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寒い国から来た鬼類  作者: 弐乃
第10章 鬼類、ダンスを踊る
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エピソード龍美・19

 いつの間にか礼二も着替えている。深緑色のアイマスクに同色のベレー帽とジャンプスーツ。

 礼二は長めの茶髪をベレー帽に押し込み、竹刀を手に取る。

「姉御、バイクの右後ろにホルダーを付けてますから竹刀はそこに挿して下さい」

 なるほど、こんな小細工してるのか。あたしは言われた通り竹刀をホルダーに収める。

「姉御、このバイクはライトもウインカーもついてるんですが、襲撃者を発見したら相手に気取られないように無灯火で走りますから。ほら、タンクの脇に小さなスイッチがあるでしょ?そのスイッチでウインカーとテールランプもオフにできますから」

 鬼人種であるあたしと礼二はかなり夜目が利く。満月の月明り程度の明るさがあれば運転に問題はない。

「でもなぁ、一応あたし警察官の娘だよ?それが無灯火で偽装ナンバーのバイクに乗るとはなぁ。警官の姿が見えたらあたし速攻逃げるからね。それにさ、ヘルメット被るんだからマスク要らないんじゃないの?」

「ヘルメット被ると視界が狭まるし感覚が鈍るでしょ?俺ら鬼人は着用義務ないし」

「無くても被るもんでしょ?普通。とにかく警察に注意よ?父さんの顔潰したくないんだ」

 礼二は心得たとばかりに親指を立て、ヘッドセットを手渡してくる。

「こいつで常に情報を入れてもらいますから。吉川さんともう一台応援のクルマが走るんで。襲撃者情報と警察情報の両方ね」

「おお、任せて」

 吉川さんもやや興奮気味の顔でサムアップ。

「じゃ、行きますか姉御。マウントクリーク鬼人隊、出発!」

 礼二がキックペダルを蹴り込んでエンジンをスタートさせる。今さら「やーめた」とも言えない。あたしはエンジンスタートさせる。小気味よい二気筒ツーストロークエンジンの音が響く。

「姉御、聞こえてますか?」

 イアフォンから礼二の声が聞こえる。びっくりするくらいクリアな音色だ。

「目茶苦茶よく聞こえるよ」

「でしょ?メンバーに電気関係得意なヤツがいるんで出力上げてるんですよ」

「え、それも違法なんじゃないの?」

「まぁまぁ、細かいことは気にしないで。行きますよ?姉御、ついてきてください」

 礼二はカツンとクラッチを合わせるとロケットスタートを決める。あたしは慌てて後を追う。

「さすがっスね姉御。俺について来れるやつあんまいないんだけど」

「ちょっと調子に乗らないでよ。あんた無免なんでしょ?未成年が人身事故でも起こしたら親の人生潰しちゃうよ?」

「大丈夫ッス。特例運転申請してあるんで」

 礼二もかわいい顔して意外と抜け目ない。夜とはいえまだ早い時間帯。少し大きな通りは車も歩行者も多い。基本、礼二はメイン通りでなく、一本奥に入った道を走った。

「襲撃者はメイン通りには出ませんからね」

 それもそうだ。町中を一廻りすると、礼二は目立たない路地裏にバイクを停める。

「お見事なライディングです、姉御。あれなら警官も心配無し。あっという間に巻けますよ」

「気を抜かないでよ。鬼人警官だっているんだから」

「ご安心を姉御。この辺は鬼人警官が夜廻りすることありませんから」

 あたしはエンジンを切り、一旦バイクを降りて腰を伸ばす。

「ふーっ、この後どうする?」

「一息ついたらもう一回りして今夜は終わりにしますか」

 時折無線に見回り担当の報告が入る。今夜はこの付近を3チームが見回りしているらしい。

「今日まだ火曜ですしね。なんか襲撃者の連中週末になると元気になってくるんですよ」

 礼二が差し出すチューインガムを受け取り口に入れる。

「ま、何も無いならそれに越したこたないんですけど」

 あたしはバイクのシートに横座りして、礼二の話すマウントクリークメンバーの笑い話しに耳を傾ける。礼二は話上手で相手を飽きさせない。あたしは夜の路地裏で抑えた笑い声を上げた。

「しっかしあんたも口達者だね。言われるでしょ?口が上手いって」

「言われませんよ。あ、でもたまにお前口だけだなって言われるかも」

 夜の街並みを眺めながらダベる二人を、無線のザップ音が遮る。

「ヒット!出た!出たぞ!ヒットした!」

 あたしたちは体を硬くして無線に耳をそばだてる。

「囮に食いついてる!四丁目の四葉ビルヂングの角辺り!三丁目方面へに向かってる!」

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