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寒い国から来た鬼類  作者: 弐乃
第9章 鬼類、他校生と交流す
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ドーナツと涙

 虹ヶ原さんは僕とも押し相撲勝負を所望した。うわぁ、負けたらなんか格好悪いなとか思いながら(ミムラから顔に出てるよとからかわれた)勝負に臨んだが、ちょっと意外なことに僕が三連勝してしまった。

「うわー、押し相撲でも虹ヶ原さんに勝つって気持ちい〜」

 こういう時は素直に喜んでおくに限る。気を遣われるの絶対嫌だろうし。虹ヶ原さん苦笑しながらも、

「むぅー 悔しいなぁー なんなんだろう、この妙な劣等感は。とにかく今日は勝つまでやるので。鏑矢先生、次お願いできます?」

と意外と負けず嫌いな一面を見せる。

 鏑矢先生「えー、あたしぃ?弱いんだけど」

と言いながら虹ヶ原さんと向かい合う。結果は虹ヶ原さんの三連勝。虹ヶ原さん、喜ぶと言うよりホッとした様子だ。

「先生には失礼な言い方ですけど、やっぱり鬼人はやりやすいですね。それに引き換え鬼類三人はやりにくいなぁ」

「シュンカは鬼人だよ、変わり者だけどさ」

とツバメさんが突っ込む。手には揚げたてのドーナツ。チョコがまだ固まってないので垂れないように大口を空けて下からかぶりついている。

「なにようシュンカ、せっかく訂正してあげてるのに。なに?この人すごい大口開けてるよって顔は」

 確かにそう思ったけど。でもたまにこうやって鬼類に間違われることがある。やっぱり甘味研究会って鬼類三人組のイメージなのかな?

「ごめんなさい。いつも一緒に練習しているからなのか、なんだか雨道君の鬼力の出し方って独特というか、鬼類っぽいというか。もちろん鬼類の二人と戦ったのも今回の組手ぐらいだし、私の勝手なイメージなんですけど。ごめんね、雨道君」

 いいよそんなのと答えておく。でもそんなに僕の風合いって変わってるのかな。なにせ僕も他の人との対戦経験が乏しいのであまり実感がないというのが本音だ。

「でも私が雨道君と話してみたいと思ったのはそれがきっかけなの。鬼類という存在。鬼人という存在。そのどちらでもない人がいるって思ったの。ごめん、変な言い方で」

 鏑矢先生も粉砂糖たっぷりのドーナツにかぶりつきながら頷く。

「虹ヶ原さんが言いたいこと分かるな。シュンカって鬼人ぽくないっていうか、いい意味で里人の感覚のまんまなんだよね。鬼風の扱いも鬼人と違うし。かといってユウトとミムラにそっくりかというと、これまたちょっと違うんだよなあ」

「私もそう思います。いろんな意味でとても個性的な人だなって」

 月夜さんにまでそう言われると照れ臭いを通り越して、なんだかこの場を逃げ出したくなってくる。皆から褒められたり注目されたりすることに慣れていないから。

「僕はそんな大層なもんじゃないよ。流れのまま、流されるまま、あるがままさ。抗ったところで運命を変える力なんて僕にはないからね」

 虹ヶ原さんは紙皿に置かれたドーナツを手に取る。小さく齧る。

「美味しい」

 そう言って俯く。

「私、普段は甘いものを食べないんです」

 虹ヶ原さんはもう一口ドーナツを齧ってから懐紙に包む。

「甘いものを我慢して、朝早く起きて稽古して、勉強して、また稽古して」

 虹ヶ原さんの目が潤んでいる。みんな掛ける言葉が見当たらない。

「それでもみんなには勝てなくて。あぁ、私の日々って何なんだろうって」

 僕は静かに言った。

「虹ヶ原さん明日も放課後ここに来れば?」

 虹ヶ原さんが目を上げる。

「なんか偉そうなことを教えられるわけじゃないし、虹ヶ原さんの悩みを解決できるわけでもないけど。押し相撲、付き合うからさ」

 虹ヶ原さんはしばらく黙ってテーブルを見つめていたが、やがてドーナツを懐にしまうと、

「ドーナツをご馳走様でした。明日またよろしくお願いします」

と頭を下げ、静かに部室を出て行った。


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