美少女戦士VS美少女戦士3 ヴァニラは上品に薫る
「つまり、あたしたちには戦う理由がないけれど、あなたたちにはあるということ?」
ムーンライトの言葉に黒い北極星は首肯する。
「あぁ、そうだ。私は戦わなくてはならない。街の掃除をしてお金を稼がなくてはならない」
ムーンライトが口元を歪める。
「つまりあたしらはゴミってこと?」
「私の雇い主はそう言った。街の平和を乱す者たちを掃除しなければと。その仕事をすれば私は金を貰える。家族に人並みの生活をさせてやるための金を」
ムーンライトは「むぅ」と小さく唸る。
「つまり、あたしたちに戦う気がなくても、あなたはあたしたちを掃除するわけね?」
「そういうことになる。私には私の事情がある」
ムーンライトは流星キッドをチラリと見て「何か面倒な事になったね」と呟く。
「こちらにはあなたと戦う理由がない。それでも?やるの?」
不意にざわりと風が動く。鬼風だ。黒い北極星とムーンライト、キッドが素早く反応する。
「まぁちょっと待ちたまえよ、諸君」
暗闇から声が響く。
「神水流さん!」
「龍神!」
仮面女子二人が同時に名を呼ぶ。突堤の海側、まるで黒い霧の中から忽然と現れるように、人影がひとつこちらに歩んでくる。
「やぁ、龍ー いやいや、ここでは竹刀の戦士だったね。聞こえたよ、ムーンライト?いい名だね」
「神水流さんー あなたー」
神水流は夜目にも爽やかな笑顔を見せながら、
「大丈夫だよ、それ以上言わなくても。言いたいことは分かってる」
神水流は今度は黒い北極星に笑顔を向ける。
「やぁ黒い北極星さん。この顔でお目にかかるのは初めてだよね?」
黒い北極星がマスクの下で目を丸くしている。
「龍神ー」
「龍神ですって!?」
ムーンライトも驚きの声を上げる。
「あぁそう呼ばれることもあるね。名前はいくつかあった方がいい。便利だよ。警察官の身分じゃ好きに動けない」
言葉は穏やかだが神水流の身体から濃密な鬼風が薫ってくる。夜気に乗って押し寄せてくるそれは濃厚なヴァニラの薫り。
「なるほどね、上から読んだら神水流、下から読んだら流神てわけね」
神水流は笑って頷く。
「逆さに読んで流神。すぐにバレるかと思ってたけど。意外に分からないもんだね」
黒い北極星は何のことだか飲み込めないようだ。
「どういうこと?なぜムーンライトが龍神を知っている?」
「あたしが知ってるのは龍神じゃないわ。あたしが知ってるのは兵庫藩警察神戸湾岸署、鬼事課主任、神水流警部補よ」
ムーンライトが鋭く言い放つ。何か言いたげな黒い北極星を横の男の言葉が遮る。
「いや、違うかも知れんぜ」
全員の視線が男に集まる。
「鬼人でない俺にも分かる。とても強いヴァニラの薫り。なぁ、あんた湾岸署の前はどこにいた?」
男がなぜそんな質問をするのかムーンライトと流星キッドには分からなかったが、男は全身に並々ならぬ感情を漲らせている。
神水流が男を見る。
「失礼、お名前を伺っても?」
「羽根。羽根伸行という名前に心当たりはあるか?」
神水流は薄っすら微笑みながら、何かを懐かしむように星空を見上げる。
「覚えていますとも。もちろん覚えていますとも。忘れるわけがないでしょう?可愛い少年だった。どうぞ安心して。彼は今でも僕の記憶の中で生きているから。永遠にね」
男、羽根の中で何かが弾けた。
「貴様がっ!貴様が殺したのかっ!伸行を殺したのはお前かっ!」
シンと静まる五人の男女。柔らたかな波の音がみんなを包む。
「貴様なんだなっ!?貴様がやったんだなっ!?」
羽根は涙を流しながら神水流を睨みつけていた。




