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寒い国から来た鬼類  作者: 弐乃
第10章 鬼類、ダンスを踊る
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エピソード龍美・22

 あたしたちは初めての悪者成敗に酔っ払ったようになり、吉川さんのワンボックスカーと合流し、私服に着替えた後も、あたしと礼二は興奮冷めやらぬ状態だった。

「おい、お前らちょっと浮かれすぎだぞ。俺たちがやってんのは暴力に暴力で対抗することだ」

 吉川さんが珍しくきつい口調で言う。

「いわゆる暴力の連鎖だ。やってることは襲撃者たちとそれほど変わんねぇ。この連鎖は放っとけば両方が共倒れになるまで続くんだ。喜ぶのは外から俺たちを眺めてるチームだけさ。連中はマウントクリークのことを他チームを襲う暴力愛好家の集まりとしか見なくなる。それでいいのかよ?」

 あたしらは冷水を浴びせられたようにシュンとなった。

「まぁ、そりゃー でも何もしなきゃ一方的にやられて終わりだし」

 礼二が少し苦しげに反論する。

「相手に対抗するにもやり方があるってことさ。相手をぶっ潰しゃいいってもんじゃないだろ?」

 吉川さんの追うことももっともだ。あたしはなんだか父に怒られているような気がしてきた。

「うちのチームにだって暴力好きはいるさ。まぁ人間誰しもそういう面を持ってるしな。スカッとしたい。内側に溜め込んだものを吐き出したいのさ。まぉその気持ちも分かる」

 礼二は神妙な顔で聞いているが、納得できていないのは明らかだった。

「でもさ、今日だって俺たちがいたから助かった連中もいるんだし。身の安全は綺麗事じゃ買えないんじゃないすか?」

 車を走らせる吉川さんは、前を見据えたまましばらく口を閉ざす。そしてポツリと言った。

「俺、下に弟がいてさ」

 車窓に流れる車のヘッドライトと赤い尾灯。警察情報も入ってこない。カーラジオもつけず、ただ話し声だけが車内に響く。

「車椅子なんだよね」

 あたしと礼二は何も言えずに吉川さんの言葉を持つ。

「チーム同士の争いでさ。バイクで走ってる時に襲われて。ガードレールに突っ込んだんだ」

 吉川さんの淡々とした口調が胸に染みてくる。

「やった、やられたを繰り返してさ。弟も相当無茶やってたからな。まぁ最近は本人もその辺が分かるようになってきて、自分でも因果応報だって笑ってるけど」

 吉川さんは正面を見据えたままハンドルを握る。

「行き着くとこまで行くとそうなっちまうって話だ。いいも悪いもねぇんだよ。そこまで行かないとやめられない奴らは多い。お前ら、そんなふうになりたいか?」

 あたしと礼二は小さく「やだ」と呟いて首を振る。

「まぁ弟は命までは落とさなかった。弟をやった奴は結局抜け出すきっかけがつかめなかったんだろうな。そのまんま街の半グレを続けて、最後は薬の過剰摂取で死んだ」

 信号待ちで車が停まる。吉川さんはちょっと鼻の頭を擦ってあたしたちを見る。

「仲間を守るのはいいことさ。間違いない。だから俺も手伝う。でも誰かを罰するのはお前らの仕事じゃない。誰かを傷つけるのもそうだろ?誰にもそんな権利ないのさ。お前らが鬼人だろうがなんだろうがな」

 先程までの高揚感はどこへやら。あたしと礼二は黙って自分の手元を見つめるばかり。

「お前らは今日よくやったよ。仲間を危険から救った。自分たちがリスクを背負ってな。でも警察に捕まりゃお前たちもただじゃ済まない。この正義の味方ゲームには落とし穴がある。お前たちは悪人を叩きのめす快感に囚われてそこから逃れられなくなっちまう。悪人を探し求めるようになり、最後には自分の大事なとこまで毒されちまうんだ」

 後から考えると吉川さんのこの忠告は本当にありがたいものだった。こうやって釘を刺してくれなかったら、あたしたちは間違いなく正義の味方病に冒され、自らを滅ぼしていたにちがいない。

「今日は家に帰ってよく考えろ。親や兄弟の顔見て、自分が何をしたのか、これからどうするかを考えるんだ」

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