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寒い国から来た鬼類  作者: 弐乃
第10章 鬼類、ダンスを踊る
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美少女戦士VS美少女戦士3 ヴァニラは上品に薫る

「つまり、あたしたちには戦う理由がないけれど、あなたたちにはあるということ?」

 ムーンライトの言葉に黒い北極星は首肯する。

「あぁ、そうだ。私は戦わなくてはならない。街の掃除をしてお金を稼がなくてはならない」

 ムーンライトが口元を歪める。

「つまりあたしらはゴミってこと?」

「私の雇い主はそう言った。街の平和を乱す者たちを掃除しなければと。その仕事をすれば私は金を貰える。家族に人並みの生活をさせてやるための金を」

 ムーンライトは「むぅ」と小さく唸る。

「つまり、あたしたちに戦う気がなくても、あなたはあたしたちを掃除するわけね?」

「そういうことになる。私には私の事情がある」

 ムーンライトは流星キッドをチラリと見て「何か面倒な事になったね」と呟く。

「こちらにはあなたと戦う理由がない。それでも?やるの?」

 不意にざわりと風が動く。鬼風だ。黒い北極星とムーンライト、キッドが素早く反応する。

「まぁちょっと待ちたまえよ、諸君」

 暗闇から声が響く。

「神水流さん!」

「龍神!」

 仮面女子二人が同時に名を呼ぶ。突堤の海側、まるで黒い霧の中から忽然と現れるように、人影がひとつこちらに歩んでくる。

「やぁ、龍ー いやいや、ここでは竹刀の戦士だったね。聞こえたよ、ムーンライト?いい名だね」

「神水流さんー あなたー」

 神水流は夜目にも爽やかな笑顔を見せながら、

「大丈夫だよ、それ以上言わなくても。言いたいことは分かってる」

 神水流は今度は黒い北極星に笑顔を向ける。

「やぁ黒い北極星さん。この顔でお目にかかるのは初めてだよね?」

 黒い北極星がマスクの下で目を丸くしている。

「龍神ー」

「龍神ですって!?」

 ムーンライトも驚きの声を上げる。

「あぁそう呼ばれることもあるね。名前はいくつかあった方がいい。便利だよ。警察官の身分じゃ好きに動けない」

 言葉は穏やかだが神水流の身体から濃密な鬼風が薫ってくる。夜気に乗って押し寄せてくるそれは濃厚なヴァニラの薫り。

「なるほどね、上から読んだら神水流、下から読んだら流神てわけね」

 神水流は笑って頷く。

「逆さに読んで流神(りゅうじん)。すぐにバレるかと思ってたけど。意外に分からないもんだね」

 黒い北極星は何のことだか飲み込めないようだ。

「どういうこと?なぜムーンライトが龍神を知っている?」

「あたしが知ってるのは龍神じゃないわ。あたしが知ってるのは兵庫藩警察神戸湾岸署、鬼事課主任、神水流警部補よ」

 ムーンライトが鋭く言い放つ。何か言いたげな黒い北極星を横の男の言葉が遮る。

「いや、違うかも知れんぜ」

 全員の視線が男に集まる。

「鬼人でない俺にも分かる。とても強いヴァニラの薫り。なぁ、あんた湾岸署の前はどこにいた?」

 男がなぜそんな質問をするのかムーンライトと流星キッドには分からなかったが、男は全身に並々ならぬ感情を漲らせている。

 神水流が男を見る。

「失礼、お名前を伺っても?」

「羽根。羽根伸行という名前に心当たりはあるか?」

 神水流は薄っすら微笑みながら、何かを懐かしむように星空を見上げる。

「覚えていますとも。もちろん覚えていますとも。忘れるわけがないでしょう?可愛い少年だった。どうぞ安心して。彼は今でも僕の記憶の中で生きているから。永遠にね」

 男、羽根の中で何かが弾けた。

「貴様がっ!貴様が殺したのかっ!伸行を殺したのはお前かっ!」

 シンと静まる五人の男女。柔らたかな波の音がみんなを包む。

「貴様なんだなっ!?貴様がやったんだなっ!?」

 羽根は涙を流しながら神水流を睨みつけていた。


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