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寒い国から来た鬼類  作者: 弐乃
第10章 鬼類、ダンスを踊る
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美少女戦士VS美少女戦士4 愛の鞭を振るう者

「そうさ。僕だよ。でも殺したなんて言わないで欲しい。永遠にしたんだ、彼をね」

 神水流はあっさりと自身の殺人を認めた。

「今でも僕の心に刻まれているよ。彼の表情も、声も。震えていた膝も、ヒクヒク動いていた喉や胸元も。全部ね」

 ムーンライトが微かに震える声で問いかける。

「神水流さん、本当なの?あなた本気で言ってるの?」

「もちろんだよ。冗談でこんなこと言うもんか。僕の目の前で死んでいった天使たちに失礼じゃないか」

 羽根は過呼吸を起こしたように荒い呼気を繰り返しながら、血走った目で神水流、羽根と黒い北極星にとっては龍神という名で呼ばれていた男を見据える。

「ワァッーッッ!んどうがァァッ!」

 羽根が何か叫びながら神水流に向って突進した。

「羽根さんっ!」

 黒い北極星が止める間もなく、羽根は手に持った短剣を振りかざしながら走る。さすがは武闘経験者、その力強い走りは一流のアメリカンフットボール選手でも止めるのに難儀したに違いない。

 羽根の剣が神水流に触れる直前、二人の間に白い飛沫が飛んだ。鬼力だ。神水流が鬼力を放ったのだ。

 羽根はまるで見えない壁に弾き返されたかのようにその場に崩れ落ちる。

「羽根さんッ!」

 黒い北極星が叫ぶ。神水流が落ち着けとでも言うように両手で何かを押さえるような仕草。

「大丈夫さ。気を失ってるだけだよ」

 神水流は倒れた羽根に近づくと、両手の人差し指を羽根のこめかみに当てる。

「ハッー」

 小さな気合とともに神水流の指先から白いスパークが飛ぶ。羽根の身体がビクンと痙攣する。

「記憶を飛ばしやがったー」

 流星キッドが呻くように言う。神水流がキッドに笑いかける。

「良く分かるね?君もやったことあるのかい?君がやると犯罪だよ。記憶操作は重罪だよ?偽記憶の移植はもちろん記憶を消してしまうのもね」

 神水流は羽根の首元に手をやり脈を測る。

「うん、大丈夫だ。強くやりすぎると脳や心臓に悪影響を与えるからね」

 神水流は手首をほぐしながら舞台役者のモノローグように言う。

「何年前になるかなー まだ僕が中学生の頃さ。その頃の僕は自分の使命に目覚めたばかりでね。人の命を無闇に奪っていいものかどうか逡巡もあった。だからとても中途半端なことをしていてね」

 神水流は仮面の三人の顔を見比べながら話す。

「殺さない程度に痛めつけては、記憶を消していたんだ。鬼力の強さと打ち込むポイントさえ間違えなければ里人の記憶を飛ばすのは簡単さ」

 神水流は悲しそうな顔つきで首を振って見せる。

「初めて僕が愛の鞭を振るったのは自分と同じ中学生だったよ。細身で小柄な子でね。僕は彼を励まし勇気づけるために愛の鞭を振るった。彼は悲鳴を上げ、涙を流し、身体を雑巾のように絞りながら僕に懇願した。許して許してってね。許すも何も僕は彼のためにやってるのにね」

 神水流は昔を思い出しながら一人頷く。

「僕は彼をもっと強く、もっと気高く、高貴な存在に変えるために愛の鞭を振るった。それこそ自分自身の心も痛むほどにね」

 神水流は一人、鞭を振るう真似をする。指先から白い鬼力がパチパチと弾ける。

「でもね、その時の僕はまだ若かった。怖かったんだね、彼の命を奪ってしまうことが。だから彼の心臓が止まってしまわないように、自分にブレーキを掛けて、手加減をしながら愛を与えなければならなかった」

 神水流は空を見上げ拳を握る。

「当然彼は僕を見ている。僕の声も聞いている。それにその時僕は制服姿でー 学校までバレている可能性があった。だから彼の記憶を消してしまおうとしたんだ。さっき羽根さんにやったようにね」

 神水流は目を潤ませながら仮面の三人を順番に見た。

「結果的には僕の弱さは彼を壊してしまったんだ。記憶も飛んだけど、彼は正気を失ってしまった。僕が事が露見することを恐れて必要以上に何度も脳にショックを与えたせいなんだ」

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