エピソード龍美・4
ミカの所属するチームの名は「海猫」という。ダンス好きが集うツイスターズに分類される。
確かにメンバーを見渡すと革ジャン&ブーツスタイルは一人もいない。二十人以上いるのだから一人くらい乾き物系のファッションがいてもいいと思うのに。グループの同調圧力とはこういうものだろうか。
乗り物も車とスクーターのみ。派手なピンクのオープンカーや、バックミラーを数十個もくっつけたスクーターがズラリと並んでいる。服も乗り物もお金がかかってるなという感じ。昔の暗黒街のギャングのように、靴を汚したたり、車に掠り傷をつけただけで射殺されてしまいそうだ。
海猫の面々はパフォーマンスの準備に入った。男はダンス用のリノリウムマットや音楽用の機材のセッティング。女はお化粧に余念がない。お化粧ってこんなふうに屋外で人に見られながらやるものだっけと思いながら眺めていると、おや、男も化粧している。
「ファンの期待を裏切れないからね。いつもかっこよくてハンサムなダンでいなきゃ」
ダンが真顔でいう。ミカが、
「ファンよりあたしを大事にしてよね」
とこちらも真顔だ。ミカはもはやライトな歌舞伎顔と言っていいくらい濃いメイクだ。衣装に化粧、アクセサリーと随分とお金がかかっていそうだ。高校生のお小遣いでまかなえるのだろうかと心配になる。
ダンがあたしにキメ顔を向けながら、
「子猫ちゃん、僕のダンスでハートを奪われても責任持てないぜ?」
どう答えればいいのだろう。これが弟なら「あんた馬鹿じゃないの?」と頭を張り倒してやるところだが、こいつはそうもいかない。一応同級生の彼氏さんだし、あたしの中の鬼虫がこいつは面倒臭いぞと告げている。
「楽しみにしてます」
と控えめな愛想笑いを浮かべておく。
しばらくするとミカがあたしの肩を叩く。
「見て、ルミ。ほら、あそこ」
ミカはこっそり見咎められないように指をさす。革ジャンの一団。男女半々といった感じで、みんな大きなバッグやケースを抱えている。
「マウントクリークっていう名前のバイカーズよ」
ミカの口調が苦々しいものになっている。横からダンが口を挟む。
「あのチームさ、うちにちょっかい出してくるのは。メンバーに鬼人がいるからいい気になってやがるんだ」
ダンも敵意剥き出しだ。鼻をクンクンさせて鬼風を確かめなようとしたが何も感じない。
「どの人が鬼人なの?」
「ほら、あいつ。あの細っこいの。サングラス掛けたのの隣にいる奴」
「あの子が?」
ダンがいうメンバーはグレーのコットンパンツにサスペンダー姿の少年だった。十四五歳といったところか。弟と同い年くらいに見える。髪形はビシッとリーゼントを決めているが、そのあどけない顔に邪気のない笑顔を浮かべている。
ダンが忌々しげに、小声で毒づく。
「小汚ねぇバイク野郎がいい気になりやがって」
あたしから見ると革ジャンはもちろんブーツもピカピカだし、みんな爪も綺麗に切ってるし、髪にもちゃんと櫛が通ってるし、むしろ海猫メンバーにはちょっと身だしなみがなってない人もいるみたいだけど。
あたしは近くの自動販売機でオレンジジュースを買い、喉を潤しながら集まってきたチームの様子を眺めてまわる。バイカーズとツイスターズと言ってもやはり各チーム個性があるようで、一括りにバイカーズだ、ツイスターズだと区分するのは難しそうだ。各チーム、バイクかダンスかではなく自分たちの色、自分たち独自のチームカラーを大事にしているようだ。
そうこうするうち、ポツポツとダンスを始めるチームが出てきた。
「うちのチームはこの中じゃメイン格扱いなの。焦って踊り始めるのは新入りさんとか人気のないチームなの」
ミカは偉そうに小鼻を膨らませながら言った。




