よく似た二人
ノウアル■■ハ■■■■■
「能ある鬼は角隠す」ね。うん、これは簡単。
キフウ■■■■■■■■■
「鬼風凜々玻璃の玉」?それとも「鬼風堂々気宇壮大」?
「虹原さん、二年の人が来てるけど」
クラスメイトから声をかけられ、一年星組の教室の自席でクロスワードパズルをやっていた直生はパズル雑誌を閉じると立ち上がった。
「うぉーい、虹原」
坂田之山竜興だった。直生に普通に声をかけてくれる数少ない生徒の一人。
星組の生徒たち、廊下を行き交う生徒たちが何事かと、まるで触手を伸ばすように鬼風を向けてくる。
自分たち二人に好奇の風が吹くのは当然だろう。神無月孤狼で起こった決闘事件はみんな知っている。六人の生徒が停学処分となり、事件の中心人物二人はまだ停学が明けていない。
いや、一人は停学処分が受けてすぐ自主退学してしまったんだっけ。世事に疎い直生でもそれぐらいは知っている。
錬成館での神無月孤狼は期間終了を待たずに中止となった。交流事業始まって以来初の事らしい。
耳の早い塾生たちは、神無月孤狼で何があったかもうみんな知っている。学生というもの基本愛校精神盛んなものだが、今回ばかりはみな口をつぐみ、明確な意見表明をする者はいないようだ。影では色々と言い合っているのだろうが、直生の耳にはそういった話しは届かない。
もちろんのこと、誰も直生には神無月孤狼の話題など振らないし、詳細や裏事情を尋ねられることもない。
直生と竜興は処分されていないことからも分かる通り(竜興は部活停止処分中だが)、学校当局は二人を無罪、あるいはごく軽微な校則違反を犯した生徒として扱っている。
そのことは当然他の生徒にも伝わっているのだろうが、誰もが直生と竜興を避けているように感じられた。
もっとも避けられたからといった何か実害があるわけではない。竜興は部活やクラスに親しい友人が大勢おり、避けているのは竜興をよく知らない生徒たちだ。
直生は直生で、避けられたところで今まで通りだと言うだけのこと。頑固で扱いづらい虫を飼う、頑固でちょっぴりエキセントリックな不思議な性格の鬼娘という扱いに変わりはない。
そんな直生なので、普段学校の休み時間は独り本や小説を読んでいることが多い。お陰様で学業成績は悪くないし、好都合だと割り切っている。
「どしたの?」
直生が聞くと竜興は小声で言う。
「向こうで話そうぜ」
肝の座ったタイプの竜興も、周囲の雰囲気にプレッシャーを感じているようだ。特に恥じるような話でもないはずだが、やはり直生と違って竜興は場の空気や相手の虫の居所を読むことに長けている分、周囲の風が気になるのだろう。
教室を出て廊下の端まで移動する。
「いやさ、昨日電話があってさ、千歳川から」
あぁ、あの新聞部の人かと直生は、
「電話?まだ取材されてるの?」
竜興は苦笑い。
「違うって。俺、千歳川と付き合おうかと思ってさ」
「えっ?竜興が女子と付き合うって何かイメージなかったなぁ。しかも錬成館生とはね」
竜興は、
「そりゃこっちのセリフだって。俺も虹原に彼氏ができるとは全然想定してなかったし」
二人はそれもそうだねとお互いに苦笑いを浮かべる。
「でさ、今週末出かけることになってんだけど、お互い外出許可取るの面倒だろ?特に今は神無月孤狼の事もあるし。俺も部活停止中の身だしな」
「確かにね」
「だからさ、向こうは甘味研究会の案件ってことで外出するらしいんだ。甘味研究会はほぼ外出フリーらしくて」
竜興の言いたいことが何となく分かってきた。直生の顔が輝く。
「雨道も来るからさ。虹原も一緒に来ないか?」
「行く!」
竜興がニヤリと笑う。
「甘味研究会の顧問の先生がさ、常八代先生の知り合いなんだって。外出許可出してくれるように頼んでくれるってさ」
「キヤッホー!サンキュー竜興!」
竜興は口調こそ渋いもののどこか嬉しそうな表情で「俺、一応先輩なんだけどなぁ」と言う。直生は、
「ありがとうございます、竜興先輩」
と敬礼してみせた。




