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——その後、ダイチとは亀の歩みではあるけれど、恋人としての距離を縮めていっている。最初こそぎこちなかったキスも、一ヶ月経った今では、なんとか慣れてきた感じだ。
そろそろ次のステップに進んでも、いいんじゃないかな、ダイチ。
そういえば、あの占い師のサイさんなんだけど、あれから何度か予約ページにアクセスしてみたものの、なぜかページはエラーでアクセスできなくなっていて、予約できない状態になっていた。
仕方なくバーに行ってみたけど、階段の壁に貼ってあったフライヤーも剥がされていて、そこではもうやっていないようだった。
占いは当たらなかったけど、背中を押してくれたサイさんに一言お礼を言いたかったんだけど、これじゃもう会えることはないだろうなと、俺はそう思ってた。けど——。
「あらー! 佐藤ちゃんの! 元気してた? 年下の彼とはうまくいったのぉ?」
「え、サイさん!?」
たまたまその日、事務所に出勤の日で、夜に繁華街のほうを通って帰っていたら、やたら背の高い派手なピンク髪が見えて、まさかと思ったらサイさんだったのだ。
「あら、私のこと探してくれてたの? ごめんなさいねー。実は私、占い師じゃないのよ〜」
「え?」
「本職はバーの経営。他にもいくつかバーを経営してるのよ。佐藤ちゃんとはWEBマガジンの取材で知り合ったの。ちなみにルナ・プロフィトはあのとき限りのお店だから、検索しても出ないわよ」
「え? え?」
「取材のとき、バーでは私よくお客サマに人生相談されるのよって話をしたら、佐藤ちゃんが、友達がスピリチュアルにハマって、好きな相手が死んだ友達の生まれ変わりだとか言い出したから目を覚ましてやりたいって、私にお願いしてきたのよ。別にいいわよ〜って快諾したら、佐藤ちゃんが偽サイトまで作ってきて。あ〜ホント友達思いよね〜佐藤ちゃん」
さ、佐藤のやつ〜! 俺を騙したのか……!
「あら、佐藤ちゃんを怒らないでやってね。どうせうまくいったんでしょ? 顔に書いてあるわよぉ。よかったじゃない! 年下だろうがなんだろうが、楽しんだ者勝ちよ!」
俺が何も言わなくても、サイさんには全てお見通しって感じで、お礼を言うつもりが逆にまた励まされてしまった。
「それにアタシも佐藤ちゃんのお願い聞く代わりに、デートしてもらう約束をしてるのよね。佐藤ちゃんかわいいわよね〜。ノンケだかなんだか知らないけど、酔ったフリしてホテルに連れ込めたらこっちのものね!」
「……」
佐藤……お前とんでもない人にお願いしちゃってるぞ。
まあ節操ないのが悪いんだし、自業自得ってやつか。
「たまにあのバーにも顔だしてるから、またカレシと遊びにいらっしゃいな。アツアツぶりを見せてちょーだい。じゃあ、会えて嬉しかったわ」
サイさんは、俺に手を振りながらウィンクすると、きらびやかな街のネオンに消えていった。
次にまた会えるかどうかは分からないけど、きっと佐藤から近況を聞くことになるだろう。
そして俺にサイさんから逃げる方法を相談するに違いない。
いつも浮気ばっかりする佐藤には、いいお灸になるだろ。
そしてその佐藤のことなんだけど。
『だからさー、騙してごめんて。心配だったんだって。ユウジのことがさ〜』
スマホから佐藤のわざとらしい情けない声が響く。こういう大袈裟な猿芝居が、佐藤の得意技だ。
「佐藤、お前、本当に俺の言う事信じてなかったんだな」
『いや、全く信じてなかったわけじゃねーよ? でも、お前過去のことにばっかり囚われて、先に進もうとしねーからさ。俺が言っても聞きゃしねーし、それで一芝居うったわけよ』
「だからって、他人を巻き込んでまで」
『いや〜ちょうどうちで開発してたタッチカードのサンプルもあったしさ、ちょっとしたサプライズみたいな……』
「佐藤!!」
『ごめんて!! もうしないって』
「当たり前だ! サイさんにも謝っておけよ」
『近々飲みに行く約束してるから、そんとき謝っとくって。……それにしても、童貞くんがまさか黒木の生まれ変わりとはなぁ』
「なんだよ、今度は信じるのかよ」
ダイチが黒木の生れ変りだって話、今度も佐藤にするっと受け流されて終わるかと思った。
『……いや、別に信じてるわけじゃねーけどな』
珍しく歯切れの悪い答え。
「……お前本当に、黒木と接点なかったのか?」
いつもなら飲みに行ってするような話だ。でもダイチが佐藤と俺が会うのを嫌がるから、今日はこうやって電話で話すだけにしたのだ。
そして俺は、その話を佐藤にも伝えていた。
「ダイチがお前を嫌う原因に、黒木が関係しているようなんだ」
しばらく沈黙が流れ、スマホの向こうからはぁーと大きなため息が聞こえた。




