したいから付いてきてくれって言われたことがあったんだ』

「え?」


 あれ、それってまさか黒木が言ってた……。


『俺らの中で、尚人とユウジが付き合ってるの知っていたのは俺だけだったし、まあ見た目的に体格もよかったから、威嚇すんのに一緒にいてくれって話でさ』

「まさかそれ、尚人が黒木に俺へ近づくなって、脅したってやつか……?」

『なんだよ。知っていたのか。まさしくそれよ。つっても脅してはねーけどな。黒木はいかにも山男って感じで、体もでかかったじゃん。尚人もさすがに一人じゃ怖かったんだろうな。二人であいつのところに行って、尚人が『ユウジに馴れ馴れしくするな』って言う、それだけのことだったんだけどな』

「……」

『黒木ってさ、スゲー愛想よくて人懐っこいイメージあったじゃん。でもよ、そん時の黒木、いつもと違ってものすっごい敵意むき出しで。尚人を睨む黒木の目が、スゲー怖くてさ』


 その状況、なんとなく想像できる。

 大学のときは、いつもニコニコしてる黒木しか知らなかったけど、夢での黒木を知っているからな。


『……前に、童貞くんと飲み屋帰りに会ったじゃん』


 何度もダイチを童貞くんって呼ぶな。


『俺がユウジに冗談でチューしたとき、それを見てたあいつの目が、あんときの黒木にそっくりでさ。ユウジから黒木の生まれ変わりかもしれないって話聞いてたからだったのかもしれないけど、ちょっとゾッとしたんだよな』


 ダイチ、あのときそんな怖い顔してたのか。


 全然気付かなかった。俺に対する執着心だけは、確実に黒木から引き継いじゃってるもんな。


 でも佐藤がたったそれだけのことで、ダイチと黒木を結びつけるなんて。ちょっと意外だった。


「……佐藤は生れ変りとか、何があっても絶対信じない否定派だって俺は思ってた」

『信じねーよ。信じねーけどさ。でもあの状況であのタイミングって、信じちゃうだろ。……つーか、俺はビビリなんだよ。怖いだろ、死んだ友達が生まれ変わって近くにいるとか、そんなの。あるはずねぇのに、それを信じちゃう友達とかさ。しかも今回は本当かもしれないって、どこのホラー映画だよ』

「お前、ホラーダメだっけ」

『ホラーがダメってダサいだろ。だから人には言ってねーよ』

「ホラーが苦手だとダサいのか?」

『ダサいだろ』


 スマホの向こうでハハハと笑いながら、缶ビールを飲む音が聞こえる。


 そうか、あの場には佐藤もいたのか。俺の知らないところで、勝手にしてくれちゃってさ。


 黒木だって、生きてるときにちゃんと俺に告白でもなんでもしてくれてたら、こんなややこしいことにならずに済んだのに。


 ――まあでも、そうじゃなかったらダイチとは会えていなかったか。


 佐藤がうまそうに喉を鳴らす音をスマホ越しに聞きながら、俺も冷蔵庫から出してきた缶ビールを開ける。プシュッという音とともに、白く細かい泡が溢れ出て、俺は慌てて口をつけた。


『今何開けた? ビール?』

「ビール。酒屋で見つけた季節限定のちょっといいやつ」

『お、いいな。俺なんかさっき嫁に、ビールは高いからチューハイかハイボールにしてって言われたから、次からハイボールだぜ』

「ははは」

『早く童貞くんに許して貰って、飲みに行かねーとな』

「そうだな。ってだからお前ダイチを童貞くん呼びするな」

『ははっ』


 ダイチの理解を得るまでは、しばらく佐藤と二人で飲みに行くことはできないな。


 黒木本人と尚人がいない今、何も知らないダイチに言い訳するのは無意味でしかないけど、佐藤とのことだけは本当に嫉妬するだけ無意味だってことを、ダイチに理解してもらわないと。


 話している最中、イヤホンから佐藤の声に重なるようにピロンという軽快な音が聞こえた。スマホの画面を見ると、通話中の画面に着信の通知が。


「おっと、ダイチから着信きた。佐藤、じゃあこれで切るな」

『お。マメだね〜。じゃまたな』


 スマホの画面上部に表示された着信通知を確認する。


 時刻は20時過ぎ。ちょうどダイチのバイトが終わった時間だ。


 通知をタップして、ダイチにかけ直す。

 もしかすると、今自転車で家に帰っている途中なのかもしれない。


 呼び出し音が鳴る間、隣でスピスピとかわいい寝息をたてて寝ているロッシュを撫でる。ロッシュはドッグスクールで疲れたのか、帰宅後にごはんを貰ったあと、俺が佐藤と通話を始めるとすぐに寝てしまった。


「あ、もしもしダイチ? 今バイト終わったのかい? 俺はさっき佐藤とリモート飲み会やってた。え? うちに来たいって? 遅い時間だけどいいのかい。……しょうがないな、分かったいいよ。自転車だろ、気をつけて来るんだよ」


 ダイチのやつ、佐藤とリモート飲み会をしていたと言ったら、自分も家に行きたいと言い出した。佐藤とはリモートしてただけだよ?


 仕方がない。奥手のくせに嫉妬深い恋人が来るっていうから、ちょっと何か食べられるものでも用意しようかな。ビールはまだあるけど、自転車といえと飲酒運転させるわけにはいかないから、片付けておこう。


 何がいいかな。やっぱ肉かな。


 俺はウキウキした気分でロッシュを起こさないように立ち上がると、ビールの空き缶を流しに置いて、冷蔵庫を開けた。




【完】

最後までお読みいただき誠にありがとうございます!

読者がつくか心配でしたが、最後まで読んでくれた方がいることに多大な感謝を!

評価や感想などもいただけると大変励みになります。

佐藤メインの話のネタもR18で考えています。ムーンでの公開となるとは思いますが、またそのときも読んでいただけると嬉しいです。

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