エピソード龍美・21
こういう場面に遭遇すると、日頃の修練というやつがいかに大切か身に染みてよく分かる。
稲穂頭の振り下ろす鉄パイプは、鬼力の充実したあたしには、牛が蝿を追っ払うために振った尻尾のように見えた。
あたしは特に急ぐこともなくバイクのホルダーから竹刀を抜き、迫ってくる鉄パイプを下から竹刀で迎え撃った。
キュィンッー
小気味よい音を残して鉄パイプが吹っ飛んで行く。無論、倒れている少年たちに当たらないよう、ビルの壁に向かって弾いた。一瞬にしてこんなことができるなんて、あたしってちょっとすごい。
ブーメランのように回転する鉄パイプが壁に当たりギャンッと子犬の悲鳴のような音を響かせる。稲穂頭の顔に「?」の表情が浮かび、ついでそれが「!」に変わる。
集中したあたしには全てがスローモーションで見える。でも実際は一秒足らずの出来事だ。
「わっ!」
襲撃者の一人が素っ頓狂な声を上げて飛んできた鉄パイプを避ける。
「おやおや、グリップが甘かったみたいね。布テープでも巻いておけば良かったのに」
「お菓子とかジュースばっかでちゃんと飯食わねぇから力が入らないんだよな」
稲穂頭が蟹のように顔を歪める。
「クソどもがぁー」
「あらあら、クソクソって下品だわね。そんなこと言っちゃいけませんよ。お尻ペンペンされちゃうわよ」
「最近は体罰反対って人も多いんで、反省文でも書いてもらいましょうよ」
「うん、いいわね。でも書けるかな?みんな、あいうえおはもう習った?自分のお名前は書けるかしら?」
ヒュンッー
空気を切り裂く音。金髪ピアス少女が拾い上げた鉄パイプをこちらに投げたのだ。
「タッ!」
礼二が素早く抜いた竹刀で鉄パイプを弾き飛ばす。
「危ねえな。この金髪モジャモジャに当たったらどうすんだよ?こんなの当たったら死んじまうぜ?周りのこと考えて行動しなきゃ」
礼二が半分本気で少女の行為を責める。それでも少女は眉一つ動かさない。燃える目で礼二を睨みつけている。
「何ボケっとしてんの!?やるよ!」
少女の激に男子共がビクンと体を揺らす。この少女、他のメンバーより余程肝が据わっているようだ。
「うりゃぁっ!」
稲穂頭が声を張り上げながらあたしの方に突っ込んでくる。素手かと思ったら手に光るもの。なんてこと?ナイフだ。
あたしは素早く竹刀を振って稲穂頭の手首を痛打する。
「ヒヤッッ」
情けない声を上げてナイフを取り落とす稲穂頭。地面のナイフを礼二が遠くへ蹴り飛ばす。
「あんた分かってないな?人を傷つけるってことがどういうことか」
あたしは思いっ切り鬼力を込めて竹刀を振るう。稲穂頭は腿を叩かれ情けない呻きを発して地面に倒れる。鬼力のせいで暫くは足が痺れて動けないはず。
「あんたらに痛みを教えてやるよ。いくよ!?」
「おうさ」
あたしと礼二は素早くステップを使って襲撃者たちの単純な攻撃をかわしながら、鬼力を孕んだ竹刀の一撃を加えていく。
襲撃者たちはその格好や顔付きが嘘みたいに情けない幼い悲鳴を上げて、バタバタと地面に倒れた。
「全く口ほどにもねぇな。もちっと根性見せてみろってんだ」
礼二が吐き出すように言う。まだ立っているのは金髪ピアス少女のみ。さすがにその顔には驚きが浮かんでいる。
「女はやりたかねぇや。さっさと消えちまいな」
「ダメだよ、ちゃんと痛みを感じさせないと。そうしないとこういう子たちはいつまでたっても目が覚めないよ」
礼二はちょっと迷っていたが、やがてあたしに向かって両手を広げた。
「その子の分、俺が貰いますよ。思いっ切りバシッとやってください」
「ちょっとー あんた格好つけすぎだよ」
あたしは竹刀をホルダーに戻すと、ようやく体を起こしたツイスターズらしい少年たちに言う。
「もうすぐ警察が来る。後はあんたらに任せるよ。大丈夫だね?」
「えぇ、ありがとう。あんたらは、一体?」
あたしらはクスリと笑ってバイクに跨る。
「じゃ、あたしらはこれで」
「じゃな」
あたしたちはバイクを発進させる。遠くでパトカーのサイレンの音が聞こえた。




