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寒い国から来た鬼類  作者: 弐乃
第9章 鬼類、他校生と交流す
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エピローグ2

「ちょっとシュンカ、あなた使用前使用後みたいに分かりやすく元気になってるじゃない」

「そうですかね、ハハハハ」

 鏑矢先生の皮肉も気にならない。人の心理状態というのはこんなにもコロッと変わってしまうものなのか。我ながら驚きだ。というかまだまだまだ鍛錬が足りてない。いついかなる場合も平常心を保たなきゃ。うん。

 ご挨拶もそこそこに道場に行って直生と久しぶりの押し相撲を愉しむ。第三者的に眺めてみれば、浜辺でキャッキャッと戯れる若い恋人たちといった図で、正直見ていられないだろうことは想像がつく。ま、いいか。僕と直生は全く気にならないし。

「はぁ〜、砂漠を旅してようやくオアシスにたどり着いたって感じ。シュンカの風が染み渡るよ」

「うん、僕もバイクで向陽台まで行こうかと思ってたんだ。甘味研究会の用事にかこつけてね」

「あっ、それいいかも。あたしも親が会いに来てますってことにするし」

 お互い「彼氏彼女に会いたいので」では外出許可を得るのは難しい。

 今回の決闘事件のこともあり、僕は錬成館館則を月夜さんに手伝ってもらって熟読。錬成館館則には男女交際を禁止する条項はないことを確認済み。「節度ある関係を保ち鬼道、学業に支障の出ぬよう心がけるべし」とある。はい、もう心がけますとも。

 但し、その条項には続きがあり、「生活乱れ鬼道精進不十分と認める場合は放校とす」とある。トビーさんによると院外の彼女に入れ上げて退学となった館生もいたらしい。

「海外遊学してるわけじゃあるまいし、あんたらまだ離れて二週間だよ」

 鏑矢先生が呆れたように言う。ユウトとミムラはいつものように楽しそうなニヤニヤ笑い。虹ヶ原さんも苦笑を隠せないでいる。

 虹ヶ原さんが説明してくれたところによると、

「今回のこともあって、せっかくだし途切れていた親戚付き合いをまた始めましょうということになって」

 直生を今回の合宿に招待したのだという。いや、虹ヶ原さんさすがは白金級長、素晴らしいお考えだ。

 ひと練習終えて沐浴させていただき、夕ご飯となった。

「やぁやぁ、みんなよく来てくれた。美緒が本当に世話になって。これからもよろしくお願いするよ」

 満面の笑みで僕らにお礼を言ってくれるのは、虹ヶ原さんのお祖父さん、虹ヶ原家総帥にして鬼士院代議員、虹ヶ原勇太郎さんその人だ。

 勇太郎さんはもう美緒さんが可愛くて仕方ないらしく、

「美緒も彼氏ができたらすぐジィに教えておくれよ?ジィが間違いない人物かどうか、きちんと見極めてやるから」

 などと言って目尻を下げている。虹ヶ原さんとミムラの手合わせの件は、光の速さで館内に広まり、音速で院内中に広まった。そして雷鳴のごとく鬼門全体に伝わり、虹ヶ原家の人々も虹ヶ原さんがミムラから一本取った話しは知っているようだった。

 勇太郎さんは、たとえ対戦成績で圧倒的に分が悪くとも、期待の孫が鬼類コンプレックスを打ち破り、再びミムラに挑んだことがもう嬉しくて嬉しくてならないようで、

「勝ち負けはどうでもよいのだよ、美緒。結果的にこうして直生さんや甘味研究会の皆さんを我が家に招いてくれたことがジィは嬉しい。うんうん」

と焼酎の梅酒割りで赤くなった顔をクシャクシャにしながら目を潤ませた。

 そうだ。今ここには鬼人、鬼類、大和民が集っている。鬼道大戦勝利派と敗戦派、錬成館教諭と生徒。名鬼門の令嬢たちと北にある寒い国からやってきた鬼類がおり、里からの留学生もいる。

 多種多様な背景を持つ人々が一つの卓を囲み、歓談し、食事し、笑い声を上げている。なんて素晴らしいんだろう。

 そして横には直生がいる。そよそよと虹色の風をそよがせながら微笑む直生。


 でもー


 僕は錬成館という列車に乗り合わせた乗客の一人に過ぎない。いつか列車は駅に着き、乗客たちはそれぞれの道へと分かれていく。

 今この瞬間、同じ車両に乗り合わせたことは多分奇跡。僕たちの道はすぐに分かれていくに違いない。

 直生がそっと身を寄せてくる。温かなものが互いの体を生き来する。

 とりあえず、今はこの時を楽しむとしよう。


 『第9章 鬼類、他校生と交流す』  了

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